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時の番人  作者: 亜珠


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1/1

時の番人〜0の時〜


『時の番人』シリーズへ


もしも、

時間が止まった場所があるとしたら。


そこは地図も、案内もありません。

けれど気づけば、

あなたは椅子に座り、

温かい紅茶を前にしています。


迎えるのは、時の番人。

時兎ときうさぎシェリル。


彼女は問いません。

あなたがどこから来たのかも、

なぜここにいるのかも。


ただ、静かに勧めます。

「どうぞ、ゆっくり」と。


ここに来た者は、

やさしく迎えられ、

やさしく留まり、

やさしく――

元の世界からほどけていきます。


あるのは、

静かな肯定と、

終わらないお茶会だけ。

ようこそ。

ここは、時の止まった世界です。


……どうぞ、そこへ。

椅子いすは動きませんし、

立っている必要もありませんから。



わたしは、ここの番人。

時兎ときうさぎシェリルと申します。


長い名前でしょう?

でも、急いで覚えなくていいのですよ。


ここでは、

忘れる速度も、覚える速度も……

すべて、ゆっくりですから。



さあ、どうぞ。

私の淹れる紅茶は美味しいと評判なのですよ。

この香り、どうですか?

少し甘くて、

どこか懐かしいでしょう。


それはきっと、

あなたが“前に進もうとしていた頃”の

記憶に近いから。



外の世界では、

立ち止まることに理由を求められます。


どうして休むのか。

なぜ、進まないのか。

いつ、戻るのか……。



でも、ここでは違います。

止まることに、説明はいりません。


時間が止まっているので、

冷めることもありません。


……飲まなくてもいいのですよ。

ただ、そこにあるだけで。



あら、もう帰り道を探しているのですね。


でも大丈夫ですよ。

探そうとする気持ちは、

とても自然なものです。




ただ……

“帰る”という行為は、

時間が流れている世界でしか

成立しないのです。



ここでは、

“戻る前”も

“戻った後”も、

区別がありませんから。



あなたがこちらに来てから、

外の世界では

何分、何時間……

いえ、何日経ったのでしょうね。



心配なさらなくていいですよ。

世界は、あなたがいなくても

ちゃんと進みますから。



仕事も。

人間関係も。

あなたが気にしていた“役割”も。



あなたの代わりは、

いつも用意されているものですから。



……ここで過ごしていると、

不思議と、胸が軽くなるでしょう?



決断しなくていい。

選ばなくていい。

失敗もしなくていい。



考えなくていい、というのは……

とても、優しい状態なのです。


最初は、違和感があります。


次に、静けさが心地よくなります。


そして……“戻りたい理由”を

思い出すのが、少し、面倒になる。


それでいいのですよ。


あなたは、十分に頑張りました。

十分に迷って、十分に耐えました。


ここでは、もう何も、証明しなくていい。


……ほら。外の音が、

思い出せなくなってきたでしょう?


それが、正常です。


時が止まるというのは、壊れることではありません。


“必要がなくなる”だけ。


あなたにとって、もう、時間は必要ではないのです。


さあ。次のお茶を淹れましょう。


終わりを考える必要はありません。

ここには――

終わりそのものが、ありませんから。


あら、時の扉が開きましたね。

今日はどんなお客様がいらっしゃったのでしょう。

さっそく紅茶を用意しなくては…。



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