第五話 死角からの一撃
SIDE:メルト
「決闘の最中に念話とは、随分余裕なようだな!」
「まあ、実際余裕だしね....っとあぶねぇ!」
敵さんの声に答えながら応戦するが、はっきり言って全然余裕じゃない。
敵さんは片腕で槍を振るうのに対し、俺は片手剣。明らかにこっちが有利なはずなんだが.......なんなの?お相手さんバケモンじゃねえのか。
「俺はまだ本気出してねぇし!本気出せば一発だし!」
「言動と行動が一致してないぞ馬鹿め。もうそろそろカタをつけてやる!〈魔法闘気〉、〈過剰炎〉!」
強く剣を弾かれ俺がたたらを踏んだ瞬間、槍を深く構えて炎を槍により強くまとわせ始めた。もう絶対必殺技来るって!奥義とか言い出すんじゃねえのこれ!?
『おいフェイ!まだかぁ!?』
「奥義!ストライクフレア!」
「やっぱ奥義じゃねぇか!」
そう言うと勢いよく突っ込んで来たガイの槍を剣の腹に手を当てて防ごうとした瞬間。
『〈土壁生成〉!』
目の前に大きな土の壁が生成され、ガイの槍を防いだ。
「遅ぇよ危なかったよフェイ!」
『それが助けてくれた相棒に対する態度かい?』
「すいませんでしたっ!」
『よろしい。じゃあ、〈幻獣の瞳:魔力の奔流〉!』
フェイにかけられた魔力上昇の魔法が俺を包み、魔力が急速に回復する。
「ありがとさん!5分以内に決着つけるわ!」
『それはこの魔法が5分しか持続しないからでしょうが!』
念話で話しかけてきたフェイと軽口の応酬をしつつ、俺は魔法を唱える。
「〈星に願いを〉、〈恒星形態〉!」
すると、前の土壁が崩され、土埃の中からガイが出てきた。
「土壁の魔法で俺の攻撃を防いだのはいいが、そんなことではただ時間稼ぎなだけだぞ!」
そう言ったガイに向けて、俺は笑いながら言う。
「いや、時間稼ぎなんかじゃないさ。本気を出したからお前はもう終わりだよ。」
「減らず口を。武装を変えた程度で勝てると思ったか?」
そう、今の俺は武装を変形させ、鎧は元のネックレスに、剣は両手杖にしていた。
「勝てるさ。今すぐにでもねっ!〈星魔法:天の川の涙〉!」
魔法を唱えると俺の頭上に巨大な魔法陣が生成され、大量の隕石がガイに向かって降り注ぐ。
「なっ...無詠唱でこの数だと!」
「これが俺の”本気”さ。お前にはすべて打ち砕くことができるかな?」
「畜生っ.....!」
ガイは降り注ぐ隕石をひたすら避け続ける。だが、疲労が溜まってきていたようで、すぐに動きが鈍る。
ある隕石がガイの足元に直撃し、ガイが足をすべらせた。
「しまっ.....!!」
「今だっ、〈星魔法:大地の痛哭〉!」
ガイの足元が爆発し、ガイがふっとばされた。
盛大な土埃が舞い、土埃が晴れたときにはガイが気絶して地面に横たわっていた。
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SIDE:サンダン
「ぐはっ!」
「そろそろ降参したらどうか、なっ!」
まずい。ひたすら攻撃され続けているのに、ナナシの姿が見えない。鏡の国の牢獄のおかげで攻撃は緩和されているとはいえ、攻撃の絶対数が多すぎてダメージが多いっ....!
痛みと衝撃で意識が飛びかけたその時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「〈天帝射程〉!〈大獄の錠前〉!!」
その瞬間、僕とナナシの動きが止まる。まるで体が鉄になったかのようだ。
「フェイさんっ!!」
僕は助けに来てくれた友達の猫又に向けて歓喜の声を上げた。
「助けに来たよ、サンダン。.....キミの速度の秘訣はスキルが原因だってわかったからね。特級の移動速度低下の魔法をかけさせてもらったよ。」
フェイが相手に話しかけながら近づいていく。しかし、魔法をかけられたはずのナナシさんはゆっくりと動き続けていた。
「それでもまだ動けるなんてね.....よっぽどの身体能力強化なんだね。恐れ入ったよ。」
「畜生っ......」
苦悶の表情を(たぶん)仮面の下に浮かべながら、ナナシさんが苦しげな声を上げる。
「これで終わりだっ!〈弾丸の雨〉!」
フェイさんの周りに大量の魔法陣が出現し、そこから水でできたボールが勢いよく降り注ぎ、大量の土煙が視界を埋め尽くした。
「やった......?」
「ちょっとサンダンそれフラグじゃ....」
土煙が晴れたとき.........そこにナナシの姿はなかった。
「なっ!?」
「ほらあ!!」
やつはどこへ.....!?
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SIDE:フェイ
「もうしょうがないなぁ、使いたくなかったけど〈幻影破り〉!」
サンダンがフラグを立てたせいで見えなくなってしまった敵に向けて幻を看破する魔法を使う。
しかし、ナナシの姿はない。
「もうやだあ!この魔法結構魔力食うのに!」
「ほんとごめんなさいっ!」
でも、本当にどこへ行った?見回しても奴の姿はない。前後左右確認しても.....まさか!
「上か!」
「だ〜いせ〜いか〜い!」
上を見上げた瞬間、何かが降ってきて、ボクは咄嗟に目をつぶってしまい、看破の魔法が効果を失ってしまう。
「くそっ!」
降ってきたのは拳ほどの大きさがある尖った石。土魔法によって生成されたものだ。
「すごいな、あれだけの重力魔法を触媒無しで打てるなんてね。君のスキルかな?」
振り向くとそこにナナシがいた。だが、ナナシは装備を解除していた。
「君の魔法は素晴らしいが、装備を外せばまだ早く動ける。移動速度低下なんてもので僕を縛れると思ったのかい?」
「くっ........!!」
実際、ボク一人にはもう止めることはできない。
「たしかにそうだな。でもそれは、ボクが一人ならの話だっ!メルト!」
「了解っ!本日二回目の〈天の川の涙〉!」
メルトの魔法で大量の隕石が生成され、眼の前に降り注ぐ。
「馬鹿だね!そんな数では僕は倒せないよ!」
ナナシはすごいことにすべての隕石を避けながら笑った。
「へぇ?そんな数、か。」
「これで終わりじゃないよ。ボクがいつ、攻撃するのが二人だけだって言った?」
「「サンダン!」」
隕石が降り注いでいたのはナナシにだけではない。ナナシの近くにいたサンダンにも当たっていた。しかし。
「僕の〈鏡の国の牢獄〉は攻撃を吸収して別の場所に流す能力。今回流していたのは、僕たちの城の前に貼った〈姿見の回廊〉。そこから攻撃を跳ね返す!」
「そう!本命はメルトの攻撃をサンダンの鏡を通して巨大化・増幅させた攻撃なのさ!」
「ざまあみろ仮面野郎!」
「それでも僕には当たらないよ!残念だったね!!」
たしかにそれでも避けている。ただしこの戦いはただの決闘じゃない。この戦いの勝利条件は。
『審判から通告。勝利条件の一つである〈敵城の破壊〉を確認したため、この相棒決闘は勝者、メルト・サンダンチームとする。』
「と、いうことだよ。ナナシさん。」
ボクは呆けているナナシに言った。ナナシはぱちくりと目を瞬かせると、軽く笑い、
「はは、そうだね。すっかり忘れていたよ。今回は君たちの勝ちのようだね。ただし、次回は負けないよ。」
と言って去っていった。............................................................気絶しているガイを担いで。
これで相棒決闘編終了です!次回からはまた新しい物語が始まるので、楽しみにしていてください!