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アイオリア魔法学院入学試験 5−3

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「……そう言えばそんなことを言っていたな」


「……? 何がですか?」


 ぼそりと呟いたレインハイトの言葉を耳ざとく聞き取ったイリーナが、何のことかと首を傾げた。


「いや、俺に勝つとかなんとかって話」


「むむ、もしかして忘れていたんですか? ……流石はダウトさんです。私達のことなど眼中にないということですか」


「そうは言ってないだろう。俺だって周りの連中の成績は気にはなるさ……ただ――」


 そこで一度言葉を切り、レインハイトは不思議そうにくりくりとした目を向けてくるイリーナを一瞥する。流れで話を続けてしまったが、安易に他人と喋り過ぎなような気がしたのだ。


 しかし、ここで強引に話を切り上げるのはかえって不審感を与えてしまうだろう。そう判断したレインハイトは、言葉の続きを口にした。


「今回の試験は、あくまで己の実力を証明するためのものだろう? 適度な闘争心であればプラスに働くこともあるだろうが、他人のことばかり気にしていては、本来の自分の実力が発揮できないのではないかと思ってな」


 無論、現在はクラヴィスから受けた依頼があるため、『ヨシュアの成績を超える』というのがレインハイトの最優先事項だ。今の言葉は、あくまでその前提がなかったと仮定した場合のものである。


「た、確かに……そう言われてみるとそんな気がしてきました……S評価を取っているダウトさんが言うと、ものすごく説得力がありますね」


「人によっては競う相手がいたほうがいい結果を出せるってこともあるんだろうが、見たところ、君はそのような性格ではないだろう? むしろ、他人の成績に一喜一憂しすぎるあまりに自分の試験に集中できなくなるようなタイプだろうな」


「す、すごい。当たってる……ど、どうして分かるんですか?」


「俺には他人の心が読めるのさ」


 薄く笑みを浮かべ、イリーナに告げるレインハイト。


「……ダウトさんって、もしかして意地悪な人なんですか?」


「ほう、良くわかったな。もしかして君も他人の心が読めるのか?」


「もう、からかわないでくださいっ!」


 尚もふざけた態度を取るレインハイトに対し、ぴんと耳を立て、頬を膨らませたイリーナが非難の声を上げる。


 現在イリーナには使用してはいないが、《魔法の門(マジック・ゲート)》に内包された数々の魔法の内の一つである『解析方陣(アナライザー)』を作動させることによって、レインハイトが読心の真似事ができるというのは事実である。


 しかし、そんなことをイリーナが知るはずもなく、彼女はレインハイトの言葉を冗談としてとらえたようだ。


 もっとも、イリーナが本気でそれを信じてしまった場合に困るのはレインハイトの方なので、弄ばれたと憤るイリーナに食い下がるようなことはせず、レインハイトは話を先に進めることにした。


「フッ……悪かったな。だが、君は今くらいに肩の力を抜いて試験を受けたほうが、きっとうまくいくと思うぞ? これは本心からのアドバイスだ」


「むむむ……わかりました。参考にさせてもらいます」


 少し納得がいかない様子だが、他人の成績を気にしすぎていた自覚はあったらしく、イリーナは渋々といった形でレインハイトの提言を受諾した。


「――あっ、そろそろヨシュアさんの試験が始まるみたいですよ!」


「さて、お手並み拝見と行こうか」


 互いに同じ対象を視界に収めたイリーナとレインハイトは、片方は激励の念の籠もった視線を、もう片方は観察するような俯瞰した視線を送る。


 温度差の激しい両者の眼が向けられていることを知ってか知らずか、金髪の美少年――ヨシュアは、試験官であるローレンの説明に耳を傾けながら、静かに集中力を高めていた。


「――今試験は制御技術を測定するものなので、中規模魔法や範囲魔法の使用は禁止です。必ず火球(ファイヤー・ボール)水球(ウォーター・ボール)等の下級魔法を始めとする、制御の習熟度合いがわかるような魔法を使用してください。

 評価に関しましては、一分以内にすべての的を落とせばA評価、二分以内でB評価、三分以内でC評価。三分を超えてしまった時点でタイムアップとし、その場合はD評価となります。説明は以上です。準備はよろしいですか?」


「はい。お願いします」


 すでに集中は済んでいるのか、落ち着いた声音で諾意を返すヨシュア。


「では試験を開始します。……用意――始めッ!」


 ローレンから開始の合図を受けたヨシュアは、すぐさま魔法の構築態勢に入る。直後、ヨシュアを中心とした魔力の渦が巻き起こり、その余波が会場を囲む受験生たちの肌を撫でた。


 詠唱をする気配がないことから見て、先刻の偉そうな少年と同じく、ヨシュアも無詠唱魔法(サイレント・スペル)によって魔法を発動させるつもりらしい。


「――『水球(ウォーター・ボール)』!」


 ヨシュアが選んだのは、直径二、三十センチメイルほどの水の球体を発生させる魔法――水球(ウォーター・ボール)であった。水属性を示す青い魔法陣は等速回転し、世界の情報を改変する。


 虚空より現れし水の塊は、重力に逆らって中空にとどまり、その表面を不規則に揺らしながら直進を始める。最初の標的は固定された五つの的だ。


 ヨシュアの操る水球は、なめらかな動きで立て続けに固定された的を倒していく。無駄な動きの一切を排除した精密な制御技術により、ヨシュアはあっという間に固定された的のすべてを撃破した。


「ヨシュアさん、すごいです!」


「確かにすごいが……思っていたよりも普通だな」


 ぴょこぴょこと嬉しそうに小さく飛び跳ねるイリーナを横目に見ながら、レインハイトはヨシュアの魔法をそう評価した。


 イリーナが称賛している通り、ヨシュアの制御技術は洗練されており、偉そうな少年の縦横無尽の火球に比べて派手さでは負けるものの、的の撃破速度で言えば同等かもしくは上回るほどの好タイムであり、そこに関しては特に文句のつけようはないだろう。


 しかし、ここまでの試験でヨシュアの力量を間近で観察してきたレインハイトからすれば、現在のヨシュアの姿にはどこか違和感があった。思っていたよりも普通……というより、普通すぎるのだ。


 そして、レインハイトの抱いたその違和感の答えは、ヨシュアが次に取った行動によって判明することとなった。


「そろそろもう一つ追加しようかな――『火球(ファイヤー・ボール)』!」


 先に放っていた水球(ウォーター・ボール)に加え、ヨシュアは新たな魔法を起動したのだ。赤く輝く火属性の魔法陣は炎の球を吐き出し、先んじて動く的を追跡していた水の球を追って飛んで行く。


「魔法の複数起動!? ……これは、すでに学生のレベルを超えている……!」


 驚愕の声を上げるローレンを先頭に、周囲で見物していた受験生や在校生たちが騒ぎ出す。

 受験生で無詠唱魔法(サイレント・スペル)を使えるというだけでも規格外だというのに、ヨシュアはその上二つの魔法の制御を同時に行っているのだ。教師であるローレンですら唖然とするほどの技術力なのだから、他の受験生や在校生からしてみれば軽く理解の範疇を超えていることだろう。


「やはり奥の手を残していたか」


 そんな様子を傍から眺めつつ、レインハイトは静かにそう呟いた。

 

クラヴィスがあそこまで執着していた存在であるヨシュアが、通常の受験生たちと同じレベルであるはずがない。そういった考えが前提にあったからこそ、レインハイトは前半のヨシュアの行動に違和感を覚えたのだろう。


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