背徳聖女見習いは、護衛騎士と散歩する
「アデル様、お待ちください」
「クロヴィスが遅いからいけないのよ!」
焦り顔で追いかけてくる黒髪の護衛騎士を振り返り、長くふんわりとした薄茶色の髪を揺らしてアデルは笑った。
アデルの赤いドレスは可愛らしく、どこであろうとも、とても目立った。
(もっと目立たない服を着ていただきたい)
アデルが魔物に襲われやすいのをクロヴィスは憂いている。
アデルは散歩が好きで、クロヴィスをしょっちゅう連れ回すのだが、ほぼ毎回のように魔物に襲われているのだった。
(やはり、聖女見習いとなられたからだろうか……)
愛しいアデルお嬢様が魔物に襲われやすいということが、最近のクロヴィスの悩みであった。
クロヴィスはお屋敷の使用人の子どもで、生まれたときからアデルお嬢様のことを知っていた。アデルに神聖力があるとわかったときに、クロヴィスはアデルの護衛騎士となることを決意した。
(アデル様のことは私が守る)
クロヴィスは、そう心に決めていた。
クロヴィスがアデルを魔物から守り、血を流すと。アデルはすぐに神聖力でクロヴィスを癒す。
「申し訳ありません、アデル様……」
「いいのよ。ゆっくりやすんで、クロヴィス……いつも、助けてくれてありがとう」
手をにぎるアデルの姿を見て、クロヴィスはいつも感動を覚える。
(お嬢様……幼いころはあんなにわがままでいらっしゃったのに……立派になられて)
アデルには、秘密がある。
幼いころ、アデルに神聖力があると発覚した事件があった。散歩中に魔物があらわれ、クロヴィスがアデルを庇って怪我をしたのだ。
はじめて神聖力を使ってクロヴィスの怪我を癒した日――アデルは、その日のことが忘れられない。
血を流すクロヴィスを見て、アデルは心を鷲掴みにされたのだ。
(私を守って、クロヴィスが血を流してくれた)
アデルは、暗いよろこびを覚えたのだ。
自室にて、アデルは祈っている。
アデルは教会に属する聖女見習いだ。ちいさな女神の像の前に跪いている。しかしアデルの心に浮かぶのは、魔王のほうであった。
(魔王様、)
アデルは祈る。
(私がもっともっと、クロヴィスにちょうどよい魔物を召喚できるようにお助けください。
私の手でクロヴィスを強くするの。
私の手で何度だってクロヴィスの血を流して、私が癒すの。
そうすればクロヴィスは……私から離れていかないわよね?)
ちいさな聖女見習いは女神の像の前で両手を組み、可愛らしく微笑む。