死体が人を殺した 結
翌日、崇典が葬儀社へ行くと菊河が待っていた。
「何か分かりましたか?」
菊河が訊ねた。
「はい、もうすぐ解決します。お手数ですが事件関係者の遺体を一つの部屋に移動していただけますか?」
崇典がそう言うと、菊河は少し怪訝な顔をしたが、少々お待ちくださいと準備に取りかかってくれた。
遺体が部屋に移されている間、崇典はしきりに入り口の方を気にしながら探しものをしている化を待っていた。
十分後、遺体の移動が完了した。
すると崇典の耳元で、
「見ツケタヨ。」と化の声がして、持っていたバッグに「探しもの」が入れられていた。
「少し危険なので別の部屋で待機しておいてもらえますか?」
崇典が菊河にそう言うと、菊河は別の部屋に移動した。
「コレダケタクサンノ死体ガアル所デハ『死人憑き』ガ優位ニナル。君ノ作戦ハ一回シカチャンスガ無イヨ。」
崇典は頷くと、バッグの中から化が探し出してきたものを取り出した。
血の付いた毛布、崇典はそれを床に落として
「これは君が自殺をして、死亡推定時刻を送らせた証拠の毛布だ。」と言った。
棺桶がガタっと音を立てて揺れる。
「僕は犯人が君と分かったんだ。」
崇典が続けてそう言うと死体たちが棺桶の中からゆっくりと身を起こし、棺桶の外へ出ようとしている。
「名前を呼ばれることが弱点だということも知っている。」
そこまで言うと死体たちが崇典に襲いかかってきた。
「犯人は……」
崇典は拝木の方を指差した。死体たちの動きは止まらない。
「茂沢大地、あなただ!」
崇典が叫ぶと、死体たちはピタっと止まって、魂がゆらゆらと揺れながら死体からはみ出してきている。
化はすかさず魂に喰らいつき、飲み込んだ。
崇典は間一髪で死体たちの襲撃を回避したのだ。
「危ナイ作戦ダッタネ。」
化はニタリと笑い崇典に言った。
「拝木を指差しても反応がなかったからね、茂沢ってことが解ったんだよ。賭けだったけどね。」
崇典は部屋を出て菊河に報告しに行った。
崇典が菊河に遺体はもう動かないと言うと、死体を確認して謝礼は後日払います、と言って葬儀社から事務所の近くまで車で送ってくれた。
その後、葬儀は無事に行われたという。
しかし、崇典は事件が解決しても、被害者である依田がこれからも通り魔の犯人として咎められるということがずっと引っかかっていた。
そして引っかかることがもう一つ。
「『死人憑き』について一般人が詳しく知ることってあるのかい?」
事務所に戻った崇典は化に訊ねた。
「普通ハ無イダロウネ。ソレニ、人間ガ死ネバ誰デモ『死人憑き』ニナレルトイウ訳デモナイ。『死人憑き』ニナルコトノデキル人間ダケガナレルンダ。自分ガソウダトイウコトハ人間ニハ絶対ニ分カラナイコトダヨ。」
茂沢は『死人憑き』についての知識がかなりあったように思える。弱点や能力についても熟知していた。
それに、わざわざ自殺して、通り魔をしたということは自分が『死人憑き』になることのできる人間だったということを知っていたと言うことだ。
「人間には知ることができないのか……
じゃあ、誰が教えたんだ?」