4 ダイダロス
我は、この世界に飛ばされてきて以来、我の同族に会ったことはない。
我は、物作りの天才だった。だが、余りにも危険な武器を造ってしまった罪でこの世界に閉じ込められるという罰を喰らったのだ。
この世界の人間は我を見ると皆怖がって逃げていった。我に石を投げ、追い出し、剣を持って退治しようと、追いかけられたこともあった。
我がこの世界に来た時、ここは魔法のない世界だった。地下にはマナが豊富にあると言うのに地上には全くなかった。
我はマナのない世界で生きていくのは辛かった。そこで地下深くに潜ってマナを吸収したのだ。しかし地下にいるのは孤独だ。我と同じ生きものを作れば孤独を癒やせるのにと考えたのだ。
各地にダンジョンを造って遊びながら「この地にマナを行き渡らせれば、魔物が増えて行くのではないか。」そう考えたのだ。その中から我と似たような物が生まれ出るかも知れないのだ。長い牢獄生活の無聊を託って造ってきたがそれも飽きてしまった。
この世界の人間は、誰も我の造ったダンジョンには近づこうともしない。皆化け物を見るように我を見るのだ。
最後に造った海のダンジョンは途中で投げ出してしまった。あそこを完成させる気持ちも萎えてしまったのだ。今はここで只管帰れる日々を指折り数えている。
以前の世界にはまだ帰る事は出来ない。罪を犯して追放された我が帰れば、今度こそ滅せられるだろう。だが、もう少し我慢すれば帰れるようになるかも知れない。それまではここで生きていかねばなるまい。そう考えていたが、今目の前に魔力をふんだんに持った人間が現れたのだ。
若しかしてもう一人飛ばされてきたのか?やっと、我の孤独を癒やすことが出来るのか?しかしよく見ると我の世界の人間とは違った。魔石を持っているようだが、我のとは違う。このダンジョンに潜って1000年が経つ。その間に生れた新しい種属なのだろうか。
「貴方は、魔人ダイダロス?」
人間が何か言っているが言葉が分からない。
【ダイダロス。貴方のことを話してあげなさい。私が代わりに伝えてあげますよ。】
見張り人のガイアが我に通訳を買って出てくれた。
ダイダロスはこれまでのことを話してくれた。彼の額には黒い角が生えていた。キラは、『この人は前世で言う鬼に似ている。』と思った。魔石が角のように突き出しているが先っぽが欠けていた。
彼は罪を犯して角を半分折られてしまったという。この世界とは違う世界から、魔力のない世界へ追放されてきたのだと。ずっと孤独で、それでここを魔物が住む世界に変えたのだと。
「ガイヤは、彼がこの世界を変えてしまっても、大丈夫だったの?ダイダロスの新たな罪にはならないの?」
【私は彼の監視役。彼の行動は、誰も傷つけないで愉しい異界の門を作っていただけだもの。私の世界を変えて貰って、有り難く思っているの。この世界の魔力をどうやって回そうかと考えていたくらいよ。】
「だったら、早めに返してあげれば良いのに。こんなに寂しがっていて可哀想だわ。」オイビーがガイヤに懇願している。
【そうね、ダイダロス。貴方帰りたい?元の世界へ特赦で返してあげるわ。】
ダイダロスは眼を大きく見開いて、ガイヤに感謝した。
彼はお礼にと行って、ここをキラ達にくれるという。ここは魔物を倒してしまえば復活しない。地上と同じような造りだと言った。いよいよダイダロスが帰ると言うときに突然ゼロがキラに言った。
【キラ、儂は、ダイダロスについて行きたい。憧れのダイダロスの故郷を見て見たい。】
「ガイヤ、ダイダロスは、ゼロを連れて行ってくれるだろうか?」
【・・大丈夫みたいよ。ゼロ貴方は、そのままでは闇が濃くてダイダロスの世界では受入れてもらえない。ダイダロスの額に同化しなければダメだけど、それでも良い?】
【もちろんじゃ。儂などを連れて行ってくれるのなら、何でもするわい。】
ゼロがダイダロスの額に同化すると欠けていたダイダロスの角が元通りになった。
ガイヤがダイダロスに光を纏わせ【汝の贖罪はこれにて終わった。】と言った。すると、ダイダロスの黒かった角が銀色に変わっていた。
そして足下に転移陣が現れて、一瞬でダイダロスは消えて仕舞った。
【私の役目も終わった。暫く地に眠ります。】
ガイヤまで消えて仕舞った。
「キラ、みんな、いなくなってしまったね。」
「ああ、何だか寂しい。今まで五月蠅いくらいだったのに。」