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化け猫/探偵  作者: 三枝半太郎
mystery1 影のない死者
1/8

影のない死者 起

 農業が盛んな笠丘村(かさおかむら)の朝方、空がボーっと明るくなっていく頃、村役場の職員の西内実(にしうちみのる)は書類を整理するため、いつもより早く職場へと向かった。

 書類というのは最近、笠丘村で起こっている住人の連続失踪事件についてのものである。

 昨夜は雨が降っていたので、湿気のせいで朝靄がかかっていた。

 西内は役場への道を歩いている途中、畑の中に人が倒れているのを発見した。

 不審に思った西内は、倒れている人に近づいた。そして、倒れている人間が同僚の川崎であることと川崎がもう息をしていない死体になっていることを確認した。

 西内は川崎の死体を見て一瞬動揺したものの、なんとか冷静さを取り戻し、もう一度、落ち着いて今の状況を整理した。

 すると、もう一つ、あることに気がついた。

「影が……ない」

 西内は怯えた声で言った。見上げると、街灯が西内たちを照らしていた。足元を確認すると自分の影はあるのに川崎の死体には影がなかったのである。

 あまりにも奇怪なことに遭遇してしまった西内は、影が無く、無機質な川崎の死体の前で呆然としている。

 しかし、西内はそんなに長く呆然としていられなくなった。朝日が昇り、陽の光が畑の中にいる西内たちを照らした途端、川崎の死体が燃え上がり、跡形もなく消えてしまったのである。

 自分の理解を超える範囲のことが次々と目の前で起り、ついに西内は冷静さを失い、その場から逃げ出してしまった。


 ♦︎


 とある古びた雑居ビルの一室には、奇妙な探偵事務所がある。名を「藤沢探偵事務所」といい探偵が一人だけで探偵業を営んでいる。

 探偵が一人だけというのが奇妙なわけではなく、その探偵が化け猫に取り憑かれているというのが奇妙なのである。

 探偵の名は新名崇典(にいなたかすけ)という。彼は妖怪を引き寄せやすい体質らしく、化け猫に取り憑かれたのもその体質のせいである。

 崇典に取り憑いている化け猫の名は(ばける)といい、人語を理解し話すことができる。 

 そんな奇妙な探偵事務所で、化け猫の化がニタニタと笑いながら口を開いた。

「事件ガ来ルヨ。」

 その次の瞬間、事務所のドアが開かれた。そこには男が立っている。

「調査を依頼したいのですが……」


 ♦︎


「西内と申します。笠丘村という村で村役場の職員をしております。」

「それで、依頼というのはなんでしょう?」

 簡単に自己紹介をした西内に崇典は尋ねた。

「はい、私の住んでいる笠丘村では最近、住人の連続失踪事件がありまして、その事件についての書類を整理するために、今朝はいつもより早く家を出たんです。」

 西内はそこまで言うと、眉間に(しわ)を寄せながら話しだした。

「畑の前を通りかかった時、畑で同僚の川崎という男が倒れているのに気がつきまして、不審に思って近づいてみたんです。そうしたら、川崎が死んでいたんです。」

「死んでいたんなら、警察に連絡すればいいんじゃないですか?」

 崇典は話を聞いて、西内がここに訪ねてきたことに疑問を持った。

「いや、川崎の死体を最初見た時は私もそう思いました。でもあの死体は普通じゃなかったんです。」

 西内の言葉に崇典は首を傾げた。そして西内は続けてこう言った。

「影がなかったんです……」

「影がない?暗かったから影ができなかったということでは?」

「いえ、街灯があったので影ができるくらいには明るくなっていました。私の影はあったので。それに……」

「それに?」

「川崎の死体が直射日光を受けた瞬間燃え上がって、灰も残さず消えたんです。だから私は今朝の川崎の件が失踪事件と何らかの関わりがあると思うんです。」

「なるほど。」

 崇典は依頼の内容に納得がいき、椅子の背もたれにもたれかかった。

「信じてもらえますかね?」

 西内は不安そうに崇典の顔を窺っている。新名はそんな西内に向かって頷いた。

 化は崇典が依頼を受けることを確認すると、ニタリと笑った。


 ♦︎


「そういえば、村の方々には事件のこと伝えたんですか?」

 崇典が笠丘村行きのバスの中で西内に質問した。

「『川崎が死んでいて、死体に影がなくて、突然消えた』とは言ったんですけど、やはり誰も信じてくれませんでした。」

「なにしろ異常な事件ですから仕方ないですよね。」

 二人が会話している内にバスは笠丘村まで着いていた。時刻は午後二時すぎになっていて、バスを降りると目の前には畑と田んぼが広がっている。

 西内は崇典を川崎が死んでいたという畑まで案内した。畑の土は雨で湿っていた。 崇典が失踪事件でいなくなった人についての書類が見たいというと、西内は書類を取りに村役場へ走っていった。

「影がなくなった死体は直射日光にあたると消えてしまう。ということは犯行は夜か……」

 崇典が事件を整理しながら独り言を言っていると、化が崇典のバッグの中から顔を出してこう言った。

「キット『影飲み』ノ仕業ダヨ。イヤ、影飲みヲ使ッタ人間ノ仕業ッテ言ッタ方ガ正シイカナ。」

「なんで人間だと言いきれるんだ?」

 崇典が疑問を投げかけると化は答えた。

「妖怪ガ単体デ影ヲ飲ンダンナラ、村役場ノ職員ナンテ目立ツ人間ヲ選バナイダロウ?妖怪ッテノハソンナモンサ。」

 化は相変わらずニタニタしている。

「言っておくけど、影飲みの魂を喰うのは謎がすべて解けてからだよ。」

 崇典がそう言うと化は

「アア、解ッテイルヨ。ダカラ君ニハ早ク犯人ヲ見ツケ出シテモラワナイト」と言ってバッグの中に戻ってしまった。

 しばらくしてから西内が資料持って、帰ってきた。

「これが失踪事件の書類です。」

 西内はそう言って崇典に書類を手渡した。崇典は書類をパラパラとめくり、あるページで手を止めた。

「西内さん、この事件関係者って人達に会えますか?」



 







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