ただ在りし者
「そう…。そんなことになっているの」
ヘルシルヴァの村から少し離れた山の中、教室の噂話を聞いていたエアリアルがセリヴァルに報告していた。頼まれたわけではないが、セリヴァルの魔法を受けた人間には彼女の魔力が刻まれるため、エアリアルにはグラシアがセリヴァルに願いを叶えられた者だと分かっていたのだ。
「あのこ、すっごくかなしそうにおこってた。どうするの、リヴノール?」
エアリアルは彼女を「セリヴァル」とは呼ばない。「選ばせ、叶える者」という意味を持つその名は、ずいぶん前に人間が彼女につけた名だった。人間の目線でつけられたその名を彼女は気に入っているようだが、エアリアルにとっては不自然に感じられるからだ。
「…どうもしないわよ。選ぶのは、あの子たちですもの」
彼女の答えにエアリアルは「やっぱり」と笑う。風と大地にただ在りし者、それが彼女につけられた最初の名だった。
どんな未来であれ、それはヒトの選択の先にある。一人ではなく多くのヒトの選択が絡み合い、運命は形作られていく。
風と大地の御子は気まぐれにヒトの願いを叶えるが、それを選ぶのもまた、ヒトなのだ。
「同じ顔を持ち、同じ境遇に生まれ育ち、同じものを対価に差し出して同じ願いを叶えても……同じ未来になるわけではない」
セリヴァルの言葉にエアリアルはくすくす笑いながら彼女の周りをくるくると回る。
「ふしぎね。なにがちがうのかしら」
セリヴァルはそっと目を伏せながら穏やかに答える。
「魂…かしらね」
セリヴァルはふわりと笑みを浮かべると、遥か遠くを見つめた。まるで、二つの運命の行方を静かに見守っているかのように。




