子供たちと双子3
授業が終わり、教室には放課後の掃除のために生徒たちが残っていた。ミルダも黙々と机を片付けていると、教室の隅から「きゃっ!」と小さな悲鳴が上がった。見ると、カミラが足を滑らせ、手にしていたバケツの水を床一面にぶちまけてしまっている。周りの子たちはクスクスと笑ったり、「何やってんだよ」とカミラを冷やかすばかりで、誰も助けようとはしない。
ミルダは、そんな様子を見ているうちに自然と足が動いていた。そっとカミラの元へ近づくと、手にしていた雑巾を差し出す。
「大丈夫?一緒に片付けるよ」
ミルダの言葉にカミラは少し驚いたようにミルダを見上げ、俯きながらも控えめに「…ありがとう」とつぶやいた。その声には、安堵と少しの戸惑いが混じっている。
ミルダは淡々と床に広がった汚れた水を雑巾で拭き取ってはバケツに絞り、再び拭き取る作業を繰り返していた。泥水が広がったせいで床が滑りやすくなっており、慎重に拭きながらも手際よく動く。手伝い始めてからしばらく経った頃、ミルダの手は冷たい水で赤くなり始めたが、彼女はそんなことを気にする様子もなく、カミラに優しく微笑みかけた。
その様子を、グラシアは不満げな顔でじっと見つめていた。眉間にしわを寄せ、口元をきつく結んだまま、じりじりと足を踏み鳴らしている。手助けしようとした老婆に無下に扱われたことがまだ胸に残っており、そんな連中に手を貸す必要なんてないと思っているのだ。彼女は何度も視線をミルダとカミラの方へとやりながら、苛立ちを隠しきれずにいた。
グラシアは我慢の限界に達したようにミルダの手をぐいっと引いて、「もういいじゃん、帰ろうよ」と言い放つ。しかし、ミルダは小さく首を振り、優しく微笑んで手を止めない。
「大丈夫。このぐらい平気だよ」
そう言っている彼女の手は冷たい水で赤く腫れ始めている。その様子に、カミラは申し訳なさそうに眉を下げ、「でも……手が……」と小さな声で呟いた。
その瞬間、グラシアは怒りに任せてカミラに向き直った。
「あんたに心配される筋合いなんてない!」
鋭い視線をカミラに向け、再びミルダの手を強く引いた。
「帰ろうよ、ミルダ!こいつらが私たちを助けてくれたことなんて、ただの一度もなかったじゃん!」
その言葉には、押さえきれない悔しさと憤りが滲んでいる。ミルダは一瞬グラシアを見つめた後、ふっと息をつくと、彼女の手を軽く握り返した。
「…だから助けない、なんてことにはならないよ」
グラシアはその言葉に思わず口を閉じ、複雑な表情でミルダを見つめ返した。カミラも、何か言いたげに立ち尽くしている。
周囲の生徒たちは、好奇心からかちらちらとこちらを見ているのが分かる。その視線に対してもグラシアの胸の中には、ますます怒りが募っていった。なんでこんな時に、みんなが見ている前でこんなことをしているんだろう。自分がどれだけ気を使ってきたか、もう耐えられない。
「ミルダの分からずや!」
グラシアはそう吐き捨てるように言うと、ついに堪えきれずにその場を離れ、足早に教室を出て行った。彼女の後ろ姿がどんどん遠くなるのを見て、ミルダは小さくため息をついた。周囲の視線を感じながら、彼女は静かに床を拭き続けた。




