1
妖精騎士ルミナリア。
左手に光翼鳥の刃ファルシヴォル、右手に光冠石の剣レガリス、二つの光を携え、王国の希望となる。
妖精の女王が治める国から、やや離れた深き森で、30代半ばのドルイドのゼオは、敵軍を待ち構えていた。
ドクロ山から進軍してくるオークの軍勢300に対し、こちらは10人のドルイド、少数のトレント、ドライアド、フェアリー、そして森そのものが守りについている。
今まで何度も小競り合いはあった。
しかし、これほど統制された大規模な攻撃は初めてだ。
もっと多勢な敵の本隊は、妖精王国と戦闘中である。
すなわち、エルフの素晴らしきアーチャーや、強く美しい妖精騎士の助けを、今回は得られないのだ。
鋼の巨人を操る3人の巫女たちは、彼女たちの占いが促した時しか味方はしてくれず、灰色の洞窟から出ることなく、沈黙を貫いている。
さらに敵軍は、魔法都市ガイダンの支援を受けているとも聞く。
戦闘経験豊富な凶暴な戦士と、闇魔法の組み合わせは、想像しただけでゾッとした。
現在の戦力で生き残るしか道はない。
ズラリと隊列を並べたオーク軍は、日の出と共に騒々しい銅鑼を鳴らし、深き森へと侵入を開始した。
彼らの装備する無骨な鉄鎧のガチャガチャという音が、重苦しい。
次々と踏み入る敵を、森の仲間が迎え撃った。
ゼオは戦況を見つつ、的確に味方を援護し、戦線を支える。
ドルイドの防御と回復に優れた魔法は、守備には有効だ。
依然として、敵の戦意は旺盛だが、こちらも善戦している。
問題は、戦いが長引いても、いつものような援軍は来ないということだ。
突然、ゼオの耳に、仲間のドルイドの叫びが聞こえた。
「ブラックウルフ・ライダーだ!」
南部に住むハイオークの部族は、驚くべきタフさの大きなブラックウルフを飼い慣らし、馬のように乗りこなす。
彼らの族長の7人の息子は、その強さから「7牙傑」と呼ばれ、恐れられていた。
だが、戦いの前、彼らの姿を見た者は居ない。
(そんなバカな!)
その疑問の答えは、続いて聞こえた仲間の声で判明した。
「ゲートだ!」
いくつかの条件はあるものの、離れた場所と場所を繋げる魔法を駆使して、ハイオークたちが現れたとするなら、ガイダンの魔法使いたちの介入は事実だということになる。
絶望感が、ゼオの胸を締めつけた。
これで、戦局は不利に傾く。
オーク軍とは逆の方向に開いたゲートから突撃してくるブラックウルフ・ライダーたちは縦横無尽に、深き森の軍を切り裂く。
何とか奮闘し、味方を鼓舞するゼオの前に、大きな黒狼に乗った大柄なハイオークが現れた。
両刃の戦斧を右手に持ち、長い柄を右肩にかけている。
鉄鎧に描かれた牙のマークが、彼が「7牙傑」の1人であると示していた。
「ハッ、ハッ!」
ハイオークが笑った。
「お前はオレを楽しませてくれるのか?」
ゼオには、荷が重かった。
しかし、逃げるわけにはいかない。
「ハーッ!」
ハイオークはブラックウルフを駆り、突進してきた。
ゼオは地に伏せ、左手を大地につける。
魔法に呼応した地面が盛り上がり、土の防壁を作った。
そこにハイオークの渾身の斧撃が炸裂する。
あまりの衝撃に壁は四散し、ゼオは吹っ飛ばされた。
何とか立ち上がるものの、全身が痛む。




