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1 賢者の最後

 キラは何時もの自分の部屋に転移した。

この頃は魔法大学校に通う生徒が沢山敷地内にたむろしている。木陰で休ん女子生徒と愛を語らう姿もちらほら見受けられる。キラとそんなに年齢が違わない生徒達が愉しそうに過ごして居た。

 その中で賢者の屋敷は其の侭で残っている。ここには生徒達も近寄らない。

高名な賢者は偶に講義に出てくる程度だが、皆に尊敬されている。しかしこの頃は講義には出ていない。彼の寿命が尽きかけているのだ。

キラはここで師匠の最期を看取るために暫く滞在しようと考えている。

師匠は揺り椅子に腰掛けて庭を見て居た。

「師匠、只今戻りました。お加減は如何ですか?」

「おお、キラか。よう帰ってきた。こちらにおいで。顔を見せてくれ。」

師匠の視力は殆ど無くなっている。キラの魔法でも、寿命には効果が無いようだ。師匠の年齢は百歳だという。そうか。普通の人の約2倍生きたことになるのか。ゼロは百八十まで生きたと言っていたが、本当かどうかは分からない。何せ適当な奴なのだから。

「師匠どこか痛いところは無いですか。あったら言って下さい。僕が和らげて差し上げます。」

「この頃は調子が良いのだ。何処も痛くは無いのだよ。キラが来てくれて、素晴らしく満たされた。君のお陰で有意義な人生だった。」

そう言って師匠はそれから3日後に亡くなった。

師匠の葬儀は国葬になった。王も皇太子を連れて参列して泣きながら賢者の在りし日を忍んでいた。皇太子は今年7歳になる。そろそろ魔石を同化したいと王は言った。

「僕には出来ません。神殿でなさって下さい。」

「そうだったな。済まなかった。聖者は何処にも依怙贔屓をしては成らないのだった。君は妻を娶らないのも原因はそれか?」

そんなことは考えていなかったが、確かに言われてみれば、そうだ。どこかの国の女性を娶れば、その国に対して思い入れが出来てしまうかもしれない。

聖者という称号は思いのほか自由が利かない物だった。

「聖者を辞めるにはどうしたら良いのか。」

キラのことは何処へ行っても知られていて、直ぐに各国の神殿へ招かれてしまう。だが、キラにはもう遣ることは残されていない。

神殿には優れた術を使える神官が一人は必ず居たためだ。

今更キラだけが聖者と呼ばれるのは可笑しいのだが、神殿の力を押し上げた立役者として敬われているのだ。その為何処へ行っても力を使う事が許されない。その国だけが特別になって仕舞う恐れが出てしまうからだ。

そして神殿で力を使えば、そこの神官は力を見くべられて立つ瀬が無くなるだろう。キラは只のお飾りになって仕舞った。

「もう、みんなに聖者の称号を与えてしまえば良いのでは無いか?」

キラにはこの世界で、隠れて住む場所は残されていないように感じた。

もう師匠もいなくなったのだ。静かにじっとしていたい。

「サミアへ行って見るか。」

ダイダロスへは3年も行っていなかった。

各国を回って忙しくしていたためダイダロスのギルドへは顔を出す程度だった。

師匠がいなくなった今、秘密の拠点があるダイダロスのギルドで暫く隠れ住んでも良いかもしれない。


「キラ!随分久し振りだ。元気そうだな。」

今ではギルド長になったガンザが、キラのために用意して居る部屋に入ってきた。サムも駆け寄ってきた。

「物音がしたから、もしやと思ってきたら、やっぱり来ていた。キラ暫く居られるんだろう?」

「ああ、暫くここで隠れていたい。良いか?」

「ああ、有名人は大変だ。魔道具でも作ってゆっくりしていろ。」

そうだった、魔道具があった。ずっと作る事をしていなかった。まだキラにもやれることはあった。

「そう言えばオイビーはどうしている?巫女になったのか?」

「イヤ、巫女には成りたくねぇんだと。陰気くさくてイヤだって言ってた。冒険者に成って今、レベル上げをしている。」

オイリーが冒険者か。確かにお転婆なオイビーには巫女の生活は堅苦しく感じるだろう。

 久し振りに心穏やかにゆっくり魔道具を作って、満ち足りた一人の時間を過ごした。

階下から、バタバタと騒がしい音がしてキラの部屋の前まで来て、ドアをバタンと開ける者がいた。

 そこには赤毛のバサバサの髪を無造作に掻き上げて片眼に眼帯をしたオイビーが立っていた。身長がかなり高く、スラリとした長い手足で胸が大きい。

何時の間に、こんなに大人になっていたのか。

キラは余りにも変わってしまったオイリーを、呆然と見つめていた。

「キラ!やっと帰ってきた。馬鹿!ドンダケ待たせるのよ!」

キラはきょとんとした。待っていてとは一言も言った覚えはなかった。

「何故待っていたんだ?僕はそんなこと言ったか?」

「何言ってんのよ!好きなように生きろと言ったよね。だからキラと一緒に生きることに決めた。だから、冒険者に成ってキラに何処でも付いていくって決めた。分かったか!」

何という論理だ。好きに生きろとは言った。だがキラの気持ちを無視して勝手に決めてしまったのか?

「キラにはオイをつれて来た責任があるって言った!責任取って。」

「責任はあると感じているが、オイリーは僕と一緒に居たいのか?詰まらない旅ばかりの生活だぞ。」

「キラが良い。こんなオイでも良かったら、一緒に連れて行って。オイは、巫女さんに言われたの。オイは寿命が長いから、伴侶が先に死んで仕舞うだろうって。オイはもう独りぼっちになるのはイヤだ。だからキラで良い。」

寿命が長いからキラで良い。と言う何とも味気ない愛の告白だ。

キラは可笑しくなってしまった。

「そうか、じゃあ一緒になろう。一緒に異界の門へ行ってレベル上げもしてやろう。僕と一緒になりたければ、もっと鍛えないと危険な場所へは連れて行けないぞ。」

「分かった。何でもする。」

と言ってニカッと笑った。綺麗な歯並びが光っている。

初めて会ったとき乳歯が抜けた、間の抜けていたオイリーを思い出して、不思議な感慨を覚えた。






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