第一話 雪の降る村で
「あ〜面白かった。」
そう言って『ダンジョン攻略競争の歴史』と言う本を閉じ、机に置いた。この本を読み始めてすでに三時間が経っていた。
「あ、しまった!薪割り忘れてた!」
三時間前に母さんに頼まれた仕事を思い出し、俺は部屋を飛び出した。
玄関の前でコートを着ている時に母さんに怒鳴られた。
「あんた!薪割り頼んでたでしょ!何でやって無いの!」
「ごめん、忘れてた!」
「直ぐに動かないから忘れるんでしょう!何してたの!」
「ちょっと本を読んでて…」
「またあんな本なんかを読んで!あんな本読んで何になるの!」
「あんな本ってなんだよ!俺は将来冒険者になるんだ!絶対役に立つさ!」
「まだそんな事言ってたの!もう現実を見なさい!冒険者になったって生活出来ません!そんな事の為に無駄に時間を使っても意味が無いわ!」
「母さんにはそう見えるだけさ!」
そう言い捨てて俺は家を飛び出した。
俺の名前はフロウだ。苗字は無い。俺の住んでる村で苗字があるのは商人と村長の家だけだ。
俺が住んでいるのはアールバイヤー王国の北の端にあるシロフ村と言う本当に小さな村だ。
俺はこの村の餓鬼大将である。手下は五人いる。だが、俺の言う事を聞くのは、一人だけだ。それ以外はかなり反抗的である。
しかし、喧嘩をすれば五対一でも負ける気がしない。ちなみに、歳はこの村の子供の中で一番上で十四歳だ。
家族は母さんだけだ。母さんの名前はスノーと言う。父さんと弟もいたが、七年前に事故で死んでしまった。その時に俺は死にそうになっていた。しかし、死ぬ直前にある冒険者に助けてもらったのだ。
それ以来、俺は冒険者に憧れている。
さっき読んでいた本は、その冒険者がダンジョン攻略競争が何故起こったのかを書いた歴史書だ。しかし、残念なことにダンジョンで見つかった本の内容は書かれていなかった。
(早くダンジョンに行きたい!)
俺は自由に仕事を選べる様になる十五歳になるのが待ち遠しかった。十五歳になったら絶対に冒険者になると八歳の時から決めていた。そして、十五歳の誕生日は明日なのだ。
職業を冒険者にして、明日の朝早くに商隊の馬車に乗り、この村から一番近くの迷宮都市ベイルーンに向かって、都市の近くのダンジョンに挑むつもりでいる。
その話を母さんにしようと思っていたが、さっき口喧嘩をしてしまい機嫌が悪い為、少し言い出しにくいなあ…と、思っているのだ。
このままでは一生この小さな村で惨めに生きなければいけなくなる。それだけは嫌だ。
どうすればいいか考えながら薪割りをしているともう日が暮れかけていた。良い考えはまだ浮かんでいない。
どうしたものかと浮かない顔をして家に入った。