双子の願い-1
村外れの宿屋へ戻る途中、セリヴァルはふと足を止めて視線だけを背後やった 。
隠す気があるのか無いのか分からない二つの可愛い尾行にはずっと気付いていたが、さすがに無視しづらくなってきたのだ。
セリヴァルは、ふぅとため息をつきながら、くるりと向きを変えて双子に向き合う。
そして、ゆっくりとした足取りで二人に近づく。
ミルダとグラシアの二人は、その足音を聞くと一瞬びくっと体を震わせたが、すぐに観念したようにその場に立ち尽くしていた。セリヴァルが二人の目の前に立っても、二人は俯いたまま目を合わせようとしない。
その様子を見てセリヴァルはまた小さくため息をついたが、それはどこか優しい響きを帯びていた。
「何か、ご用かしら?」
自分もまだまだ甘いなとセリヴァルは心中で鼻を鳴らす。放っておいても良かったが、強く自分を求めてくる気配がとても切実な色を帯びていて、切り捨てるのはどうにも寝覚めが悪い気がしてしまったのだ。
双子はお互いを見合わせ、意を決したように片割れが口を開く。
「わ、私たち……魔道士様にお願い事があって…。私はグラシア、こっちは姉のミルダ。見ての通り、双子です」
「…さっき覗いてた子達でしょう?みんなの前では言いづらいことだったのかしら?」
セリヴァルは軽い口調で、ゆっくりとミルダとグラシアを交互に観察する。
2人の髪は三つ編みに編まれており、顔は泥で汚れているが目鼻立ちがくっきりした愛らしい容姿だが、姉のミルダの襟元にはわずかに火傷の痕が見える。それ以外の違いは服装だけで、2人は見分けがつかないほど瓜ふたつだ。
「私達……みんなに嫌われてるから…」
あの場に出ていけば聞こえる陰口では済まないことが分かっていたのだろう。ミルダは小さく呟くとまつ毛を震わせて目を伏せる。
「凶兆の双子…ね」
「………」
「古来より双子は凶兆の兆しとされてきた。本来1つであるべき魂が2つに分かれたのは神からの罰であり、その存在そのものが咎であると…」
「…やっぱり、知ってたんですね…」
グラシアが消え入りそうな声で呟く。
セリヴァルは二人の顔を交互に見つめ、そして小さく息をつくと静かに頷いた。
「さっきも言ったけど、私には関係ないわ。あなた達は在るべくして双子で生まれたの。それは決して神の罰などではない。生まれる前がどうだったかは分からないけど、今のあなた達の魂はきちんと別々のものだし」
だからちゃんと見分けもつく、と続けるとセリヴァルは双子のまだ小さな頭を撫でた。
2人の目が大きく見開かれ、みるみるうちに涙が溢れる。ミルダはそのままぽろぽろ泣き出し、グラシアは懸命に堪えている様子だった。