act 1
登場人物
中町 悠莉 (20) 大学二年生で学費を稼ぐのに、バイト中
原田 珂那汰 (21) 大学三年生で女をとっかえひっかえする遊び人
杉田 沙麻 (すぎた さお) (20) 同大学、二年で悠莉の親友、瑠の事がすきになる
中尾 瑠 (なかお りゅう) (21) 同大学、三年で珂那汰の友達、同じく遊び人
四階からの眺めは最高だった。
夜になれば、夜景が綺麗だろうな、なんて考えていたし、荷物をダンボールから出すというその作業さえ楽しくてたまらなかった。
ついさっきまで居た、沙麻が飲んでいたマグカップを悠莉は掴むと、まだ新品ほどに綺麗なシンクへ置いた。
ベットは何処に置こうか? あの家具はあっちに置いて、そんであのタンスはこっち……。
家具の配置を決めるだけでも、心が躍る。
一年半、狭いアパートで頑張ってお金を貯めて、やっと引越し費用がたまり、ここまで来る事ができたのだ。嬉しくない訳がなかった。
これからのバイトも、確保済み。親の援助が少しでも、大丈夫。
悠莉は、思わず声に出して笑ってしまう。それだけ気分が高まっていたのだ。
そんな悠莉の気持ちは、隣の方から聞こえてきた声に、あっという間に粉々に粉砕された。
昼間から、決して聞こえて来るはずのない声だった。
体の何処からそんな甘い声が出せるのかと、思わず感心しそうになる様になった悠莉だったが、不意に正気に戻った様だった。
そして、どんどんと大きく、そして甘くなる声に、イライラとしはじめた。
まだ音を出せるものが、一つとない。だから余計に、その声は、悠莉の耳へと届けられていく。
無視だ、無視。
そうは思ってみるが、やはり、他人の女の声なんて、聞いていても何一つ面白い訳もなく、むしろ嫌悪感が募るばかりだった。
そして、とうとうたまらず、悠莉は立ち上がった。
そして、雑誌をまとめてあるそのてっぺんの紐を掴むと、そのままその雑誌の塊を両手で抱え込み、そのままその壁へと投げつけた。
凄まじい音が響いたと思ったら、さっきまでの音が、ピタリと止んだ。
肩で大げさに息をした悠莉だったが、声が聞こえなくなった事に気分をよくしたのか、上機嫌でハサミを掴んで、その紐を切った。
鼻歌を歌いながら、再び荷物の整理をはじめていると、玄関のチャイムが鳴った。
何となく予想がついた悠莉は、玄関まで大股で行き、そこで深呼吸をし、微笑んだ状態でドアを開けた。
と、口をポカンと開けてしまった。
其処には、男の顔には煩い自分が、思わず見惚れてしまうほどの人物が、不機嫌そうにたっていた。
「お前さ、引っ越してそうそう、部屋に穴開けて追い出されてーの?」
初対面にも関わらず、上から見下ろすその姿勢に、口を開けっ放しにしていた悠莉は噛み付いた。
「あのね、昼間っから変な事してる人に言われたくなんてないんだけど?」
「セックスの何処がどう変っつーんだ。お前だってヤった事くれーあんだろうよ」
昼間っから、どれだけ恥ずかしい言葉を言っているんだと悠莉はカッと頬を染めた。
「わ、私はそんな事やらないわよ! と、とにかく、こっちは配線も何もかも繋いでなくて、声が駄々漏れなの! だからせめて声だけは抑えてくれる?! これだったら文句ないでしょ?!」
投げやりに言葉をぶつけると、顔を真っ赤にしたまま、強制的にその扉を閉めた。
玄関のドアに背をもたれかからせ、悠莉はずるずるとその場に崩れた。
興奮した所為で、息があがってしまった。
さっきまで気持ちよかったのに、今のでどっと汗を搔いてしまった。
しかしお隣だと言う事で、嫌でも顔を合わせてしまうことを考えると、今から頭が痛くなった。
隣が大学生だと言う事は聞いていたので、女の子がいいな、なんて思っていたけれど、まさかこんな男がお隣だとは夢にも思わなかった。
息を長くついた悠莉は、早くも現実逃避をしたいと、ゆっくりと、瞼を閉じた。
……To Be Continued…
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