第二話 迷宮都市ベイルーン
「ただいま。」
「おかえり、薪割り終わった?」
「うん。終わった。…ねえ母さん、ちょっと話がある。」
「何?突然改まって。どうしたの?」
さあ、何て答えるべきだろう。
(ここでちゃんと自分の意見を言わないと…でも、そんな事を言っても怒られないのだろうか…)
「えっ、えっと、その…あっ、あのさ、俺さ、街に行ってみたいんだ。行ってもいいと思う?」
「え、街に?何しに行くの?」
「いや、街がどんな所なのかを見てみたいんだ。いろんな仕事に興味もあるし。そんなに長い間滞在する訳じゃあ無いから、お願い!」
そうだ、最初からこう言えば良かったのだ。別に嘘はついてないし。
「そうね…じゃあ明日から二週間だけね。それまでに帰って来なさいよ。」
だが、母さんがそう言った時、少し胸が痛んだ。母さんが勘違いする様な事を言って、騙す様な形で街に行っても碌な事が無い様な気がした。
しかし、本当の事を言っても怒られて街に行けないので仕方ない事だったのだ。
そう自分に言い聞かせながらその晩は早く寝た。
翌日の朝早く、俺は村の入口で商隊の馬車に乗り込んだ。
馬車の中は沢山の荷物で一杯だったが子供である自分が座るには十分なスペースはあった。
ベイルーン迄は歩くと二日掛かるが、馬車だと十二時間くらいで着くらしい。
まあ、途中で何も無ければだが。大体この道の近くは、突然天気が崩れることが多い。特に冬場の今は、道が雪で埋まっている為、雪掻きをしながら進まなければいけない。
今日はよく晴れている。おそらく一日中天気が変わることは無いだろう。
ゆっくりと馬車が動き始めた。馬車が動き出すとやることが無くなり暇になってきた。余りにも暇だったので、もうすでに家で何度も読んだ「ベイルーンの歩き方」と言う本を読み始めた。
ベイルーンは今から三千年前に、魔王の侵略から首都を守るために作られた城塞都市だったらしい。だが、魔王軍との戦争が終わった後、街の中心に突如大きな塔が現れたのだ。
その塔の高さは上の端が見えない程高いのだが、立っている場所がとても狭く、塔の直径が子供一人分程しかないため、殆ど柱にしか見えないらしい。
塔には特に入口は見えないのだが、塔に触れると塔の中に転移されるらしい。
中は外側から見た様子とは全く違い、とても広いフィールドになっているのだ。中には、沢山のモンスターや多くの罠があるという。そして、このダンジョンの一番奥には、宝があるらしいのだ。
その宝を狙う冒険者や盗賊がこの街に集まり、彼らに商品を売る商人が沢山来た事で、この都市はアールバイヤー王国第二の首都と言われるほど大きくなったのだった。
ベイルーンは大きく北側と南側に分ける事が出来る。
北側は、元々城塞都市だった部分だ。主に冒険者ギルドや商人ギルド、盗賊ギルド等の職業支援施設や、庶民や冒険者向けの商業施設、娯楽施設、庶民の住宅、常駐騎士達の詰所が有る。街の入口はこちら側らしい。
南側は、迷宮都市として栄えてから出来た新しい街だ。主な施設は病院、貴族の住宅地、領主の城、近衛騎士の詰所、高級な店だ。こちら側は、入る人間が制限されているらしい。まあ、入ることは無いだろうが。
ふと、外を見ると丁度山を越えている時だった。馬車の後ろを見ると少しだけ村が見えた。何だか寂しくなってきたが、もう帰れない訳では無いと再確認し、馬車の中に戻った。
その後、昼食を食べてから本をまた読み始めたのだが、さすがに飽きてきたので、後数時間は寝る事にした。以外に馬車に乗っているだけでも疲れるのか、直ぐに寝付けた。
騒がしい声で目を覚ました。周りを見ると商隊の人達が荷物を降ろしていた。どうやら無事にベイルーンに着いた様だ。
商隊のリーダーの人にお金を渡して、俺は馬車を離れた。
俺は、この二週間の間に冒険者としての実力を身に付け、母さんに認めてもらえる様になる為、必死に戦うことを決意して街の中へと歩いて行った。