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Kings of the Midnight Congregation♛東の竜♛  作者: 冬月・かおり
PROLOGUE: 反逆の夜 ♛ At Rebellion's End
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挿絵(By みてみん)


フィリピン、セブ市。2011年8月15日 23時30分

セブ市中心部から50キロ離れた郊外、廃墟となった建物の外では、夜が更けるにつれ騒音が増していた。サイレンの旋回音は、慣れない目には耐え難いものだった。騒ぎが続くにつれ、騒音はパトカーの悲鳴以上のものだと気づき始めた。銃声、荒い呼吸、苦痛の叫び声が混ざり合っていた。


この廃墟の足元では、警察官と医療スタッフが負傷者を運び出し、同じ廃墟から運び出された負傷者に応急処置を施していた。苦痛に叫び声を上げる仲間の手当てにあたり、じっとしている警察官は一人もいなかった。


騒音に気を取られていたとはいえ、景色から何か異様なものを感じ取らない方がおかしい。倒れた警官たちが苦痛に叫び声を上げていたにもかかわらず、目に見える傷はなく、被害者たちが体を押しつぶした場所から、まるで存在しないように見える穴や深い傷を隠すかのように、一パイントほどの血が滲み出ていた。


この奇妙な戦闘によってもたらされた事件を監督する任務に就いた警察署長は、自分自身も、そしてこの血みどろの現場に到着した十数人の警官たちも全く理解できない、一見奇妙な状況を何とか明らかにしようと、困惑して首を振っていた。


「あの廃墟の中で一体何が起こっていたんだ?」夜が更けるにつれ、銃声と叫び声が響き続ける中、警察署長は頭の中でこの言葉を繰り返した。


❀❀❀❀❀


ユディキウム城、内陣 2011年8月15日 23:35

城の最奥の部屋へと続く通路の外から聞こえる物音は、まるで遠い夢のように聞こえた。あるカップルが秘密の廊下の奥深くを歩いていた。赤い絨毯が建物の中心へと続く道を示していた。背後にいた男性は若々しい輝きを放っていた。絨毯の床から視線を上げると、目の前にいる若い女性に視線を向けた。


その若い男性の連れは、まるで既に決めた道を阻むものなど何もないかのように、ただひたすらに歩みを進めていた。この女性の小柄な体型と風貌は、彼女がまだ子供だと思っている人々を裏切っていた。22歳という年齢にもかかわらず、その華奢でスレンダーな体型は、その年齢をほとんど隠していた。漆黒の腰のラインを描いた髪は、廊下の奥へと歩くにつれて、絶え間なく揺れていた。乙女が歩き続けるにつれ、白いサマードレスが天井に差し込む明かりに照らされた彼女の体のラインと曲線を鮮やかに照らし出した。その白いドレスは、彼女を完璧に体現していた。純粋で、汚れのない魂…彼女を見ているだけで、青年は心が安らいだ。


乙女の後ろ姿を見つめ続ける青年は、この関係が永遠に続くことを願った…そして、この関係を永遠にするためならどんなことでもした…そう思えたのだが、あのか弱い乙女から発せられる声が、彼の決意を揺るがすことになる。


「ここまでお連れしていただき、ありがとうございます…」 少女の穏やかで優しい声に、青年はたちまち立ち止まった。まるで電撃が走ったかのように、その声に瞬時に反応した。


青年の方を向いた少女は青年からほんの数センチしか離れていないのに、青年は二人の距離がずっと遠く、自分の腕の届く範囲にあるように感じた。青年は、このか弱い少女を見つめ続けた。年齢の割に小柄な体型でありながら、成熟した女性の魅力を湛えていた。腰のラインを描いた絹のような黒髪は、城に閉じ込められた淀んだ空気にも揺らめき続けていた。


彼は少女の髪の、果てしなく続くような揺れを見つめた…しかし、それ自体も永遠ではない。これが終わりだと悟ったかのように、彼は一瞬目を閉じ、彼女の名前を呼ぼうとした。


「…ここまでが、一緒に行くべき道だ。」


その言葉を聞いただけで、青年はただ自分を呪うしかなかった。若い乙女は、彼や仲間たちが思っていたほど弱々しくはなかった。彼女の心は澄み渡り、決意に満ちていた。彼女の声には確かな確信が込められていたが、同時に、その声からかすかな恐怖も感じられた。


「エレナ、私は…」


罪悪感から、青年は次の言葉をためらった。少女の名はエレナ。長い間、この青年はこの純真な少女に心を奪われ、自分のものにしたかったのだ。闇を突き刺すような漆黒の瞳。触れた瞬間に崩れ落ちそうな、脆い体…紅のように赤い唇…


彼は彼女に愛していることを知ってほしかった。彼女を抱きしめて、どこかへ連れて行きたかった。彼女が背負わされた重荷…彼女が自ら選んだ十字架を背負わなくて済む場所へ。


しかし、彼が言葉を言い終える前に、エレナは彼が居眠りしている場所にゆっくりと近づき、柔らかな人差し指をそっと青年の唇に触れ、そっと首を横に振った。彼が愚かだったことは、もちろん彼女にも分かっていた。


「ジンをよろしく」エレナの冷静でまっすぐな視線が青年の瞳に釘付けになった。


青年の口からは沈黙が漏れた。


まさに彼のせいだ…「ジン」。彼が罪を犯すことを選ばなければ、エレナは…


「いや、絶対に殺す!」青年は、彼女が聞く目の前でその言葉を吐きながら、後悔の念を一切見せなかった。まるで、その言葉を聞かせることで彼女の心に変化が起こり、決断を揺るがすかのように。その言葉は彼女の心に怒りを宿し、その青年を憎むようになるかもしれない…その方が良かったかもしれない。それが彼女の新たな「RAISON'D ETRE(希望の光)」となるかもしれない…しかし、彼の希望的観測は甘かった…


闇を貫く漆黒の瞳、彼の意図を見透かした瞳、あの邪悪な黒幕。エレナはいつものように、意味ありげで、穏やかで、優しい微笑みを彼に向けるだけだった。


「もう行かなきゃ」


秘密の廊下の奥の扉の奥には、一つの部屋があった。それは「ドリームドライブシステム」の心臓部とも言える部屋だった。「IUDICIUM」の理想を具現するために創造されたシステム、まさにそれが、青年の美しい乙女、エレナを奪い去ろうとするシステムだったのだ。


エレナは空っぽの部屋に身を横たえた。遠い過去の記憶が頭の中で再生される。それが良い時代のものか、悪い時代のものか、彼女にしか分からなかった。


❀❀❀❀❀


幻影の王…ジンは、何らかの気まぐれな理由からDDシステムを用いて幻影の怪物たちを際限なく召喚し、今やまさにあの城からの脱出を目指して暴れ回っている。幸いなことに、これらの怪物たちはまだ「IUDICIUM」の城から出ていない。幻影の王がもたらした狂気を止めるためにエレナ陣営に加わった他の人々によって、何らかの形で阻止されているのだ。


DDシステムによって生み出された怪物は、確かに単なる幻影であり、無意識の断片に過ぎない。しかし…たとえそれが単なる幻影であっても、人間の心がそれを現実として認識する限り、そこには苦痛があり…死がある…


通常の手段は考えられなかった。そもそも、存在したことのないものを殺すことはできないのだ。希望に満ちた英雄たちにとって最後の希望は、誰かがクリーチャーを鎮め、絶え間ない繁殖を止めてくれることだった。まさにこの部屋には、「王」が使用するシステムとは別のシステムがあった。しかし、誰にでもできるわけではない。相当に高い知能を持ち、複数のクリーチャーを一度に操れる者…そう、エレナのような者だ。


複数、いや、数千ものクリーチャーを召喚するのはエレナの得意技だった。そのため、計画が発表された時、彼女は真っ先に選ばれ、即座に同意した。しかし、彼女がこの計画の生贄となることを志願した理由はそれだけではなかった。


王のシステムに匹敵する完璧なシステムを構築する時間があれば、もっと良かったかもしれない。しかし、システムの複雑さゆえに不完全なものとなり、大きなリスクを伴っていた。そして、それがこの計画の致命的な欠陥でもあった。怪物を操る運命にある者は、この部屋の範囲内でしか生きられないのだ…つまり、エレナは永遠にそこに留まらなければならないのだ…


「どうしてこの少女をこんな運命に陥れてしまったのか?」青年は何度もその問いを繰り返した。しかし、答えは既にそこにあったのかもしれない。


❀❀❀❀❀


エレナがDDシステムのチャンバー内に閉じ込められると、センサーは即座に自動シーケンスを生成し、ドアを施錠する。チャンバーが完全に閉まると、誰も開けることはできない…いや、「誰も開けてはならない」。無理やり開ければシステムに重大な支障が生じ、普段は定期的に出現するクリーチャーが不安定になり、暴れ回る。そして、それだけでは終わらない。チャンバーに入ることを選んだ者の精神は破壊されるのだ。


「まだ間に合う!彼女を無理やり走らせれば…止められれば…」しかし、青年の体は動かない…「私は本当に、我々のいわゆる理想の世界…ユートピア…に酔いしれていたのだろうか?」


*スライド


彼は動けなかった…いや、青年は動こうとしなかった…


部屋の扉が閉まると、エレナの瞳から光がこぼれ、白い頬を伝うように涙が流れ落ちた。彼女は何かを言っているようだった。それが聞こえるようだった。


「…ありがとう」


…罪悪感が、たちまち青年の心の奥底を駆け巡った。そして、エレナという名の少女が視界から消えた途端、怒りが彼の心を満たした…彼は「彼」を見つけなければならなかった…彼は「ジン」を殺さなければならなかった…

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