Part 2
アルビオンとジェード帝国の国境 2013年1月9日 24:12
ジェード帝国の優勢な軍勢による幾波にも及ぶ攻撃に対抗する術もなく、防衛隊長エースは、ジェード帝国軍の司令部を単独で混乱させ、混乱に陥れるという、かなり危険な賭けに出た。
「よし、ジェラール。敵の司令部へ向かう…時間が長引いたら、我々の体力が持たないぞ。」
「…了解!」二人は生まれて初めて息が合った。
「クリック一つで行くよ。」
真夜中の会衆という幻想の世界では、すべてが幻想というわけではない。スレートは確かに何ものからも生み出されるものではないが、DDSによって作られたスレートや武器を扱うスキルは幻想ではない。使い手は幻想と武器のイメージを維持するために集中力を必要とするが、他者と戦うためには自身の肉体も必要だ。
千光はそのようなスキルの一つで、このスキルは真夜中の会衆の住人を瞬時にある場所から別の場所へ移動させることを可能にする。閃光の距離は「クリック」と名付けられている。訓練によって個人差はあるものの、1回の「クリック」は最低3キロメートル、最大5キロメートルに達する。継続的な訓練を積めば、最大10キロメートル以上にも達することもある。
アルビオン王国屈指のベテラン騎士であるエースは、厳しい訓練を経て、敵の司令部へ瞬時に辿り着くほどの腕前を身につけていた。
「アルビオンの大国は最強とうたわれたのは伊達じゃないてこと。。。」
クリック
ジェード帝国の将軍、ルイ・シャオ・ジンは、戦場における戦術、つまり人数、地形、指揮といった要素が戦況を大きく左右することを理解していた。これは子供でも理解できる常識だ。小規模な軍勢を大規模な軍勢で圧倒すれば、戦況は誰の目にも明らかだった。だが、ルイ・シャオ・ジンの常識は裏切られた。世間の常識に支配されてきた35歳の将軍にとって、アルビオン騎士団はジェード帝国の圧倒的な兵力に持ちこたえているどころか、今や自らの三倍もの兵力を相手に大規模な攻勢をかけているのだ。境界線のすぐ外で戦っていた男が、今、目の前にいる。
ジェード帝国F.A.T.の将軍、戦士にして将軍に深い敬意を払い、エースは右手に鍔のない直刀、左手に鞘を携え、敵に通じる言葉で語りかけ、一撃を放つ構えを取った。
…死あるのみ…
真夜中の会衆にとって、死は絶対に許されないものだ。苦痛の比率を抑えることで、実際に死に至る可能性を最小限に抑えることができる。真夜中の会衆にとって、死は絶対に許されないものだった。なぜなら、説明のつかない死が起きた際には、政府が捜査に乗り出すことになるからだ。
しかし、刺されたという感覚は、身体に大きなトラウマを与える可能性がある。一時的に一定時間麻痺したり、最悪の場合、永久に動けなくなるほどの苦痛に襲われることもある(そのような事態に陥った場合、記憶は消去され、その人物は真夜中の会衆から永久に追放される)。
将軍は今、この戦場で最期の瞬間を迎えようとしていた。ルイ将軍は満足していた。同世代の者には理解できないであろう理想のために、彼は懸命に戦ったのだ。しかも、彼の時代、この時代において…彼は非常に興味深い戦いを繰り広げたのだ。
それは、完全な勝利への、ほんの一瞬の差だった。
ザシ
「!!!」
ルイ将軍… 全軍撤退!
体のラインを完璧に表現した、翠龍の紋様が描かれた深紅の旗袍をまとった少女は、まるで風に吹かれながら舞うように、静かに着地した。黄金の龍の仮面を被りながらも、微笑んでいるのが見て取れた。戦場への高揚感が、この少女を体躯に似つかわしくない戦場へと駆り立てたのだ。彼女の名は后太子。『孤高の意志の地、禁断の王国』ジェード帝国の皇后。
「また会ったな…辺境騎士…エース・C・ブラッドフォルト」
王は戦場に姿を現すだけで、兵士たちの士気を再び覚醒させる。王の存在は絶対的な権力の象徴であり、その存在だけで敵に恐怖を与える。エースも今、まさにその恐怖を感じていた。十三花が境界を守り、キアとジェラールが閃光を行使できないため、エースはまさに怪物と呼べる存在との戦いに、たった一人で立ち向かわなければならなかった。
避けられない事態が起きたようだ。エースは明らかに不利な状況にあったが、騎士としての誓いを胸に刻み、心を落ち着かせるように深く息を吐いた。そして直刀を鞘に収め、若き皇后に視線を定め、居合いの構えを取った。
彼女は自身の戦闘態勢を示すかのように、金色の龍の仮面を外した。蒼い月に照らされた少女の姿は、微笑んでいた。髪は両サイドにきれいに流れ、深紅の瞳は喜びとしか言いようがなく、ピンク色の唇がその輝きを添えていた。
「我が名はタオ・リン。後太子の異名を持つ者、『孤高の意志の地の禁断の王国』の王位継承者、ジェード帝国の王女。」
彼女はエースに戦いを挑み、誰にも邪魔されず、二人の戦いを汚すことのない、一対一の決闘を誓った。
「アルビオンの騎士よ、名前を名乗れ。」
「名前はもう聞いたはずだ…そうか、挑戦状か。」エースは、部下二人と、そして今アトリエで働いている少女と同い年かもしれないこの少女に、もう一度自分の名前を呼ぼうと、少し考え込んだ。どうして彼女が『王』たちの運命に巻き込まれたのか、彼は疑問に思っていた。しかし、今はそんな疑問に浸っている場合ではない。そのまま、彼は王に…いや、戦場に立つもう一人の戦士に自己紹介した。
「『魔法の国、大剣の王国』の理想を体現する者、アルビオン王国の騎士、エース・クロニリウス・ブラッドフォルテです」
少女は興奮を彷彿とさせる笑みを浮かべ、エースが名前を言い終えるや否や、戦いの始まりを告げるかのように、二人は互いに飛びかかった。二人の剣は、初めて出会ったあの夜のように、再びぶつかり合った。
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リンは紫色の9撞大刀を二つ振り回し、エースに5連撃を放つ。一方、エースはこの美しくも巧みな王の攻撃を2回かわし、残りの攻撃を受け流すのがやっとだった。エースの居合いの構えは、リンのより変化に富んだ連撃の前に全く通用しなかった。エースに休息を与えることなく、リンは容赦ない攻撃を続ける。
一方、最後の一人が生き残ることが戦いの終結を意味するかのように、ジェード帝国の兵士たちは、3時間近くも戦い抜いても倒せなかった騎士と、王が今や一騎打ちの真っ最中であるのを見守っていた。キア、ジェラール、そして十三花もまた、周囲を気にせず戦い続ける二人の姿をじっと見つめていた。