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アイオリア魔法学院入学試験 5−2

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「チッ……次だ――『火球(ファイヤー・ボール)』!」


 その事態を予め予測していたのか、偉そうな少年はそう動揺すること無く二発目の火球を放った。新たな炎の球は勢い良く直進し、一気に目標へと接近する。


「今のを落とせなかったのは痛いな」


「少しタイムロスになっちゃったね。でも、まだA評価は圏内だと思うよ」


 それぞれ一言づつ呟きながら、レインハイトとヨシュアは二発目の火球を目で追っていく。火球は二つ目の動く的に迫るが、やはり的は先程と同じように上方に移動し、躱されてしまった。


「――そこだっ!」


 だが、少年はそれを読んでいたのだろう。今度はただ通り過ぎるだけでなく、火球は移動した的を追うように上昇し、直後、目標を捉えることに成功した。火球が直撃した動く的は、煙を上げながら力なく地面に落下すると、そのまま動きを止める。


 火球の猛攻はそれだけに留まらず、三つ目の動く的へと肉薄すると、コツを掴んだのか、二回ほど攻撃を躱された辺りで的の動きを捉える事に成功した。


「すごい、連続撃破だ。これでさっきのロスは帳消しかな?」


「ああ。後はこの二発目の火球(ファイヤー・ボール)が魔力切れで消える前に残りを全て落とせれば、無事A評価獲得ってとこだろう」


「うん、ここは踏ん張りどころだね」


 レインハイトに頷いたヨシュアは、わくわくとした表情で火球へと視線を戻した。

 ヨシュアや他の受験生のような若く実戦経験の乏しい魔道師たちは、自身の魔法は嫌というほど見ていても、他人が使っている魔法を目にする機会があまり無い。そのため、純粋に他人の扱う魔法を見ているのが面白いのだ。


 周囲を見れば、ヨシュアと同じような表情で試験場を見つめる者が大量に見受けられる。彼等よりは多く実戦を体験しているレインハイトでもそれなりに面白く感じるのだから、彼等が夢中になってしまうのは無理も無いことだろう。前日の地味な上に待ち時間の長かった魔力測定によってたまったフラストレーションも手伝い、特別枠だけでなく、一般枠の試験場の方も的を一つ捉える度に歓声が湧くような盛り上がりを見せていた。見物に来たと思われる在校生達の姿も昨日より多いようだ。


「すげえ、もう残り二つだ!」


「流石は特別枠だな」


「俺達も負けてられないな!」


 特別枠の試験場を眺める一般枠の受験生たちが、興奮した様子で偉そうな少年の制御技術に驚嘆の声を上げた。とんでもない成績を残すヨシュアやレインハイトが目立ちがちだが、一般枠の者たちからすれば、偉そうな少年の姿も充分優れた能力を持った魔道師として彼等の目に写っているのだろう。


「フッ――これで終わりだッ!」


 そういった歓声に気を良くしたのか、キザっぽい笑みを浮かべた偉そうな少年は魔力を滾らせると、火球を加速させて一気に決めにかかった。勢い良く飛んで行く炎の球体が、残り二つの動く的に突進する。


 勢い任せと言えば聞こえは悪いが、勝負において『流れ』というものは非常に重要な要素である。レインハイトとヨシュアだけでなく、試験前に見下していた獣人のイリーナにまで劣る成績であることに自信を喪失しかけていた偉そうな少年は、この流れに己の命運を賭けることにしたのだ。


 果たして、その結果は――吉と出た。先程よりも生き生きと動き回る火球は、三度ほどの攻防を繰り広げた後に四つめの的を撃ち落とし、ついに最後の的へとたどり着く。それと同時に、会場の盛り上がりもピークに達した。


「落ちろッ!」


 少年の掛け声とともに、彼の操る火球は五つ目の動く的との最終決戦を開始した。やはり最後の的というだけあって一筋縄ではいかないらしく、少年は正面、側面、上下と様々な方向からのアプローチを試すが、五つ目の的はそのことごとくをまるで意思を持っているかのように華麗に避けていった。


 的を外す度に、潮が満ちるかのごとくじわじわとした諦念が少年の心に押し寄せる。火球に込められた魔力もあと僅かとなり、もはやこれまでかという空気があたりに漂い始めた。


「くそっ!」


 しかし次の瞬間、まさかの事態が巻き起こった。自棄になった少年が狙いも定めずに曲げた火球の軌道上に、なんと自ら飛び込んでくるような形で五つ目の的が躍り出たのだ。


 奇跡的な噛み合いを見せた構成要素の違う二つの球体は激しくぶつかりあった後、一方はバランスを崩し地面へと墜落し、もう一方は貯蔵魔力を使い果たし空気中に散っていった。そして――


「――そこまでです。タイムは……五十八秒! よって評価はAとなります」


「は、はははっ……やった! やったぞ!」


 緊張が途切れたことでどっと押し寄せてきた疲労により肩で息をしながら、ローレンから結果を告げられた少年は、歓喜の雄叫びを上げた。偉そうな少年にとっては試験二日目にして初めてとったA評価である、その喜びもひとしおだろう。


「……最後のは間違いなくまぐれだな」


「あはは、そんな意地悪言わないで、素直に褒めてあげようよ」


 偉そうな少年の成績に周囲の観衆も盛り上がりを見せる中、空気を読まず水を差したレインハイトと、それに苦笑を浮かべるながら突っ込みを入れるヨシュア。


「それじゃ、次僕の番だから」


 試験を受ける順番は昨日と同じであるため、偉そうな少年の次順であるヨシュアは、そう告げて話を切り上げた。


「ああ。昨日みたいな無茶はするなよ」


「うん、ありがとう」


 レインハイトのその言葉が純粋な心配だけでなく、『できればB以下の評価を取ってきて欲しい』という思いが込められたものだとは知らないヨシュアは、嬉しそうな笑顔で謝意を返した。その表情に若干の罪悪感を覚えつつも、レインハイトはそれ以上の言葉を告げることはしない。


「頑張ってきてください、ヨシュアさん! 一緒にダウトさんに勝ちましょう!」


「あはは、イリーナさんもありがとう。できる範囲で頑張るよ」


 レインハイトの後ろからひょっこりと耳と頭を出したイリーナの激励に、ヨシュアは片手を振りながら応えると、試験官であるローレンの元へと歩いていった。


偉そうな少年の見せ場(誰得)終了

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