捕獲
シルバルク山脈の麓から続く道を、セリヴァルとヴィルカインは並んで歩いていた。風の冷たさが肌に染みるが、二人は無言で歩みを揃え、その静寂さえも自然の一部のように感じられる。
やがて、洞窟が見えてくると、ヴィルカインがふと足を止め、セリヴァルの方へと視線を向ける。
「……ときに、セラよ」
その言葉に振り返った瞬間、ヴィルカインの腕が素早く動き、セリヴァルをひょいと肩に担ぎ上げた。
「えっ……!?」
セリヴァルは驚きの声を漏らすも、身を固めたまま動けずにいる。ヴィルカインはさも愉快そうに微笑み、まるで何かの戦利品でも掲げるように彼女を支えた。「ようやく捕まえたぞ、奔放な風の化身め」とヴィルカインが言う。
「わしのところに、お主の客が何度も来ておったわ」
「客……?」
肩に担がれたままのセリヴァルが戸惑いながら問いかけると、ヴィルカインは再びゆっくりと歩き出す。
「うむ。お主が風に乗ってどこへでも行ってしまうから居場所が分からんと言ってのう」
「ヴィル様を訪ねるってことは、人間の客ではないのですよね?」
「……エンヘイムの山の主。訪ねてきたのはその遣いだ」
「………エンヘイム…」
その名を口にした瞬間、セリヴァルは微かに眉を寄せ、記憶をたぐるように考え込んだ。しばらくして、何かに思い当たったのか、「あ」と小さく声を漏らす。ヴィルカインは彼女の反応に目を細め、少し意地悪な口調で問いかけた。
「…何か身に覚えがあるのだな?」
セリヴァルは少し困ったように笑いながらも、肩に担がれたまま、どこか逃げ場のない視線を向けていた。
「……あると言えばありますけど…。でも…」
ぺしっとヴィルカインはセリヴァルの尻を叩く。彼の口元には、困惑する彼女を楽しむような小さな笑みが浮かんでいた。
「話はあとで聞こう。どうせまた遣いが来るかお主をエンヘイムへ送り届けるまではお主を捕まえておかねばならんからのう」
ヴィルカインはにやりと笑い、セリヴァルを抱えたまま洞窟の中へと入っていった。
「う~…」
悪戯が露見した子供のようにセリヴァルはうなだれた。
【完】




