第5話 羨ましい・・・のか?
タオルの差し出された方を向くとそこには女の子が立っていた。彼女の名前は鎌田羽紗。羽紗と書いて『つばさ』と読む。背は俺よりも少し低く、黒髪のショートカットで前髪は目元が隠れるくらいに長い。少し幼い感じながらも平均以上に可愛い顔立ちを隠している。クラスメートで俺の隣に座っており、入学式の日に話した際名前の読みが同じだという事に気付き、それ以来辿々しくもよく話すようになった。星雲高校に入って一番初めに出来た友達だ。
「あ、鎌田さんありがと!」
「は、はい・・・」
俺のお礼の言葉に羽紗は僅かに頬を赤く染めて弱冠うつむき加減で答えた。この辺俺以外に対応する時の彩香に少し似ているかもしれない。羽紗に差し出されたタオルを受け取った後、俺はふとした疑問を感じ口を開いた。
「そういえばさ、このタオル借りちゃったけど、鎌田さんの分はちゃんとあるの?」
「あ・・・あ・・・」
羽紗は小さく手をばたつかせ、少し焦ったように口をパクつかせる。そんな羽紗を見て話が続かないだろうと思い助け舟を出すことにした。
「もしかして、忘れてた?」
「・・・」
羽紗は返事をするかわりにコクッと首を小さく縦に振った。なんとなく子犬を連想させる羽紗の仕草に笑みが零れそうになる。
「それじゃ俺のタオルが教室にあるから、それ使って?鎌田さんが走り終わるまでには取ってくるから」
「あ、ありがとうございます」
そんな事を話していると黄色い声が聞こえてきた。いや、先程から聞こえていたのだが敢えて無視していたのだがそんなの関係ない。ちなみにこれはかの一発屋の登竜門と噂される流行語にノミネートされた某芸人のネタとはもちろん関係ねぇ。
そして、そんな黄色い声の中心にある姿を認め俺は視線はそのままに、呟きに似た言葉を漏らした。
「うわ〜相変わらず凄いな・・・」
「は、はい・・・」
羽紗からしても凄いと感じるらしい。その光景は入学式からまだ一週間ほどしか経ってないが既に見慣れたものになってしまった。女の子に完全に囲まれている水希。人間の適応力って凄いな。うん。
「聖徳太子ってあんな感じだったのかな?」
「え・・・?聖徳太子・・・ですか?」
「あ、いや・・・あんな人数に一斉に話しかけられてよく対応出来るなってな」
「そ、そうですね」
我ながら見当違いな感想。それに律儀に反応する羽紗。徳川家康も真っ青の律儀者だ。そんな会話とも取れないような会話をしているうちにもう一人の女の子が会話に参加してきた。
「つぅちゃん〜そんな羨ましそうな顔してど〜したのぉ〜?」
「彩香!?そ、そんな顔してないって!!!ね?」
「え、私には・・・」
ちょっと動揺してしまったのを隠そうと話を羽紗に振ってみたが案の定の反応。それを勝手に肯定と解釈して話を進めてしまう。
「ほら、鎌田さんだってそんな顔してないって言ってるじゃないか」
「え・・・そうなの?う、うん、分かった!」
だいたいの事なら無条件で信じてしまう。彩香のこんな単純な所は好きだ。
少しだけ将来を心配してしまうけど・・・
次回予告
第6話 婚約解消!?
ぐすっ、じゃあ、婚約解消っていうは・・・?ぐすっ、ぐすっ