巫女
(あっという間だったな。)
ヘリは、山神村唯一の小学校の校庭に降りた。
車で来ると、5時間くらいかかるのに、ヘリだと1時間もかからない。
「花。お疲れ様。」
はじめちゃんに支えられてヘリから降りる。
飛び立つヘリを見送ると、校庭に車が入ってくる。
(うひゃ~。山神家の家紋入りお車じゃない。)
山神家のお車は、滅多に見られない、冠婚葬祭の時や、お客様を送迎するときのみ使用される。
「はじめ、花ちゃん。お帰り。」
車から降りてきたのは、はじめちゃんの叔父さんで
村長の勇さん。そして。
「お帰り花。」
「お父さん。」
うちの父、貴史。
「二人とも、乗りなさい。」
「勇叔父さん、先に花と話したい。」
「車の中で話せ、おばばが待ってる。」
「先に二人で話したい。花は、なにも聞いてない。」
勇さんは、父を見る。
「…話してないのか。」
「すみません、先延ばしにした私の責任です。お願いします少し時間を下さい!。」
そういうと土下座する。
「お父さん!。」
「すまない、花。」
勇さんは、ため息をつく。
「仕方ない10分やる。貴史さん我々は車に。」
*
「花、僕はね、次の山神家のお守り様なんだ。」
小学校には遊具は少ない、すべり台と鉄棒、二つしかないブランコ。
なんとなく座り、ブランコを揺らす。
「お守り様?、何それ、聞いた事ないんだけど?。」
「おばばには、5人子供がいるだろ。長男の彬さんが表向きは神主。でも、本物の神主は、4男の詠二さんなんだ。」
詠二さんは、行方不明になっていると聞いていたが。
「お守り様は、山神家の人間しかなれないからね、山神神社の御神体を守る次のお守り様として産まれたんだ。産まれてから一度もこの村を出る事なくずっと御神体の近くで暮らしてる。昔一度兄弟で村を本当に出れないかどうか試してみたんだって。でも、一歩出ただけで呼吸が苦しくなって、昔の僕みたいに。」
「お守り様として産まれた事は、詠二さん自信は誇りに思ってて、今でも幸せだって言ってる。でも、他の兄弟は納得いかない人もいて、3男の右近さんなんかがそれ。二人は双子なんだ。そのせいか、右近さんは特に納得出来なくて、今は日本中を回って神話とか伝説とか最近は、海外まで回って山神家の謎を解くとか言ってる。」
はじめちゃんの叔父さん右近さん、昔一度だけ会った事がある。
頭を撫でてくれて、それで…。
「他の兄弟も、詠二さんを支える為に彬さんが表の神主、勇さんは、村長、でうちの親父は、東京で支部長?、みたいな事してる。」
「支部長?。」
「東京でお偉いさんと山神村の橋渡し的なポジションかな。花、知ってた?。山神村って誰でも入れないって。外の人が入るには、山神家の人間と一緒に入らないと駄目なんだ。」
日本古来代々続くようなお家の当主になると、はじめちゃんのお父さん、山神理さんに仲介をたのんで山神村に行き、御神木を分けてもらう儀式をする。
無事御神木をもらえれば一族安泰。
「誰でも御神木もらえる訳じゃないらしいよ。父さんの役目は、山神村に連れて行ける価値のある人間か確かめる仕事。御神木の存在は広く知られていないし、秘密を守る事が出来ないような人は父さんと一緒に来ても入れないらしいよ。若い時に、12時間くらい山道ぐるぐる回って村にたどり着けなかった話しなんかも聞いた。」
はじめちゃんは、ブランコを揺らすのをやめて私の前にしゃがみこむ。
「詠二さんは、まだ役目を終えてないから、まだお守り様を僕が引き続ぐ必要はないんだ。詠二さんにも今のうちに人生楽しんどけよって言われて、そんな時に社長にスカウトされて俳優になった。ああ見えて、社長かなりの名家の跡取りなんだよ。で、御神木もらう儀式もやってる。そんな関係で社長と出会ったんだ。」
「で契約する時に、2つ条件をつけたんだ。一つは、詠二さんに何かあったら僕が跡を継ぐから、即時契約解除。後一つ、花に逢ったら一緒に、村に帰るから契約解除。」
「それ、さっきからずっと言われた、契約解除、私に会ったらってなんで?。」
「花が、僕の運命の人で、…次の巫女だから。」
はじめちゃんが真剣な顔で私を見る。
(運命の人…って。)
「私が?。」
はじめちゃんが頷く。
「はじめちゃんの?。」
はじめちゃんがの両手が私を優しく包み込む。
「そう、初めて会った時からずっと大好きだよ、花。」
驚きで、言葉も出ない。
「僕が花に会えるのは、おばばが亡くなる時って決まっていたんだ。それまで会う事は許されなかった。」
「…なんで?。そんな…。」
「簡単に言えば………好き過ぎて自制が出来ないから…、一応巫女は、引き継ぐまで純潔でいなくてはいけないらしく…。その、俺が我慢できない?かな。」
はじめちゃんは、真っ赤になりながら話をしている。
山神村の秘密、御神木。それを守る山神一族。
巫女は、山神本家の血筋を絶やさないために新しいお守り様が産まれた時に神託が下る。
もちろん、父と母には伝えられていた。
兄は、小学校に上がる時にこの事を伝えられていて、密かに私の虫よけになっていたらしい。
(そう言われたら、友達にシスコンとか言われてたな…。)
「高校、大学、今いる会社にも、花を守るべく一族の人間が入っているし、花が勤めてる会社の社長も山神村の事を知っている理解者の一人。花が巫女になるまでは、自由に生活して楽しく働けるようにサポートしてもらってました。もちろん、虫よけも。」
…だからもてなかった?。なるほど、うん。
それにしても、会ったら我慢出来ないって…、何か恥ずかしい。
「…キスは、いいの?。」
はじめちゃんは、真っ赤になりながら
「…我慢出来なくて…つい。やっと逢えたんだからそのくらい許してもらわないと。」
はじめちゃんは、真面目な顔に戻り、
「花、まだ君には、選択出来る。もうすぐおばばが亡くなる。」
そうだ、その為に来たんだ。
「そうだよ、早くおばばに会いに行かなきゃ…。」
立ち上がりかけた私をはじめちゃんが止める。
「待って、花。聞いて。おばばが亡くなる時に巫女引き継ぎが行なわれる。」
はじめちゃんは、改めて私に向き会う。
「今ならまだ間に合う、巫女になったらもう村から出られない。…火曜日から仕事に行く事は出来ない。花が、嫌なら山神家は無理強いしない、車は、村の外に向かわせる。その瞬間に花が山神村にいなければ、巫女にならなくてもダイジョブなんだ。代わりに村にいる未婚の女性が選ばれる。」
はじめちゃんは、首に付けていたネックレスを外すと、そこに通された指輪を外す。
(あ、それってはじめちゃんのいつも付けてるアクセサリー、ファンの間であの指輪は!?っていつも論争が巻きおこっているやつ。)
デビューして、少ししたらハジメちゃんの首に指輪が通されたネックレスが肌身離さずつけられていて、コアなファンの間では、かなり高級ブランドの指輪だと調べ上げられている。
ネット上では、熱い論争が繰り広げられていた事もあるが、本人が特に指輪について語らないので、最近は話題になる事もあまりなく、ただのおしゃれアイテムか、誰か身内の形見では?と、皆様勝手に解釈している。
「山上花さん、話を聞いて急な事に、戸惑うと思います。でも、初めて会った時からずっとあなたの事が好きでした。僕と結婚して下さい!。僕の巫女になって下さい。」
はじめちゃんが指輪を差し出す。
「この指輪って。」
「花に、いつ会えるか分からないからずっと肌身離さず付けていた。18歳に、なった時に貯めてた給料で買ったんだ。」
まさか、あの指輪が自分への物だとは。
これを受け取れば、もう後には引けない。
(まて、落ちつけ私。)
私は立ち上がり腕を組み、右手の人指し指をトントン…。
仕事でも、緊急事態など起こって急ぎ決断をしなくてはいけない時に花は、いつもこの体制になり、目を閉じる。
まずは、会社。
昨日の件を思い出す。
仕事のやりがいはあったが、一生続けるほどの熱意もない。
何よりさやか様、まじでうざい。
今朝、吉岡くんの電話をスルーしたら、LINEが入っていた。
内容は、最低で、さやかにあの態度はないとか、僕に気に入られようとしても無駄だ、とか。
アホくさくて、放置している。
(さやか様、あたしが山神一と結婚するってしったら滅茶苦茶悔しがるだろうな、あー見てみたい!。)
しかし、結婚したら、もう会社に行かない。村から出られない。
そう、村から出られない。
そこに後悔はないのか?。
花は、考える。
彼の手を取る、すなわち死ぬまでこの村から出られない。
(手を取らず、元の生活に戻…。今から婚活?、いやいや無理だろ私もうアラフォーだよ。それに…。)
村を出てしまえば、新たな巫女がはじめちゃんの隣に座りあの指輪をはめるという事になる。
(そんなの、嫌に決まってる。)
「ふっ」
「…花?。」
「よく考えたら、私巫女になってもはじめちゃんは、まだ俳優しててよいんでしょ。契約解除しなくていいんじゃない?。」
「やっと花に逢えたのに、また離れて暮らせと?。そんなの拷問だよ。」
うーん、でもなぁ~。
「一つだけ、心残りがある。それを、叶えてくれたら、結婚してもいい。」
「なんでも、聞くよ。」
よし、言質頂きました。
「今撮影してたの、続編の映画だよね、〖下町シリーズ、葛飾編〗だよね。」
「あ、うんそう。まだ撮影序盤出し、俳優代えてもらう事も可能…、」
「却下。」
「へ、!?。」
「私、前作〖下町シリーズ赤羽編〗5回見た。」
「…そうなの?。」
「次の〖葛飾編〗決まった時に部屋で小躍りして叫ぶくらい嬉しかった。」
「そうなんだ。」
はじめちゃんの肩に両手を置く。
「今すぐ社長に電話して、映画終わるまで続けますって言え。」
「え、でも、もう辞めるって…、」
肩に置く手に力を込める。
「電話しなさい。」
「…はい。」
はじめちゃんは、急ぎ社長に電話する。
「しました。」
「よろしい、もう一つ約束。彼氏と映画一緒に見るのが夢だったの。何故かいつも一人でか、女子とだったから。」
「…最高級のプロジェクター買います。」
「〖下町シリーズ葛飾編〗一緒に観ようね。ポップコーンでっかいの買って好きなドリンクとか、お菓子とか一杯並べて。約束。」
右手小指を出したけど、すぐに引っ込めた。
「違うか、はい。」
左手を出す。
「その指輪私に下さい。…この先ずっとそばにいてね。」
はじめちゃんは、私を見つめる。
「花、愛してる。俺のそばにずっといて。」
薬指にそっと指輪をはめてくれた。
(何故、ピッタリ?。)
「うー、花~!。」
気がつけばお父さんが近くまで来ていた。
「はじめ!、うちの花を泣かせたら許さないからな!、本当は結婚だって許したくないんだぞ!!。」
「はぁ、貴史さん、早く娘離れして下さい。手離したくないから巫女の話もしてなかったなんて…。」
「だって、うちの花は産まれた時から花みたいに可愛くて、花って名付けたんだよ。それなのに、はじめが村に来たら、花が、巫女ではじめの嫁になるとか言われて。」
「すみません花さん、どうやら焼きもちで話さなかったみたいですね。さあ、二人とも気持ちは決まりましたか。車に乗って山神本家に向かってよろしいですか?。」
はじめちゃんが手を差し出す。
私も手を握り返す。
「「はい。」」
*
「おはようございます~。」
今日も男性社員達の視線が、私にまとわりつく。
「さやかちゃん、おはよう、そのバック新しいの?。」
同じ部署の中田課長、5個年上で、結婚したばかり、昇進したくて私をおだてるのが近道だと思ってる勘違いオジサン。
(こっちは、楽に仕事したいから、おだてに乗ってあげてるだけなのに。)
「課長、おはようございます。課長もそのネクタイ素敵ですよ。」
「おはよう、さやかちゃん、ねえ、今日のランチ一緒にどう?美味しいイタリアン見つけたんだ。」
同期の町田。毎日ランチか、ディナーに誘ってくる。
顔は、いまいちで実家もサラリーマン家庭。
せいぜいランチを奢らせるか、仕事を押し付けるための飼い犬。
ディナーは、行かない。
下心が見え見えだから。
「えー今日さやか和食の気分なんだけど~。」
「和食ね、探しとくよ。」
(はぁーい今日のお昼ゲット。)
ルンルン気分で自分のデスクに向かうと、見知らぬファイルが置かれている。
「何これ?。」
よくみれば、他にも、書類がおいてある。
「みか先輩、これ先週に頼んだ書類ですよね、まだやってないじゃないですか。」
隣のみか先輩に文句を言う。
「あ-、それ、ごめん私他に急ぎの仕事が入ったから、自分でやって。」
「はあ、一度引き受けた仕事でしょ!!。」
「ごめーんさやかちゃん、私も無理になったから返すね。途中までやってあるから後頑張って!。」
反対隣のなつき先輩もファイルを戻してきた。
「は?、ちょっと。」
「すみませんさやか先輩、私も返します。急ぎの仕事が入っちゃって。」
「な、あんた後輩でしょ!なめてるの!。」
後輩の桜まで仕事を戻してきた。
「さやかー、誰もあんたの仕事を変わってあげる余裕ないから。諦めな。」
みか先輩に釘を刺される。
(こういうときは花先輩に!。)
「花先輩!…?。」
向かいに回って花先輩に話かけようとしたが、机はキレイに片付けられていた。
「え?。」
「さやか君。」
振り返ると、部長に分厚いファイルを渡される。
「君も山上さんの仕事分担してね。はい、これ。3年目のきみには、もう少し仕事重要なの任せて行くから。これ引き継ぎ書ね。わからない事はすぐ聞いて。」
「は、ちょっと、どういう事ですか!山上さんは??。」
「はぁ、…土曜日の夜に電話があって…辞めたよ。今は有給消化で、もう来ないらしい。」
「なんで!!。」
「田舎に帰って結婚だそうだよ。」
「花先輩が、結婚!!。」
「あれ~知らなかった~。花ってかなりの名家のお嬢様らしいよ~。」
みか先輩が、ニヤニヤして、こっちを見る。
「田舎の名家って、ど、どうせ、ど田舎なんでしょ。」
「確かにめっちゃ山奥って言ってたよね。」
なつき先輩もうんうん、頷く。
「あれ、でも昨日電話で引き継ぎした時にきいたら、田舎だけどいいところだって言ってましたよ。」
35のオバサンが、結婚って。
「うわー花先輩、出会いなさ過ぎて田舎に帰って結婚とか終わってるー。可哀想ー。どうせ相手もブサイクなんでしょうね。」
3人は、目を合わせる。
「でもねぇ。」
「あたし変わって欲しい。」
「田舎でのんびり彼とイチャイチャ出来るなら私も行きたいです。」
「はあ、何言って、」
「ほら?!。」
みか先輩に携帯を見せられる。
そこに写っているのは、はにかむ花先輩と…
「え、…山神一。」
「まさかぁ、よく似た婚約者だよ。」
「ほんとそっくりだよね~。驚くわ。」
「だから、花先輩誰にも見向きしなかったんですね~。こんな婚約者いたら他の男はカスですもん。」
「しかし彼が家継ぐまで結婚しない予定だったんだって、よく耐えたよ花。えらい。」
「私なら、ちょっと浮気してるかな~。」
「私も~耐えられないかも~。」
(………は?、何で、こんなイケメンと花先輩が!?。)
「…さあて仕事仕事。」
「みか先輩、ちょっとここ教えて下さい!。」
「どれどれ。」
*
「あ、来た。」
みかからムービーが届いた。
そこには、くちをポカンと開けて、フリーズしているさやか様の姿。
「うわ、ナイスリアクション!、生で見たかった。」
なつきと、桜は知らないが、みかはあの写真が本物だと知っている。
まさか結婚するなんておもわなかったから、田舎の幼なじみだと話してあった。そして、一度目の映画は一人でお互い見るが、2度目を行くときは必ず2人で観に行っていた。
みかからのメッセージ。
〖下町シリーズ葛飾編〗守ってくれてありがとう。
最後の映画一人でしんみり観るよ。
多分10回は行くね。
お幸せに!
あ、結婚式呼べたらよろしく!
「みかさん呼んであげたら。」
隣で一緒にメッセージを見ていたはじめちゃん。
「呼んでいいの?。」
「多分ダイジョブでしょ。あんまり悪い感じはしないから。俺も社長呼ぶし。」
はじめちゃんは、なんとなくいい人間か、悪い人間か分かるらしい。
「あたしも巫女になったんだから、ちょっとはわかるようになるかな?。」
「…俺と一緒になれば、なるんじゃない?。」
いいながら赤くなる。
(…そういう意味ですか。)
ちょっと意地悪して、ほっぺにちゅってする。
「!!!。」
さらに真っ赤になったはじめちゃん。
(うちのお父さんに結婚式が終わるまで手を出すなー!って言われてお預け中だから。うふふ、可哀想。)
「はじめちゃん。」
「花~。」
「大好きだよ。」
「…うん、俺も。大好き。」
本家にある、客間のソファーに二人並んで座り、つかの間の時間。
日曜から山神村では先代巫女を偲び3日、村人全員が喪に服す。4日目に葬儀を行うが、葬儀は新しい巫女の最初の仕事でもある。
この数日準備に忙しく、ゆっくり話を出来るのは、夜寝る前のほんの少しの時間。
(…あの後、いろいろあったなぁ。)
*
あのあと…。
山神神社に向かうと、鳥居の前で車が止まる。
そこには、彬さん、右近さん、詠二さん、理さんが、本家正装の袴姿で、私の家族も、私達を待っていた。
(…詠二さん、初めて会う、右近さんとは双子の兄弟だからやっぱりそっくりだ。)
「花。」
車を降りると、母が私に駆け寄り抱きしめられた。
「…花、決めたの?、後悔はない?。」
「お母さん。」
母を抱きしめかえす。
「花ちゃん…。」
兄嫁さんが、兄と一緒に近寄ってきた。
「花が決めたのなら俺達が何も言う事はない。俺達に出来る事は、サポートするから。」
車から降りてきた父が、兄の肩を抱いて私達みんなを抱きしめる。
「私、決めたの。巫女になってはじめちゃんのお嫁さんになるって。」
その瞬間、兄と父が、はじめちゃんを睨み付ける。
「はじめ、一発殴らせろ。」
「うちの可愛い花を嫁にやるんだ、10発くらい許されるだろ。」
二人の目がかなり本気でちょっと引く…。
「ハイハイ、親バカと兄バカは、その辺に。花、いって来なさい。」
家族に見送られて、鳥居の前に行く。
「ここから先には、花さんと詠二しか行けない。」
彬さんに促されて、詠二さんと鳥居をくぐろうとした。。
「待って。花ちゃん。ほんとにいいの?、後悔しない?」
突然右近さんに手を掴まれて止められた。
「右近!」
理さん達が、驚き、右近さんを止める。
「二度とこの村から出られず死んで行くなんて、馬鹿げてると、思わない?。まだやりたい事も、行きたいところもあるでしょ。海外とか楽しくて素敵だよ。こんな呪いみたいに巫女とかお守り様とか、君が人生捧げる必要ないよ。はじめも、まだ俳優やりたいんじゃないの?、村から出たら息すらまともにできない、これが呪いと言わずなんだって言うんだ、みんなおかしいだろ!。」
「やめろ、右近。」
詠二さんが右近さんを抱きしめる。
「一番の被害者は、詠二だろ!。死ぬまでこの村から出られない!。」
「俺は気にしてないよ、誇りに思ってる。」
「ウソだ!、俺達双子だろ、詠二の気持ちが解るのは俺だけだ!。」
「…右近。」
みんなただ、静まりかえる。
(…呪いか…右近さんは、ずっと詠二さんの境遇を、どうにかしてあげたかったんだろうな…。だから世界中を回って解決方法探してたのかな…。)
そう言えば昔まだ幼い時に、一度だけ右近さんと話た事がある。
あの時も、右近さんに何か聞かれたのだが…。
(何聞かれたんだっけ?。)
「あのー、それなら提案が…。」
はじめちゃんが、そっと手を上げる。
「花と約束したから今撮ってる映画だけ撮影して、終わったら、村に戻ってきてお守り様すぐ引き継ぎしませんか?。」
「え、…出来るのかそんな事…。」
驚く、右近さん。
「どうでしょう、詠二さん。出来ますか?。」
詠二さんは、目を反らす。
「そんな事出来るのか?、詠二?。」
「詠二!、出来るのか、どっちなんだ!。」
詠二さんは、下を向いたまま、答えない。
「俺は、もう十分好きなことやらせてもらいました。学校もいけたし、俳優も楽しかったです。後やりたい事があるとすれば、花と一緒にいたいだけです。花が巫女になるなら、俺もこっち戻ってきます。詠二さん、お守り様替わって、今度は詠二さんがやりたい事して下さい。」
「…はじめ…。」
右近さんは、詠二さんの肩を抱き、
「詠二、…出来るのか?。」
「……………で、きる…、出来るけど、…お守り様の仕事は、俺の誇りで!、誰にも代わりにできない、俺の!!。今さら普通の生活なんて!、俺には、これしか!。」
詠二さんの肩を、彬さんががっちり掴み、勇みさん、右近さん、理さんも詠二さんの手を握る。
「ダイジョブだよ、俺達みんないるじゃないか。」
「…う、兄さん。」
詠二さんの目から涙が溢れ出す。
「…ごめん、この話は、また後で。そろそろ行かなきゃ。」
詠二さんは涙を拭うと、鳥居の前に戻る。
「花ちゃん、右近の言う事も分からなくないよ、後悔しない?。」
詠二さんが私に手を差し伸べる。
「右近さん、みなさんも。私が後悔するとしたら、はじめちゃんと結婚しない事です。はじめちゃんの隣に私以外の他の女が立つなんてあり得ない!。だから巫女になります。そんな理由じゃダメですか?。」
詠二さんの手を取ると鳥居をくぐる。
「花!。」
はじめちゃんの声が聞こえて振り返ったが、そこには、一面の森が広がっていた。さっきまであった神社の境内や本堂、鳥居もない。
「!!、詠二さん、これって…。」
「ダイジョブ。ここが、本当の神社の姿なんだよ。ほら、あそこに御神木が。」
辺り一面森の中に一本、巨大な木がしっかり根を張り神々しい空気が回りに満ちていた。
「この空間に入れるのは、お守り様と巫女のみ。さあ、御神木に手を触れて…。」
そっと御神木の巨大な根に手を触れる。
(あ、何!!)
頭の中に巫女の知識が、流れてくる。
あまりに、膨大な知識が流れ終えると、その場で気を失った。
{…花、花ちゃん。巫女になってくれてありがとうな。はじめと幸せになるんやで…。}
夢の中で、おばばが優しく頭を撫でくれて、静かに消えて行った。
「おばば…。」
「花!!、気がついた?。」
目を覚ますと、はじめちゃんが、私の手を握りベッドの傍らにいた。
「はじめちゃん…、おばばは…?。」
「…無事旅立ったよ。」
はじめちゃんに支えてもらい起き上がる。私が眠っていたのは、数時間だったようだ。
「花、ご苦労様。無事巫女の交代終わったよ。」
「うん、何か変な感じ…。私ほんと巫女になったんだ。」
身体の中に満ちる御神木の力を感じる。
「花。」
はじめちゃんの声に顔を上げると
チュ。
「!!。」
またもや、キスされた。
「やっと、花にキス出来る。」
そう言いながら、何度も何度も唇を重ねてくる。
「はぁ、はじめちゃん、そんなに、んッ。」
止まらないはじめちゃんのキスに、頭がパニックになりかけた時、
「こらぁ!!はじめ!!何してるんじゃ!!。」
部屋の襖が開いて父が飛び込んできてはじめちゃんを引き剥がす。
「はぁ、全く盛りのついた犬見たいだぞ、はじめ。」
はじめちゃんのお父さん理さんが、はじめちゃんの頭をひっぱたく。
「仕方ないじゃない、やっと花ちゃんに逢えたんだから、ロマンチックよね、運命に引き裂かれた二人がようやく巡り逢えたのよー、これで映画一本出来るわ。」
はじめちゃんのお母さんは、楽しそう。
「ですよねー。映画もいいけど、小説化しません?、全体売れますよ。あー、嬉しい、やっと二人が結婚。まさか義理の弟が、人気俳優、きっと二人の子供可愛いい
んだろうな~。あ、私の事お義姉さんって呼んでくれる日を待ちわびてましたよ。」
兄嫁さんも、ウキウキ。
「!、ちょっと、二人とも、は、花とはじめの子供とか!」
うろたえる兄。
「はい、はい。あなたは、今日から妹離れしましょうねー。お義父さんもですよー。はい、座って。」
私の母が、人数分の、お茶を持って入ってきた。
テーブルに、両家の家族が集まって座る。
「花、お疲れ様。さぁこれからの事話し合うわよ。ダイジョブそうなら、あなたもこっちに来て座りなさい。お腹すいたでしょ、おにぎり作ったから食べなさい。はじめ君も。」
みんなでテーブルを囲み、おにぎりを食べながら今後の事を話し合った。
メインは、今後の事と結婚の流れについて。
はじめちゃんは、おばばの葬儀が終わったら、東京に戻る。
体調不良で一週間仕事は休みと、社長さんが手を打ってくれた。
1か月後、映画の撮影が終わったら戻ってくる。
そして、半年後の映画公開と同時に引退宣言。
入籍予定で、山神神社で式をあげる。
式の後、お守り様交代の儀式を行う。
(1か月逢えないかぁ、ちょっと寂しい…。)
「お土産買って来てね、何か美味しいお菓子とかがいいな。」
「うん、毎日電話するよ。何でも欲しいもの言って。突然だったし、やっぱりちょっと困るよね。何でも買ってくるよ。」
会社の社宅に残してきた荷物は、兄と、兄嫁さんが全部片付けてこっちに送ってくれるそう。
実家は、先々兄一家が、子供達が中学生になる時に戻ってまたそこに住む予定だ。
父と母は引き続き山神村で私のサポートをしてくれる。
会社の方は、社長とはじめちゃんのお父さんが事前に話してあったらしく、円満退社出来るように取り計らってくれた。
急に退職する事になったので、日曜日は引き継ぎの為いろんな人に連絡しまくりで大変だった。
みかにだけは、一部本当の事を伝えた。
田舎に帰って、山神一と結婚する事になった。
村の秘密は、話せないので、一が家を継ぐ事になり、花はプロポーズされて、それを受けたと、話してある。
そこで提案されたのだ。
「二人のツーショット写真送ってよ。さやか様に見せるから。」
「え、でも…。」
「さやか様の驚く顔見たいんでしょ、あたしも見たい、ギャフンと言わせたい。ダイジョブだよ、まさか本人だなんて思わないから、よく似た人って言っておく。あ、念のために、顔にホクロでも書き足しといたら?。」
そう言われて、はじめちゃんはノリノリで顎の横と目の下に大きめのホクロを2,3個書き足して、かなり二人くっついた写真を撮りまくり、その中から厳選した一枚をみかに送った。
「うわ、まじで、本物、って花、例の指輪してない!!。」
「………してる。」
「なる、花への指輪だったかぁ、いや、ご馳走さま。もう胸いっぱい。何か純愛映画1本みたって感じ。」
みかにもたくさんおめでとうと言ってもらった。
社長からもわざわざお電話いただいて結婚をお祝いしていただいた。
「私も昔御神木いただいてきたことがあってね。理さんとは、話しも合う飲み友達なんだ。だから、君の就職希望がうちだど知って、相談されてたんだよ、君が新しい巫女候補で大事なお嬢さんだって。まさか理さんの息子さんと結婚とは思わなかったが、お幸せに。」
(なんか、いろんな人に守られてたとは…。)
知らなかった事には驚いたが、今日まで好きにやりたい事させてくれた両親には感謝している。
「あら、お父さんの本音は多分違うわよ。花が産まれた時溺愛してたのに、次代の巫女に選ばれたし、早くも結婚相手まで表れたものだから、まあ、かなり落ち込んでたのよ。うちの花は嫁にやらんって。」
「確か家に怒鳴りこんで来ましたよね~。」
「母さん!!、やめてくれその話は!!。」
「あら、もういいじゃない。時効よ。幼少時代あまりにも二人が中が良すぎて、嫉妬しまくってたし。巫女の貞操を守るには、はじめ君も入れるべき、二人が会ったらすぐに子供ができちゃうから、引き離すべきだって。…まあ、はじめ君も同じ考えだったみたいで、その時が来るまで会わないって決まったんだけど。もちろんそこには、花がきちんと巫女になるかを選べるようにの配慮もあったけどね。」
「お父さん…。お母さんもありがとう。」
二人に頭を下げる。
「お兄ちゃんも、ありがとう。お義姉さんも。」
お兄ちゃん夫婦は、目を赤くして既に涙まみれ。
「はじめちゃんのお父さん、お母さん、ふつつかものですが、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、花ちゃんがお嫁に来てくれるのを楽しみにしていたのよ。お母さんから、時々あなたの写真送ってもらってたのよ。もちろんはじめに横流ししてたけど。」
「花さん。こちらこそ、はじめを選んでくれてありがとう。」
二人に頭を下げられた。
「はじめちゃんは、私が幸せにします、任せて下さい。」
隣のはじめちゃんを見る。
「…花、もう、なんて素敵に男前なんだ。でも負けないよ、俺も花を幸せに絶対するから!。」
そう言いながらお互いの指を絡め握って、目を合わせる。
(未だに信じられない。画面でしか見られなかった顔が、ここに居て、隣に実在して、私を視てる。不特定多数ではなく、私一人を。)
「ハイハイ、そろそろ二人の世界から帰って来てー。」
「お父さん、そろそろ気絶しそうだから、やめてあげてー。」
皆が、お父さんの方を見ると、今にも魂抜けそうな顔に、どっと笑いがおきる。
(…素敵な家族だな。)
はじめちゃんと、一緒なら、どんな所でも生きて行けそう。
〖山神一、引退。〗
〖家業を継ぐ〗
〖幼なじみと結婚。〗
「全紙、新聞の見出し一面、いや流石。」
私は今、花の結婚式に出るため山神村に向かう車の中にいる。
「いやはや、大変だったよ、あちこちに電話しまくり平謝りしすぎて、首が痛くて。」
迎えに来た車に一緒に乗っているのは、山神一が所属していた会社の社長、神宮寺さん。
花からはめっちゃチャラいおじさんって聞いてたけど…。
(いやいや、フォーマルスーツバシッときて、めっちゃ男前なんですけど、どストライク!。)
ナイスミドルと数時間一緒だなんて、幸せすぎる。
「すみません、ご苦労かけました。」
運転席には、まさかの山神一、父。理さん。
こちらもなかなか可愛らしいイケメン。
(知らなかった、私ってばおじ専だったとは。)
花の結婚式に呼んでもらい、先ほど理さんから山神村の秘密も聞いてしまった。
花が巫女になった事も。
試しに山神村や、山神神社を検索してみたが、検索0件と出た。
「日本に山神村はあるけど、そこにたどり着くのは理さんの運転のみだ。地図にも乗ってない。まあ、こんな話したところで頭おかしいと思われるだけだから。」
一応口止めはされたけど、確かにおとぎ話かよって話だ。
「みかさんも、わざわざこんな遠くまでありがとうね。どうしても二人には参加して欲しいって。」
「いえ、私も招待してもらえて嬉しいです。」
花にお土産もいっぱい買って来た。
「あれ、その箱、有名なパティシエのケーキ工房だよね。確か予約随分先まで埋まってる。」
「ご存知ですか?、ドライケーキなので、日持ちするんですよ。花がこのケーキ好きなので、結婚の話聞いてすぐ予約したんですよね。奮発しちゃいました。」
その他にも、いくつか買い物を頼まれて、車の荷物はぎゅうぎゅうだ。
「俺もはじめに頼まれて持ってきたプロジェクター、家に設置してやる予定。二人しておじさんこき使うよね~。」
「…すみません、どうも家の家系は機械音痴で…。」
運転しながら理さんは、ペコペコしてる。
「あ、もうほら、村が見えて来ましたよ。」
目の前がひらけて、目に写る風景に釘づけになる。
(………、え、ジブリ?、…なんか…)
「…何か、ジブリの世界見たいだよな。」
神宮寺さんも、目の前の景色に圧倒されている。
「前来た時は夜だったから、分からなかったが、…こんなに美しいんだ。」
(…リアがち、ジブリの世界だよ、山神村、すごい所
来ちゃた…。)
「少し、降りて見ます?、空気も美味しいですよ。」
理さんが車を止めて、ドアを開けて外に降りる。思いっきり背伸びしている。
かれこれ3時間以上運転して、だいぶ疲れただろう。
私も、そっとドアを開ける。
(…。空気が、…全然違う。)
はーぁ
すぅー。
思いっきり空気を吐き出すと、山神村の、空気を全身に行き渡らせる。
「…花はこんなに素敵な村で育ったんですね。」
身体が美味しい空気を喜んでいる気がする。
「住んでいるとわからないんですけど、一度外に出るといかに村が居心地良いか、差が歴然なんで、だいたい大人になると皆戻って来るんですよ。盆とか正月も。さぁ、休憩おしまい。二人とも乗って。」
車に再び乗り込み、車は走り出す。
ふと、視線を感じて、隣の神宮寺さんを見る。
「?、どうかしました?、何かついてます?。」
「あ、いゃ、…ゴホン。すみません…なんでも。」
そう言って神宮寺さんは、顔を反らす。
「…神宮寺さん。さっき見とれてましたよね。みかさんに。」
「!!、ちょっと、理さん!!」
(!?、…え、どういうこと?。)
神宮寺さんは、少し焦った様子で理さんに抗議してる。
「ははは、どうやら、お二人さん御神木のお導きにかなったんじゃない、たまにあるんだよ。」
理さんは、楽しそうに過去のお導きで生まれたご縁の話をしてくれた。
「理さん、こんな若い子にオジさんのご縁とか、ないでしょ!。」
「神宮寺さんおいくつでしたっけ?。」
「もう、40代後半だよ!。」
「…ぜんぜん、問題ないですけど…。」
私の口から、ポロっと本音が出てしまった。
「!!え??、問題ありありだろ、四捨五入したら50だよ??。」
神宮寺さんも、驚いて私を見る。
「みかさんも、チラチラ神宮寺さんの事見てましたよね~。」
「!!、理さん、運転しながら何見てたんですか!。」
確かに、イケオジ素敵~とか思いながらチラチラ見てたけど。
「まあまあ、お二人さんせっかく知りあったんだから、このご縁大事になさって下さいませ。あ、ほら見えて来ましたよ、入り口ではじめと花ちゃんが二人が手を振ってます。」
いつの間にか、今日泊まる花の実家、山上家についていた。
(いけない、今日は、二人のお祝いだ。)
「花~。」
窓を開けて手を振り返す。
(私、このご縁、無駄にしないよ。)
チラっと神宮寺さんを見ると、目が合う。
(…うん、きっと何かが始まる、気がする。)