2 オイビーと行く異界の門
オイビーと慌ただしく式を挙げ、ギルドや領主の皆に祝福を受け、照れながらダイダロスを後にした。
もう誰にも知らせる事はしなくて良いだろう。師匠は死んで仕舞ったのだから。結婚したことを知らせれば各国がこぞって祝いに駆けつけてくる。それは避けたかった。ダイダロスの領主も、暫く内緒にしておいた方が良いと言ってくれた。
「もしバレたら、結婚相手は、オルンス国の人間だと言っておこう。そうすれば影響はないだろう。」
そうか、オイビーはオルンス出身だった。今でもオルンスは鎖国状態だ。影響は少ないだろう。領主に感謝だ。彼等は今でもキラの保護者として力に成ってくれている。
オイビーはこれから始まる冒険にワクワクしているようだった。
「本当に結婚すると言うことが分かっているのだろうか?」
少し不安になるキラだった。まあ、遣ることはやったので今更なのだが。
【レベル上げなら、竜の異界の門がいいわ。あそこにはまだ、キラが知らない秘密があるのよ。】
ガイアがそっとキラに耳打ちする。
【何!秘密があるとな。キラ、早く行こう。儂も気になる。】
ゼロが急かせて、勝手に異界の門へ転移しようとするのでキラが慌てて止めた。
「ゼロ、オイビーを置いていってどうする。一緒に転移するから。」
オイビーは独り言を言っているキラを変な目で見ている。
その内にオイビーにも聞こえるようになるだろう。彼等の声は聞こえる人とそうで無い人がいると少し前に気付いたキラだった。
どんな選別がされているのかは、未だに分からないが。
「本当に竜が一杯いる!」
オイビーと異界の門の前で、竜達を見て居た。
以前キラが殺してしまった竜だが、少しずつ増えて来ているようだ。まだまだ以前の数には追いついていないが、これから元に戻っていくようで安心した。
「さあ、入ってみるか。」
二人は異界の門をくぐっていった。
初心者にとってレベル上げに向いている異界の門は、オイビーのレベル上げに最適だった。
一階層は、角ウサギや、ゴブリンやスライムが単体で出てくる。
オイビーが一人で倒せるレベルなのでキラは側で見ているだけで良い。
危なげなく倒して進んでいく。オイビーはどうやら余り魔法を使わないで、倒すのが好きなようだ。魔法を使えばもっと簡単に倒せるのに、妙なこだわりを持って、片手剣でスパスパ切って捨てている。
左手には小さな盾を持って、飛び込んでくる角ウサギを受け流しまた向かってきたところを切り込んでいた。
魔石を拾って、魔法鞄に入れて、次がくるのを待ち構えている。
「サムに鍛えて貰ったのか?」
「ううん、前のギルド長。閑だからって付き合ってくれた。」
「何故魔法を使わない?もっと簡単に倒せるだろ。」
「ギルド長が、魔法を使っていなかったから。」
そう言うことか。魔法の使い処が分からないのか。神殿では光の治癒しか習っていなかったのかも知れない。使う機会がなければ、攻撃魔法の練習などしないのだろう。
「オイビーは冒険者に成ってどれくらい?」
「二ヶ月くらいかな。それまでは神殿で治癒してた。一杯患者が来て忙しかったよ。もう一人の魔石持ちがそろそろ育ってきたから、神殿を出ようと思ったの。オイが居なくても良くなったでしょう。」
「もう一人の魔石持ちは、男の子だったか。大きくなれば、神殿長になるかもな。」
「うん、そう言ってた。オイが居れば困ったんじゃぁないかな。」
優しく育ったな。その子のために神殿を出たのか。オイビーは、目に魔石があるから、もう一人よりは力があったはずだ。彼女が神殿に居れば、如何しても上になって仕舞う。だから、早めに出てきたんだろう。
「と言う事は、オイビーは、攻撃魔法を練習していないのか。これから鍛えないとな。」
「うん、よろしくね!」
順調に七階層まで来て、魔獣が手強くなってきたところで、キラが手伝う事にした。階層ボスを倒して、そこで休む。
「ここで一晩過ごそう。風呂を入れる。一緒に入るか。」
「なんか、キラ、イヤらしい目をしている。」
えっ!そんな目をしているか?夫婦なんだから別にいだろう。いそいそと風呂を沸かし、二人でゆっくりイチャイチャして、寝袋に入って寝る。
何となく満たされた、まったりとした雰囲気だ。こんなにも安心して心を許せるのは夫婦になったからだろうか。
今まで付き合ってきた女の人達との関係とは全く違う、家族というカテゴリーに収まって自分は完全体になったような錯覚を覚えた。