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レインハイトと魔法の門  作者: アマノリク
第一章 〜呼び覚まされた異分子〜
8/64

旅立ち

  魔導歴一六二年 氷の月(三の月)


 それからというもの。レインハイトは時々、ロイとエリドに稽古をつけてもらえることになった。何故か若干興奮したエリドからの半ば強引な申し出ではあったが、剣術を学びたいと思っていたレインハイトとしては正に願ったり叶ったりであり、無論、その好意には全力で甘えることにしたのだった。


 そして、そんな風に人気のあるエリドやロイと仲良く修行をしていたお陰なのか、最近では村の大人たちに誘われて森へ狩りに出たりもしており、徐々にだが他の村人達にも信用してもらえてきたようだ。

 剣術や魔法の鍛錬に加え、フェアリード家の家事手伝い、全村規模で行う魔物の定期討伐などなど、レインハイトはそんな充実した生活を楽しんでいた。唯一、武器の具現化の鍛錬だけが上手く行っていないのが残念な点だろうか。

 そうして楽しく日々を送っている内に時は駆け足で過ぎて行き、レインハイトが長耳族の村に住み始めてから、早くも十ヶ月程度が過ぎようとしていた。


 そんなある日の夕食後。皿を洗い終えたレインハイトがテーブルに戻ると、何やら真剣な表情でシエル一家の一同が集まっていた。族長であるマルスも一緒である。


「どうしたんですか? みんな集まって」


 この十ヶ月でフェアリード家に慣れてきたレインハイトは、家族の問題だ、と遠慮することが少なくなっていた。


「レインハイトも座りなさい」


 エリドに言われ、レインハイトは空いているシエルの隣に腰掛けた。例の一件以来、剣術や魔法の鍛錬のせいであまり話す機会もなかった所為か、シエルとは少し気まずいままである。何故か話しかけても素っ気ないというか、少し避けられているようなのだ。


 隣に腰を下ろした直後、心なしかシエルが椅子の距離を空けた気がしたが、気のせいだということにしておいた。追求したところで自分が傷付くだけだということを、レインハイトは理解しているのである。


「うむ。全員集まったようじゃな」


 レインハイトが着席したのを確認し、マルスが満足そうに頷いた。「全員」の中に自分が含まれていることに胸の奥が暖かくなるのを感じつつ、レインハイトは静かに家族会議の行方を見守ることにした。

 神妙な面持ちのエリドがマルスの顔色をうかがい、マルスはエリドの視線に頷きを返した。しばしの沈黙の後、エリドが切り出した。


「……シエルをアイオリア魔法学院に通わせようと思う」


 魔法学院。はて、一体どんな施設なのだろうか。聞いたことがあるような無いような……とレインハイトが首をひねっていると、シエルが音を立てて勢い良く椅子から立ち上がった。


「お父さん! 本当!?」


 エリドが頷くと、「やった!」と嬉しそうにシエルが飛び上がった。魔法学院と言う名前からして、魔法を学ぶ学校といったところか。

 シエルは魔法を使えるから、きっと学校に行きたいとエリドにせがんだのだろう。自分が自然魔法を使えないことは重々承知しているのだが、少し羨ましく思うレインハイトであった。


「シエルはまだ十三になったばかりですよ? ……まあ、私もそのくらいの年には魔法学院に通っていたのであまり強くは言えないけど……でも、やっぱり少し早すぎるんじゃないかしら」


 ここで難色を示したのは、意外にもミレイナだった。レインハイトは、てっきり彼女も賛成するものだと思っていたのだ。

 ミレイナは貴族の出身であり、現在は現役を退いているが、魔道師だったらしい。シエルの魔法の才能がミレイナに依るところが大きいだろうということは明白だ。シエルに魔法を教えたのも彼女であり、そんな彼女からすれば、己の娘が魔道師として魔法を学びたがるというのは、本来嬉しいものなのではないのだろうか。


「ここから王都までは遠いし、ほら、シエルはハーフエルフでしょう? それでいじめられたりするかもしれないし……」


 しかし、ミレイナが次に付け足した言葉を聞いたレインハイトは拍子抜けした。どうやら、彼女はただ単にシエルを心配しているだけだったようだ。

 シエルはそんなミレイナの言葉を受け「お母さん心配しすぎ!」と顔を赤くして怒っている。親の心子知らずと言うやつだろうか。


 難儀なものだ、とレインハイトは傍観者を気取っていたが、それも長くは続かなかった。ミレイナの発言を受けたエリドが不敵に微笑み、レインハイトに視線を向けた。


(嫌な予感がする……)


 と、レインハイトは身構える。


「そこでだ。レインハイトにシエルの護衛を頼もうと思う」


 エリドの放った言葉を、レインハイトは理解できなかった。呆気にとられるその表情は、さぞ滑稽に映っていることだろう。

 レインハイトを置いてけぼりにする形で話は進んでいった。


「レインくんが護衛……? ロイではなくて?」


 ミレイナが驚きで目を見開きながらエリドに尋ねた。


「ロイには村の仕事があるからな」


「そいつはいい案だ。母さんは知らないだろうけど、レインは俺と親父が『剣術』の稽古付けてたんだ。これがまた化け物みたいな強さでさ、この前なんか俺と親父から普通に一本ずつ取ったんだぜ? まだ剣を始めて一年も経ってねえっていうのに、信じられるかよ?」


 と、それまで黙っていたロイが嬉しそうに話し出した。


 ロイはレインハイトに頻繁に『剣術』の稽古を付けていたこともあり、レインハイトの成長を誰よりも喜んでいた。レインハイトがこの十ヶ月間で最も仲良くなった人物は、間違いなくロイだろう。


 つい先日のことだ。確かに、レインハイトはエリドとロイに一回ずつ勝利した。日々の鍛錬の成果だろう。決して自惚れているわけではないが、レインハイト本人も己の『剣術』の腕が成長しているのを自覚していた。無論、楽な修行ではなかったが、だからと言って辛いからやめようと思うことはなかった。自分から言い出したことではないにせよ、レインハイトはロイとエリドには深く感謝しているのだ。


「それは頼もしいのう。この村でエリドとロイに勝てる者などそうおらんからな」


 マルスが長い顎鬚をいじりながら楽しそうに言った。

 この様子だと、シエルの魔法学院行きはミレイナ以外全員賛成のようだ。


「お祖父様まで……! ……わかりました。許可しましょう」


 ようやく諦めたミレイナは大きく息を吐き、シエルの入学を許可した。「やったあ!」と小さく跳ねるシエルがレインハイトに笑顔を向ける。

 てっきりあの一件以来嫌われたものだと思っていたため、レインハイトは不意を突かれ、笑っているのか困っているのか判断しがたい微妙な表情を返してしまった。


「では、来月までに到着するよう学院に知らせを送っておきます。……入学式にはギリギリ間に合わないかも知れないけど、推薦状も書いておくから、恐らく問題なく入学できるはずよ」


 ミレイナはシエルに向けてそう言った後、レインハイトに顔を向けた。


「……でも、レインくんはいいの? どうせお父さんかロイ辺りに無理に頼まれたんでしょ?」


 あながち間違ってはいない。この話は一応エリドが事前に頼んできていたことであった。彼は断ってくれてもいいとは言っていたが、世話になっている立場なので快く了承しておいた。

 レインハイトとしても、王都には以前から行ってみたいと考えていたこともあり、特に断る理由もなかったからだ。エリドが不敵に微笑みかけてきた時にはピンとこなかったが、話を聞いているうちに理解が追いついた。


 ただ、レインハイトはてっきりこの話は冗談だと思っていたのだ。エリドが切り出した時に間抜けな表情をしてしまったのはそのためである。記憶の無い怪しい人物たる自分に、娘の面倒を見させるなど正気の沙汰ではない。レインハイトは、そのくらいの覚悟で稽古に励めという激励の言葉として受け取っていたのだが、どうやらこのエリドというエルフは少々クレイジーな父親らしい。


「お世話になりましたし、お役に立てるのならやらせていただきます」


 しかし、正直に冗談だと思っていたなどと本心を吐露するわけにもいかず、当り障りのない返事をしてしまうレインハイトであった。


「良かったなシエル!」


「お兄ちゃんうるさい!」


 ロイが茶化し、シエルが睨む。仲の良い兄妹である。毎度行われるその光景は流石に見慣れてきたところだ。

 いつものように、レインハイトは微笑ましく眺めておいた。下手に手を出して巻き込まれるのは御免こうむりたいからだ。


「レインくんまで行っちゃうなんて……寂しい……!」


「ちょ……ミレイナさん……」


 いつの間にか席を立ったミレイナが、レインハイトにしなだれかった。

 次の瞬間、体に流れた感覚に、ぞぞぞと背筋が凍る。かわいがってもらえるのは嬉しいのだが、変な気分になるので体を撫でまわしてくるのはやめてほしい。レインハイトは身を(よじ)らせて抵抗を試みた。


「ちょっとお母さん! レインは私の護衛なんだから!」


 ミレイナに必死に抵抗していたレインハイトだったが、今度は反対側からシエルに抱きつかれた。ミレイナのものとは違う控えめな弾力が左腕を押し返してくる。

 右に身を捩ればミレイナの大きな弾力が、左に身を捩ればシエルの控えめな弾力がレインハイトを攻め立てた。


「ははは、こらこら二人とも。レインハイトが困っているじゃないか」


 エリドが仲裁に入ったが、その声音が悲哀に満ちているように感じたのはきっと気のせいではないだろう。レインハイトに妻と娘を取られたような気分に違いない。


「親父、元気出せよ」


 と、ロイがエリドの肩に手を置いてニヤニヤしている。あれは慰めているつもりなのだろうか。どう見ても楽しんでいるようにしか見えないが。


「うむ。ではシエルの魔法学院行きは全員一致で賛成じゃな。馬車の手配はワシがしておこう。では、ワシはもう寝るぞ」


 と、騒がしくなり始めた所でマルスが上手くまとめ、家族会議は終了となった。



    ◇



 それからさらに、約一月の時間が経過した。本日の午後、ついにシエルとレインハイトが王立アイオリア魔法学院に向かう事となった。


「やっぱり行っちゃ嫌ぁ!」


「……苦しいです」


 ミレイナにしなだれかかられたレインハイトは、せめてもの抵抗として苦笑いを浮かべた。シエルの荷物と自分の荷物を両手に持っているため、ろくに抵抗ができないのだ。


「ちょっとお母さん! 何で実の娘が村を出るっていうのにレインにしがみつきながら泣いてるの!? 普通私に抱きつくんじゃないの!?」


 シエルも荷物で両手が塞がっており、ミレイナを引き剥がすことができないでいた。

 レインハイトを独占されていることと、娘である自分を蔑ろにされていることの二重苦により少し泣きそうになっている。


「シエルはまた帰ってきてくれるでしょう? でもレインくんにはもう逢えないかもしれないのよ? そう思うと寂しくて……」


「そんな、また顔くらい出しますよ。ですからちゃんとシエルにもお別れしてください」


「……ほんと?」


「本当です。ですから……」


 どうして自分はミレイナさんと今生の別れのようなやりとりをしているのだろう。レインハイトは少々げんなりとしつつ、ミレイナを引き剥がした。少し寂しいが、また帰ってくればいいだけのことだ。

 すると、レインハイトが離れた事により空いた隙間に、すぐさまシエルが飛び込んだ。


「……お母さん。私、頑張るから……」


「よしよし。シエル……愛しているわ」


 泣きつくシエルをミレイナが優しく包み込むように抱擁した。結局のところ、やはりミレイナはシエルの事が一番心配なのだろう。

 シエルが魔法学院に入学することを唯一反対していたミレイナだ。きっと誰よりも娘のことが心配に違いない。

 レインハイトはなかなか離れようとしない母子を静かに見守った。


「レインハイト。ちょっとこっちに来なさい」


 暫くぼーっと突っ立っていると、少し離れた木陰からエリドが手招きをしていた。レインハイトは言われるがままに小走りでエリドの元へ向かう。

 エリドはポケットから巾着袋のようなものを取り出し、レインハイトに手渡した。


 ずしりと重い袋を訝しげに眺めた後、中身を確認すると、金や銀の光を放つたくさんの硬貨がところ狭しと詰められていた。


「少ないかもしれないが、餞別だ。これで王都に着いてからも暫くは食っていけるだろう」


「そんな……こんなにたくさん貰えませんよ……」


 袋には銀貨が多く、ちらほら金貨も混じっていた。見たところトーレ硬貨のようだが、百枚以上あるだろう。トーレ硬貨はここアスガルド王国で作られており、国中のほぼ全域で使用することができる硬貨だ。


 確かにこれだけあれば暫くは食うに困ることはないだろうが、レインハイトはいたたまれない気持ちになった。

 浮かない表情で硬貨を見つめるレインハイトの心中を察したのか、エリドが優しい声をかけた。


「子供が遠慮するんじゃない。それに、これはシエルの護衛を引き受けてくれたことのお礼でもあるんだ。受け取ってくれ」


 レインハイトは困ったように巾着袋を空中で彷徨わせた。こんなことを言われては返しますとは言えない。しかし、このまますんなりと受け取るというのもどうなのだろうか。


「……だいたい、この家の皆さんはおかしいんですよ。こんな記憶のない不審な人間に親切にしてくれて、娘の護衛まで任せてくれて。それに加えてこんな大金まで渡すなんて……頭おかしいですよ。考え直したほうがいいと思います」


 気付けば、レインハイトは溜め込んでいた思いを吐き出していた。


 違う。こんなことが言いたいんじゃない。本当は感謝しているのに。ありがとうございました、って言いたいだけなのに。


 その時、ぽんと頭に優しく置かれたエリドの手によって、レインハイトの空回りはいとも簡単に停止した。

 エリドは優しい笑みを浮かべ、レインハイトの頭を強引にわしゃわしゃと撫で回す。


「……おかしくなんて無い。お前はもう私達の家族なんだ。家族に娘の護衛を任せるのは普通だろう? だからおかしくなんて無いんだ」


「……ありがとうございました。この御恩は忘れません」


 今度は素直な気持ちが言葉になった。必死に涙をこらえながら、レインハイトは精一杯気丈に振る舞う。


「寂しくなったらいつでも帰って来なさい。ここはお前の帰る家なんだから」


「はい。お世話になりました」


 レインハイトは踵を返し、いつの間にかミレイナと離れたシエルと合流した。馬車は村の外に止めてあるらしく、そこまでは歩きだ。


「うー。……重い」


 シエルが疲れたようにうなだれながら呟いた。


「さっきから聞こうとは思ってたんだけど、何でそんなに大荷物なんだ?」


「女の子には色々必要な物があるのー」


「ふーん」


 どこからそんなに物を持ってきたのだろうかというほど荷物が多いシエル。自然、レインハイトは中身が気になった。自分は替えの服(ロイのお下がりを頂いた)と、生活用品を少しだけだというのに、シエルの荷物はその二倍以上はありそうだ。


「ようお二人さん。早速夫婦漫才か?」


 二人で話しながら歩いていると、前方に見知った人物が現れた。


「お兄ちゃん……!」


 声の主たるロイは、不敵な笑みを浮かべ、二人の行く道を遮るかのように立っていた。その手には、物騒なことに真剣が握られている。ロイは腰にも剣を佩刀(はいとう)しており、真剣が合計で二本だ。


 まさか、これを使って今から戦うぞとか言い出さないだろうな、とレインハイトは不安げにロイを見つめた。


「……こいつで真剣勝負だ」


 言うと、ロイが鞘に収まった状態の真剣を渡してきた。レインハイトが受け取ろうか迷っていると、「と言うのは冗談で、俺からの餞別だ」といたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」


 プレゼントだというなら拒む理由はない。レインハイトは素直に真剣を受け取った。差し渡し一メイルほどの、ずしりと重い両刃の直剣だ。基本は両手で扱うものなのだろう。そこそこ値の張る品に違いない。


 この村に来てから色々もらってばかりだ。いつか恩を返さないとな、とレインハイトは胸中で感謝した。


「お前は魔法で武器を具現化できるから真剣は必要無いかもしれないけどさ、万が一の時のために持っていけよ」


「……いいんですか? これ、高そうですけど」


「いいのいいの、俺には重すぎて使えないし。お前なら上手く使ってくれるだろ」


 ロイはおどけたポーズで格好つけながら言った。

 この人はいちいち格好つけたがるからな……とレインハイトは苦笑した。いつも余裕そうで、飄々としている。そんなところに密かに憧れたりしていたのだ。


「わかりました。じゃあ、ロイさんだと思って大事にしますね」


 こういう返しをするとロイは喜ぶのだ。


「おう、壊すなよ。……シエルも、またな」


 ロイは楽しそうに笑うと、シエルの頭を撫で、そのまま帰って行ってしまった。どうやら別れの挨拶はこれで終わりらしい。


「お兄ちゃんったら、最後までカッコつけちゃって」


 シエルは「まあそれもお兄ちゃんらしいか」と呟くと、そのまま歩き出してしまった。

 レインハイトは急いで貰った剣を背中に掛け、慌ててシエルを追いかけた。



    ◇



 馬車に荷物を積み込み、レインハイトはシエルの向かいに座り込んだ。

 いざ御者に出発を告げようかと意気込んだその時、レインハイトは、村の出口にロイを除いたフェアリード一家が集結しているのを発見した。


 別れの挨拶はもう済んだというのに、わざわざ見送りに来てくれたようだ。ロイはあんな別れ方をした手前、恥ずかしくて出て来られなかったのだろう。

 シエルもすぐに気づき、慌てて馬車の窓を開け、顔を出した。


「シエル、レインハイト。気を付けるんじゃぞ」


 と言い、マルスが笑顔で頷いた。続くようにエリドが口を開く。


「シエル、頑張ってきなさい。レインハイト、シエルを頼んだぞ」


 エリドが隣のミレイナの肩に手を置き、互いに頷くと、ミレイナが泣きながら口を開いた。

 まだ泣き止んでなかったのか。泣き虫な母親だ、とレインハイトは苦笑した。


「シエル、手紙書いて送ってね。お母さんシエルならできるって信じてるから。レインくん、シエルと仲良くね。またいつでも帰ってきてね」


 そんなミレイナを見てもらい泣きしたのか、シエルも泣きながら応えた。


「おじいちゃん、お父さん、お母さん……私、頑張ってくる! 行ってきます!」


 御者は空気を読み、何も言わず待ってくれていた。レインハイトは感謝しつつ、シエルの後に続いた。


「皆さん、お世話になりました! シエルはちゃんと送り届けます!」


 レインハイトは御者に出発を告げ、シエルと一緒に手を振った。

 ゆっくりと走りだした馬車は、商隊なども通ることのある、踏み固められた道を進みだした。次第に速度を上げ、村の出口が遠くなっていく。


 シエルとレインハイトは手を振り続け、視界から村が見えなくなってしまったあとも、暫くその手を止めることはなかった。



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