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モノローグ

はじめてみました、悪の道。

参考にしました名前など、実際の組織をベースにしてますがなんら関係ないのであしからず。

ただのゴットファザー好きが展開したものです。


視界が幾度も暗転した。

頭がぼうとしているようで、目を開けているはずなのにどうして視界が開けないのだろうか。


甲高い声が聞こえた。

子供の悲鳴のような音だ。

キインと耳鳴りが痛いぐらいに脳内に響く。


“かあさん!もうやめて!それ以上は死んじゃう!”


とても悲痛な声だった。

やけに残る声だった。





“エレナが、死んじゃう!”






暗転。









ふと、目が醒めた。

広い一室だ。寝室なのだろう。天蓋ベットに堂々と自分は寝ているようだ。体をゆっくり起こし、ベットサイドに水差しが置かれている。助かった。喉がかわいて仕方なかった。

ごくり。生き返る。が、口の中を切っていたようで小さな痛みと鉄の味に眉間の皺を寄せた。


ひどく寝ていたのか、周りにはたくさんの医療用の道具が置いたままであった。

自分がこの状態になっておそらく意識を失ったんだろう。妙に思い出せないな。と靄がかった記憶に首をかしげる。

周囲を改めて見渡すと、かなり質素な部屋のようにも見えた。装飾品は上品だがそこまで豪華絢爛とまではいかないようなシンプル目な造りとなっている。

窓から差し込む光は銀色に輝いていることからまだ月が高い位置にある時間帯であると推測した。


ふと、自分の手を見た。


「…小さい」


確か、自分は…と記憶を辿ろうとすると「会社員」であった記憶と「長いエスカレーターの下り、バランスを崩した自分の視点」を思い出した。

そして、あふれるように「この世界で生まれたときからの記憶」が出てきた。

あまりの量に頭が割れそうになり、再度水を飲み深呼吸をする。

幾分か落ち着いた。


「…異世界転生ってことか…」


異世界転生って結構オレツエエ的な流れが多くなかったっけ。と記憶をさかのぼっても自分の境遇はあまりにも異世界転生者っぽいものではない。なんなら結構ひどい目に会ったばかりではとよぎる。

もしかして自分は「正規王道キャラ」的なポジションではないのかもしれない。

見るからに腕には打撲痕があり、青色に鈍く痛みを持っている。顔面がひりつくのもおそらくあの女がしたことであろう。

この部屋に見覚えがないということは、ここは自分の部屋ではないのだろうな。

未だに自身の名前を思いだそうにも靄がかかって出てこない。





ふと、扉がキイと開きベットに近づく影に気が付いた。

月の灯りで顔が見れた。ひどく歪ませた表情の青年がそこにいた。


「…まったく、お前の家はどうしてこうも迷惑ばかりかけるんだ。…エレナ、聞いているのか」

「…はい」


エレナ、それが自分の名前らしい。

青年はとても疲労困憊の様子でベット脇のサイドチェアに腰をかけた。そのあとメイドが持ってきた温かいコーヒーを飲み始めた。だいぶラフな姿なのでおそらく自分と近しい関係者なんだろう。


「こうなる未来がわかっていたのなら君と絶対婚約はしなかった。しかし、君は伯爵家の令嬢。俺は子爵だから俺はどうも言えない。はあ、本当に煩わしいばかりだよ」


ため息が深い青年は自分の婚約者であり、さらには自分が伯爵家の娘だということも情報を得た。

青年は静かなエレナを眺めて眉間に皺を寄せた。そして小さくも聞こえる範囲で「ハッついに叩かれすぎて頭が動かなくなったか」と嘲笑うように声を震わせた。

コーヒーを飲み終えた青年は「朝には屋敷に戻れ。途中で野垂れ死にだけはやめろよ」と一言冷たく言い放ち姿を消した。


メイドらもぎこちないのは、歓迎してないということとあまりにも迷惑な家という認識で関係を持ちたくないのかもしれない。おそらく、自分は少なくともこの家にいてもあの家にいても居場所はないらしい。

人生ルナティックモードやんけ、とつぶやきたくなるが生憎とここは敵の本陣と言っても過言ではない。

誰が聞いているのかわからない状況でぼそぼそ言われた時点で精神病棟などの隔離施設待ったなしであろう。


―――あの、悲鳴をあげてた男の子。どこかで聞いたことがある―――





「ッッ!!」




酸欠状態のようにひどく頭が痛くなった。

眩暈もする。あまりにもひどい痛みで呼吸がおかしくなった。

深呼吸をして過呼吸気味でも、酸素を脳に送る。

シーツを握りしめる拳がどんどん強くなる。


ぼやけた視界がどんどん晴れていく。

亡き母の姿、子守歌をしている母。それを真似し可愛らしい義理の弟にする自分。新しい母に折檻される日々。痛み。痛み。悲鳴。涙。


走馬灯というにはあまりにも過激でそれは津波のように押し寄せられた膨大な情報であった。

記憶ともいえるだろう。

自分は、エレナ・フーヴァー家の息女であった。

母が亡くなった後に父と再婚し連れてきた男児が義理の弟ルドであった。ルドの母は子供に興味のない人間だった。愛に飢えてた子供のルドに愛情を教えたのはほかでもない自分エレナであった。

エレナが成長していくにつれて折檻の数が増えていった。

次第に感情が消えていき、ルドと会えない日々が続いた。


そして、あの暗転が続いた日。

エレナは一度死んだ。








なぜか涙が止まらなかった。

自分は「発展した世界で社会人」をしていたごく一般的な人間だ。家族とも関係は良好。まさか転落死で人生が潰えたとは思わなかったがこうして記憶を持ったままこの体になっている訳だ。

異世界転生と疑ったが、エレナが生まれたときからの記憶もある。多分だが、エレナの器に自分もいたのだろう。一生でてこなくていい人格がこうして出てしまったということだろうか。


「ルド、助けないと」


おそらく、自分がこの世界からリタイアしたら次はルドになる。

あの女は子供を人として見て居ない。自分で産んだ子供にすら興味も持たず、宝石とドレスの商人を呼ぶことで頭がいっぱいの女だ。


これは正規ルートのキャラにしてはあまりにもハードな作品だろう。

こうした鉄板的な「ルナティック人生」を生きるのはいつも敵キャラな訳だ。

ならば、いっそあの女ですら恐怖する道を進もう。

力こそが正義。




エレナ・フーヴァーは、正しく生きることを辞めた。






ご拝読、感謝いたします。

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