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夢のまた夢

 やあ。ようやくお目覚めかい? よく眠れた?


 ――ん? 僕が誰かだって? ……ふふ、内緒かな。


 おっと、今はこんなことを話してる暇がないんだ。手短に話すように努力するから、君もよく聞いていてほしい。

 今後の君の未来に関する重要な話だ。聞き漏らしが無いよう、気を付けて聞いてね。

 ……いいかい? 落ち着いて聞いてくれよ? ……よし、準備ができたみたいだね。


 それじゃあ、まず、君に一番大切なことを伝えよう。


 君は一度、死んだ。


 君が元は何者で、どんな人生を送って、どのように死んだのかは僕にはわからない。だけど、君は確かに死んだんだ。


 ――え? いきなりおかしなことを言うなって?


 まあそう怒らないでくれよ。この話には続きがあるんだから。


 君は死んだ。ここではない、別の世界で。


 それがどこの世界かということまでは僕にはわからないんだけど、でも確かに、君はこの世界の住人じゃないんだ。それは僕が保証する。


 ――どうしてそんなことがわかる? つーか、そんなことを保証されても嬉しくないんだよ! だって?


 あはは、確かに。そんな保証されても困っちゃうよね。


 でも、あんまり時間がないんだ。ここは我慢して、もう少し話を聞いてほしい。


 こほん、えーと、どこまで話したんだっけな。

 ああ、そうそう。君はこの世界の住人じゃない。これは揺るぎようがない事実だ。僕も正直、驚いているところなんだけどね。


 それで、君には先に謝らないといけないんだけど、僕には、君の魂を元の世界に戻すことはできないんだ。


 ――そんなに怒らないでくれよ。君がここにいるのは、何も僕のせいってわけじゃないんだから。


 落ち着いたかい? まあ、いきなりこんなことを話されて混乱する気持ちはわかるよ。でも、僕は気休めや嘘が好きじゃないからね。君には少し酷かと思ったけど、正直に話させてもらったってわけさ。


 で、ここからが本題なんだ。


 ――ん? 今までの話は本題じゃなかったのかって?


 もちろんだとも。今までの話は所詮、前座にすぎない。君がここに来る前に見た夢もその一部さ。


 ――あの夢はお前が見せていたものだったのか。だって?


 そうだよ。あの夢は僕が君に見せたものだ。


 君は察しがいいね。きっと生前もよく頭が回る人だったんだろうね。


 ――え? ロリとショタの絡みなんか見せて何のつもりかって?


 なんだい? ロリとショタって。君の世界の言葉かい? ああ、もしかしてあの夢に出てきた少年と少女のことを言っているのかな?


 いいところに目を付けたね。実は本題はあの悲運な少年に関することなんだ。


 さっき説明した通り、その世界の魂は、その世界で生まれ、死に、転生しなければならない。これは絶対のルールだ。

 でも、君の魂はここではないどこか他の世界から来てしまったものであり、元の世界に返すことはできない。さて、どうしたものか。


 そこで、僕にいい案がある。……まあそう身構えずに聞いてくれよ。

 あの少年はね、実はもう死んでいるんだ。……それも、肉体的な死ではなく、魂の死という形でね。


 ――死んだら転生するんじゃなかったのかって?


 そうなんだ。僕も困っているんだよ。あの少年は肉体的には何の問題もない健康体なんだ。でも、彼の魂の器が小さかったために、その“中のもの”を抑えつけることができずに、壊れてしまったんだよ。


 わかりやすく言うなら、容量オーバーってことだね。


 それは実は僕のミスというか、計算違いというか……はっきりと言ってしまえば、僕のせいなんだ。


 ――一体何をしたのかって?


 悪いけど、その説明をしている時間はないんだ。ごめんね。


 そこで相談なんだけど……君さ、あの少年に生まれ変わって、この世界で生きてくれないかな?


 ――え? 嫌? 他人の体に入り込むような真似は気持ち悪いからしたくないって?


 そっか……じゃあ仕方がないね。君の魂は僕が責任をもって完全に消し去ってあげるよ。


 ――待て待て待て! そんなの聞いてないぞ! だって?


 でも、そんなこと言われても仕方ないんだよ。基本的に、この世界の魂ではない君は、この世界で転生はできないんだ。

 でも、ちょうどこの少年の魂が死んでしまったところで、魂に一つ空きができたんだ。幸運なことに、この器も君の魂の波長ともよく合ってるしね。

 だから、良かったらどうかな? って僕は思ったんだけど、君は嫌なんだろ?


 ――それを早く言ってくださいよ大将! 喜んで転生させていただきます! だって?


 あはは、全く調子がいいなあ。でも、良かった。じゃあ、許可はもらったよ?


 では、転生するにあたって、いくつか説明をするよ。


 まず、君の元いた世界の記憶は無くなる。これは転生するのだから、まあ当たり前だね。

 次に、本来はリセットする魂の年齢なんだけど……仮にこれをした場合、今回は十二歳の少年に転生するのに、中身の年齢が生まれたての赤ん坊となってしまう。


 ――それは困るって?


 うん。流石にそれは僕も酷いと思うんだよ。


 だから、今回は特別に、年齢のリセットはしないことにするよ。まあ、君がいくつなのか正確には分からないんだけどね。

 とは言っても、そんなにこの少年と大きく離れてはいなさそうだから、まあ安心してよ。


 君が人間の魂だっていうのは確定しているしね。


 ああいや、こっちの話だよ。気にしないでくれ。


 その他にも、この世界の知識も組み込んでおこうかな。何の知識もないままこの世界に放り出すのは可哀想だからね。


 まあ、肉体の記憶と君の魂を繋げるだけだから、知識に偏りが出たり、イレギュラーが発生しないとも限らないんだけど。

 でも、できる限りのことはやらせてもらうよ。


 あはは、お礼なんていいよ。僕もこうして君を利用しているわけだし、お互い様さ。

 これで一応準備ができたけど、まだいくつか問題があるね。


 ――問題があるなら直してほしいって?


 いいのかい? じゃあ、遠慮なくやらせてもらうよ。


 ……君のいた世界は争いのない世界だったのかい? 少し調べてみたんだけど、君は随分と平和的な思考をしているね。


 へえ、君は戦争をしたことがないのか。殴り合いもないのかい?


 ――え? そういうのは好きじゃないって?


 うんうん。やっぱり、殴ったり殴られたりは好きじゃないか。


 うーん、でもそれだと困るんだよねえ。


 実は、こっちの世界には危険がいっぱいあるんだ。命のやりとりをすることだって、日常茶飯事なんだよ。他の生物に襲われたり殺したりすることもよくあるのさ。


 万が一そんな場面に遭遇した時、君のその平和的な思考が邪魔をして、適切な判断が下せないということがあるかも知れないんだ。


 せっかく転生するんだし、君には長生きしてほしい。


 だから、まずは君のその平和的なその思考を無くそうと思う。


 ――え? それじゃあ自分が自分でなくなるんじゃないかって?


 心配しないでくれ。僕が人格をいじったところで、君は君のままだ。


 僕は君の本質までは操作することができないからね。


 いいかい? 人格っていうのは、先天的なものと、後天的なものに別れるんだ。

 先天的って言うのは、要するに生まれ持った性質のことだよ。僕はこっちについては干渉できないんだ。


 僕が干渉できるのは後天的な性質の方だけだ。君が元いた世界で受けた影響により形成された人格の方だね。


 本質ってのは、この二つが複雑に重なり合って形成されるものだ。先天的性質だけでも、後天的性質だけでも、その魂の本質が形成されることはない。


 要するに、僕が干渉できる後天的性質の方も、そんなに大きくは操作することはできないんだ。だから、君の心配するような、人格そのものを作り替えるなんて所業は僕にはできないんだよ。ふふ、これで一安心だね。


 君が元の世界で生活して得た知識や習慣、決められたルールなどによって抑圧されていた自我を開放する。そうすれば、君は以前よりももっと「君」という人格の本質に近付いていけるようになるんだ。


 既に肉体を離れたことによって君の記憶はほとんど無くなっているし、簡単な事さ。


 ……ちょっと難しかったかな? まあ簡単に言えば、最適化ってやつだよ。

 君の常識や知識、深層心理や意識などを少しづつ改良して、この世界に上手く順応できるようにしておく、ってことさ。


 そんなに心配しないでくれよ。僕もこれに関しては全くの他人事ってわけじゃないからね。


 君に死なれたら僕も困るし……ああ、これはこっちの話だから気にしないで。


 うん。やっぱり僕と波長が合うだけあって、君は結構この世界――ミリスタシアに適した人格みたいだね。


 元の世界に毒されて今はかなり抑圧されているみたいだけど、それは僕の調整でどうにでもなるし。……怒りは僕の専売特許だしね。


 それに、適正があるとは思ってはいたけど、魂の器の大きさも相当なものだね。……ん? これは……。

 君は本当に面白いね。こんな魔力は見たことがない。これも世界を跨いだ影響ってやつなのかな。


 ――さっきから一人で何をぼそぼそ言ってるのかって?


 君にはとても才能があるって話だよ。ふふ、僕の目に……いや、僕の術式に狂いはなかったようだ。


 ……よし、これでだいたい準備完了かな。


 ここミリスタシアは、自転周期、公転周期など、君の元いた世界と殆ど同じだし、特に違和感なく馴染むことができると思うよ。ふふ、よかったね。


 じゃあ、チュートリアルはここまで。これから君は、君だけの物語を紡いでいくんだ。


 ――よくそんな言葉知ってるなって?


 あはは、さっきみたいに言葉の齟齬(そご)があるかも知れないからね。


 一応僕の言葉は君の理解できる言葉に変換されてるはずなんだけど、僕の知らない言葉があるみたいだから、少し君の記憶から君の知る世界の言葉を勉強させてもらっただけだよ。


 おっと、そろそろ本当に時間が無くなってきたみたいだ。


 これで完全に契約成立。それじゃあ、色々と大変なこともあるだろうけど頑張ってね。



 まあ、お互い悪魔のようなもの同士だ、仲良くしていこうじゃないか。



 ……おっと、君の場合は“半分”だったかな?


 ――半分悪魔って、何の話だって?


 あはは、内緒だよ。


 それじゃあ、元気でね。次にまた合う時を楽しみにしておくよ。




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