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ノーストラファミリーとの邂逅

ギャンブル知識は競馬しかないので、ポーカーはネットで調べただけです。


*ヴォルテールですが、次男→長男に変更してます。


明朝。朝日が出てきて間もないころにそっと婚約者の邸宅から馬車を出した。

出るときに鏡を見て思ったが、盛大に殴られたなと実感。

思いっきり顔に痣があるのだ。


ドレスは流石に婚約者が用意してくれた。本当に迷惑かけてすまん、と心の中で陳謝しとっとと邸宅を出る。これで謝罪なり返礼などしたら、彼らはもっと嫌な気持ちになるかもしれない。

もっと自分の場所を確立してから迷惑料を払うべきだと考えた。

といっても、婚約者ならば王家に相談とかできないのだろうか。なぜ見て見ぬふりをするのか。

おそらく父が連れてきたあの女の差し金だろうな。婚約者の家の装飾品の何点かはあの女からの贈り物だろう。

返礼などは後からでいっかと考えることをとりあえず辞めた。



エレナの乗る馬車は自宅の邸宅には向かわず、とある大きな会場に向かっていた。


「…お嬢さま、このような場所におひとりで‥」

「母上に申し付けられたの。ここで金を用意してから帰って来いと。あなたは一度戻りなさい。負ければ私は帰れないのだからいかようにもなるわ」

「‥‥かしこまりました」


嘘だ。

あの女なら言わない訳ではない言葉だが、あの女なら娼館に私を置くだろう。

ここの存在はあの女と父がちちくり合いながら話していたから、知っていたぐらいの情報だった。


「…おもいっきり、カジノだなあ」


前の世界でよく見るカジノの世界で見かけた大豪邸。

それらを彷彿させるかのような絢爛豪華な装飾である。まあ、ここは一応は社交場といして貴族間の憩いの場であるらしい。まあ、厭らしい限りだこと。

「モンテカルロ」と表記がある。この世界を創った人間はおそらくギャンブル好きかもしれない。

そもそも日本人が馴染みのないカジノだが、ここ最近は近しい存在になったりしているのだろうか。


ヨーロピアン調の玄関口へ行き、黒服の男らに家柄を聞かれた。ふむ、ここで身元を確認するのか。

テレビで見た、と言わんばかりのカーテシーを簡単に行い「フーヴァー伯爵家が長女、エレナでございます。母と来訪予定ですが、母は至急要件があり後ほど参ります」と澄ました顔で言った。

やはりここは伯爵家ブランドなのだろう。それかシンプル疑うべきではないと判断されたのか、魔道具で作られたインカムらしきものを付けた男が指示をもらったようだ。

エレナは合格らしい。



会場内は吹き抜け構造となり、正面ロビーの真上にはでかでかと巨大なシャンデリアが眩い光を放っていた。

痣のある少女がなぜここに…と視線がいたいがここは「いつも通ってます」みたいな感じでそそくさとキャッシャーへ行きカジノチップと交換。そして何食わぬ顔でポーカー場へ向かった。

前の世界の自分はネットゲームでポーカーを遊んでいた。それに実際のプロポーカーの動画を視たりなどと座学はしている。顔面に痣付きの少女がいきなりポーカーにきたら周囲が驚いてた。

流石に怪しいな‥と自分でも思い即座に「乗馬の練習をしてたら落ちてしまったの。落ち込んだ私に大好きなポーカーをしてきていいって言われているの。ごめんくださいませ」とセンスを口元にやって照れた表情をしていると周囲の大人たちは笑ってくれた。

ディーラーも笑みを浮かべて、輪の中に入れてくれた。


―――よし、資金調達だ



ゲーマーであった過去の自分に喝采を。

冷え冷えとした卓を離れたのは、そのポーカー場のゲームマスターから声がかかった時であった。

結果としてエレナは大勝利を得た。まあなめてた大人たちも慈善活動のような表情で始めたのが悪かった。ポーカーは経験値が重要でかつ、勝利の確立を冷静に判断する場所だ。

生憎とエレナの脳内にはハンドレンジの一覧と合理的な勝敗の見分け方を思い出していた。

痣もある表情を読み取るのは難しい。しかも子供だからと言って表情も変わらない。なんなら、ゲームが入った途端に集中モードになるのだから大人らはたじたじであった。

まあ、ミニマムベットから始めたのも隙をつくらせるためだったからとエレナの策略通りの結果となった。


案内されて進んだ会場は前の世界でいう「VIP」対応のエリアだろう。

調度品が2ランクぐらい上がっている。そして、ドリンクの質も桁違いによいものになった。

自分で持てないくらいのカジノチップを稼いだため、後ろにカジノの黒服が一人ついた。


エレナにはここ「モンテカルロ」という社交場で成し得たいことは2つあった。

1つは資金調達。2つは、このモンテカルロを保有している公爵家「ノーストラ」家のオーナー「ロレンツィオ・デッラ・ノーストラ」と対面で会い彼らの組織にいれてもらうことであった。

つまり、身柄の保護。


エレナはノーストラ家がどういった動きをするかを確認するためこの社交場に来た。

この痣が証拠になるうちにノーストラ家にかくまってもらおうという算段なのだが、これは賭博に等しい。

空気が変わった会場に少女は一人不安そうな表情を浮かべた。

するとここのマスターらしき青年が現れた。オールバックに眼鏡。物腰は柔らかそうだ。


「やあ、お嬢さん。ようこそ、ノーストラ家が運営しているモンテカルロへ。君は幸運の女神が付いているようだね」

「ええ、今日はついているわ。でも、こんな場所初めて来たわ」

「そのようだね。なんてたって君は、一度もモンテカルロに来たことはないだろう?」


青年は微笑んでそういった。視線が笑っていない。

警戒されてからが勝負時だった。青年は自分のことを「ヴォルテール 」と名乗った。彼はノーストラ家長男のヴォルテールなのだろう。まさかモンテカルロのゲームマスターをしていたとは目から鱗だ。

さらに特別室のような個室に案内される。

差し出されたのは、子供が好きそうなオレンジジュース。口に含むと酸味が口内の傷に響いた。

少しだけ眉間に皺を寄せた。

その表情だけでヴォルテールは気が付いたようだ。


「さて、君のことはある程度調べたよ。今さっきの情報収集だから拙さがあるが…。エレナ・フーヴァー。長女だがここ最近夜会にも出てないね。さらには、後妻から折檻を受けられているそうだ。ここに来た口実の母が後から来るというのは嘘だろう。君の母の噂ならこちらも聞いているからね。あの人なら君を娼館に送るだろう」

「よくしらべましたね」

「それはそうだろう。ここはノーストラ家だぞ。エレナ・フーヴァー嬢、君はなにしにここに来た?」


この男ヴォルテールはただカジノをしに来た女子として見てないようだ。

あの短時間でよくも調べたものだ。さすがはこの国の黒幕と言えるレベルで暗躍している天秤屋だ。

エレナは凛とした表情で「冷めた…コーヒーはありますか?ブラックで」とオーダーした。







@ @ @ @




「モンテカルロ」から至急来られるよう魔道具でそう通信が入った。

大体はいかさました客対応や隣国の重鎮案件なのだが、ヴォルテールは通信内容に怪訝な表情を浮かべた。


――フーヴァー家息女が顔に痣を作り単身ポーカーをしている。現状、約400万ほどです


400万だと…!?とヴォルテールは耳を疑った。

ポーカーは心理戦と数学などと確立を冷静に判断していく難しいゲームだ。それをはじめてきた少女が来て早々に400万勝っているだと?これで100万単位で単価を上げられたら周囲の卓が困る。

即座にヴォルテールは髪型を「モンテカルロ」使用に準備した。


到着したころには彼女は既に1000万届く範疇で稼いでいた。

伊達のプレーヤーでもここまでの伸び方はしない。おそらく周囲の貴族らも子供だからとゆるくやっていたがひきつりあっていく金銭面に歯止めが利かなくなっていったのだろう。

即座に現場のマスターが声をかけ、特別対応室に向かわせた。

少女は不安な表情を浮かべるが視線はかなり冷静なものだと考えた。彼女はまず地形を把握するため周囲を見渡し通路を確認した。そしてその通路に何人の従業員がいるかを少ない時間で視線を追って確認した。


そして個室に案内した時、少女は化けの皮を脱いだ。



「…なるほど。君の得た資金を元手に弟君を王立学園に飛び級させ保護した状態にし、君はノーストラ家で保護してほしいと。まあ、弟君のことはすぐにでも実行はできる。が、君を我が家で保護するのはなぜ?私たちが君を取り入れることでメリットはあるのか?」


当たり前だ。

このノーストラ家に「癌」は不応だ。

目の前のブラックコーヒーを美味しそうに飲む少女は変らぬ表情で「あります」とだけ言った。


「天秤屋、ノーストラ家の華道。わたくしも学びたいのです。あなたの母君、マルツィア様にお目通しいただきたく参じました」

「‥‥言っている意味を理解しているのか」


ヴォルテールは少女の発言に手元が震えたのだ。

天秤屋というのは、我が家の裏稼業のことを指す。王家に仇成す者に鉄槌を下す番人のようなことをしながらも、犯罪者として最高権力を持つのが我が家である。

正義の頂点を王家とするなら、悪の頂点は我がノーストラ家と皆口を揃えるだろう。

子供が知るような内容ではない。さらには彼女は家の者に優遇される境地にいない。だから、こそ、なのだろうか。


「エレナ・フーヴァー嬢、きみはノーストラ家のことをどこで知った」

「父です。父は違法な薬物の売買をしているのは承知ですよね?それらの元締めを辿れば明らかです」

「…子供にもわかるような管理をしているのか」

「いえ、あの女…失礼。母は知りません。私が金庫を破ったので理解しているだけです」

「は?」


思わず天を仰いだ。

子供が親の悪行を知り、後妻に折檻され、命をかけてモンテカルロへきて、ポーカーで資金を調達し、義理の弟を助けるべくここまで来ただと…。


―――いい子じゃ、ないか…ッ!


目頭が熱くなったヴォルテールは目頭を少し抑えた。

ブラックコーヒーを美味しそうに飲む少女はおそらく夜にハウスメイドらの飲み物を飲んだのだろうか。

しかも温かいものではなく冷めたものを頼んだ。少女は温かいものを求めていないのだ。

普段から与えられていないのだろう。ここまでする必要がどこにあるのだろうか。

ノーストラ家は悪行高いが血の掟が存在する。弱き者は情けを、子供には愛を。故に我がノーストラ家は子供の支援は手厚い。隣国との戦争後は孤児を保護し、才あるものはノーストラ家の家臣にしている。

堕落するものは勝手に堕落するものだ。そんな奴らから金をむしり、殴りかかってきたら殴り返すだけのストレート物理勝利。それがノーストラ家だった。


ヴォルテールが目頭を押さえはじめたり、スタッフに声をかけたりと忙しないなと冷めたコーヒーを飲むエレナ。

エレナは前の世界でよくアイスコーヒーを飲んでいた。現在口内が傷ついているということもあり冷たいものが気持ちよく飲めるのだ。ヴォルテールの心内など考えることもなくただ、目的達成のために今はアイスコーヒーでスタミナを補充していた。







「…母が、このあとこの部屋に来る。エレナ・フーヴァー。君に一度だけチャンスを与えよう。君の意図は把握した。ならば、我がノーストラ家の家臣とし、また保護するべき対象か見定めてもらう」


「は、ご厚意感謝いたします」




エレナは飲み終えたアイスコーヒーを置き、ヴォルテールに対し美しいカーテシーを披露した。






ご拝読、感謝いたします。

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