しあわせ
冷蔵庫を開けると、中にはおかずの残り物や、期限の切れた納豆のパック、いつか食べようと残しておいた板チョコレートなんかが入っている。他にも紹介する価値もないような、明日燃えるゴミの日に捨ててしまっても家族の誰も気づかないような食材ばかりだ。はぁと溜息をつき、たまには整理するかと作業をしていると、廊下の1番奥にある引き戸が開き、風呂上がりで髪が濡れたままの妻がこちらへ向かってきた。
「電気代、何回言ったらわかるの?」
そう言って洗面所に行き、ドライヤーをかけると僕の「ごめん」はその音にかき消された。
冷蔵庫を開けっ放しにすると電気代が増す。これはまあ百歩譲ってわかる。でもそれなら、いったい全体いつ冷蔵庫を整理して綺麗にしなきゃならんのか。
「わけわからんねえ」
「なんか言った?」振り向くと肩まで伸びた乾き切ってない髪を下げた妻が背後に立っていた。
「うわ」
「何?」
「いや、なんでもないよびっくりしただけ」
「なんでびっくりするの?」
「突然後ろに立つからじゃん」
ふふっと笑って妻は僕の脇から、炭酸水を手に取り、勢いよく飲み始めた。気にせず作業を続ける。
「お風呂、入ってきな」
「今やってるから」
「あたしがやっておくよ」
「うーんじゃあお願いします」
「おっけー」そう言って場所をかわり、僕は廊下の一番奥の脱衣所へ向かう。
「ねえ。いつもありがとう」
「はいよ」
そう言い残して僕は少しぬるくなった風呂に浸かり、ああと声を漏らす。
こんなぬるま湯がとても心地よい、5月のとある日の夜。




