凶兆の双子
ソルヴストランドの村、ヘルシルヴァの広場に佇む一本の大きな木の下。朝の冷たい風が村外れの木陰を吹き抜ける中、旅の魔導士を名乗る女性セリヴァルが村人の囲みの中で相談に応じていた。広場から少し離れたその場所は、村人たちにとってささやかな休息所でもあり、悩みを持ち寄るには絶好の場所だった。
「息子の咳がおさまらないのです。風邪はとっくに治ってるのに…」
セリヴァルは静かに聞きながら、「西の山に青くて小さな花が咲いているわ。今の時期なら黄色い葉も見えるはずだから、それを煎じて飲ませてみて。喘息に効く薬になるわよ」と、穏やかな声で答える。
続いて別の村人が話しかけた。
「山から下りてくるイタチに農作物を食われちまうんです。カカシを置いても怖がりゃしねぇ」
セリヴァルはふぅんと頷き、用意していた小袋を差し出しながら言った。
「これは乾燥させたラベンダーよ。すり潰して粉にしたものを畑に撒くといいわ。彼らはこれの匂いを嫌うから。雨が降ったら匂いが薄れてしまうから、そのときは新しく作り直すといいわ」
村人は悩みを聞いてもらう代わりに魚や農作物などの報酬を渡しているようだった。とそのとき、ふと村人たちの視線が同じ方向へ向いた。少し離れた場所から、二人の少女が人だかりを興味深げに眺めている。いつも教会で祈っている双子の子だ。彼女たちは互いに顔を見合わせ、周りの大人たちが話す内容に耳を傾けるように少しずつ近づいてきた。
「凶兆の子がまた…」
「忌々しい…」
村人たちは双子に気づき、小さな声でささやき合い、嫌悪を隠さなかった。セリヴァルも一瞬ちらりと視線を向けたが、すぐに視線を村人たちに戻して尋ねる。
「なぜ、凶兆なの?」
その静かな問いに、村人たちは一瞬戸惑い、互いに目を合わせた後、まるで当然のことを説明するかのように口を開いた。
「…双子だからです。双子は古くから凶兆の兆しとされてきました。村には災いをもたらす存在だと…」
別の村人も頷き、「あの子たちが生まれてから、家畜が病気になったり、作物が不作だったり…不吉なことばかり起きています」と続けた。
セリヴァルはその説明を黙って聞いていたが、どこか面白がるような微笑を浮かべながら、「それで?」と促すように言葉を継ぐ。
村人たちは少しずつ苛立ちを滲ませながら、「だから、あの子たちはみんなの厄災の元なんです」と言い切った。その視線が双子に向けられると、少女たちは怯えたように身を縮め、物陰に隠れるようにして顔を伏せた。
「そう…。あなたたちがそう思っているのなら、そうかもしれないわね」
村人たちは一斉に頷き、「そうでしょう!」と口々に呟いた。が、セリヴァルはそれを制する。
「でも、私には関係ないわね」
きっぱりと言い切る彼女に、騒いでいた村人たちはピタリと口をつぐむ。静かに、穏やかな口調ではあるが有無を言わさぬ強さがその声にはあった。
「私は誰からも等しく対価を受け取り、等しく願いを叶える。それだけですもの」
すっかり隠れてしまった双子の耳にもその言葉がしっかりと届いていた。