少年の夢
そこは深い闇の中だった。黒の上から、また黒を幾重にも重ねたかのような完全な闇。
そこには、明るい亜麻色の髪を持つ、一人の少年が立っていた。
ここはどこだろう。なんとなく、夢の中なのだろうか、と少年は考える。
しばらくすると、少年の目の前に少女が現れた。幼いが、その少女はとても美しかった。
欠けているものなど何も無い、完全なる美。
黄金のような輝きを放つ長い髪の少女は、少年を見つめ、とても悲しげな表情をしていた。
「ごめんね」
目の前の少女がそう呟く。どうしてこの子は謝っているのだろう。
そんな顔をしないで。少年は言おうとしたが、声が出せない。
そのまま身動きが取れずにいると、少女が優しく少年を抱き寄せ、唇に口づけをした。
少年は驚いたが、やはり身動きが取れない。もがこうとはするものの、しばらくされるがままだった。
少女は少しすると、自らその唇を離した。彼女の両目から溢れる涙が、陶器のような白い頬を濡らしている。
「さようなら、レイン」
そう言うと、少女は少年に背を向け去っていった。
いかないで。そう叫びたかったのに、体が言うことを聞いてくれない。少女の背中がどんどん遠くなっていく。
少年は絶望した。きっとあの少女は、自分にとってかけがえのない存在だったのだ。名前すら思い出せないが、少年はそう直感していた。
その時、少年の周りの世界が崩れ始めた。漆黒の闇に亀裂が入り、中から光が漏れだした。
世界の崩壊と共に、少年の意識は深い闇へと飲み込まれていった。