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今日見た夢

作者: 伊藤 楓

 「攻撃を開始してください」

 ブロンドの長髪の美しいアメリカ人女性がそう言う。

 彼女は何か計器のたくさん詰まった部屋のモニターの前のマイクに向かってそう言っている。

 これは僕の夢の中なので彼女は都合よく日本語でマイクに向かって言っていた。


 僕は外を歩いていた。すっかり夜だった。夜だけど、そこは人間の造り出した光で明るかった。

頭上の巨大な透明のチューブの中を電車が走っている。電車が僕の真上を通ると電車の腹の部分から地上へと光の束が注ぎ、それが電車の通過と共に流れていった。

 ビルが建ち並び、僕の右斜め前あたりのビルの一面に取り付けられたモニターのようなものから、三次元の映像が空中に映し出されていた。何かの宣伝なのかどうかはっきり分からないけど、何かウルトラマン的なものが怪獣と格闘している映像だった。道往くたくさんの人々は見上げるような恰好でそれを見ている。歩きながらだったり、立ち止まっていたり。その三次元映像の奥に巨大な高層ビル群が見える。僕はそこに向かっている。

 どうやら現在ではないらしい。そもそも夢の中では現在も未来も過去もないのかもしれない。形而下の世界ではないのであろう。でも、そこはとても未来的な世界だった。

高層ビル群は僕が見たことのないほど高く聳えていた。真下に建って見上げると上の方が細い線になっていてそれがどこかで収束しているのだが、はっきりとその収束が分からない。つまりはそれほど高い。

 僕は高層ビルに囲まれた広場にいた。高層ビルは綺麗な円に沿って並び、広場は綺麗な円だった。高層ビルは全てライトが消えており、広場に注がれる明かりは街灯の光だけで薄暗かった。さっきまで僕がいた場所とは明るさが全く違った。何かこの広場はその周りの世界から切り離されたところのような感じさえした。

 ある一人の女性が現れた。何故、その女性が現れたのか僕にはよく分からない。

 彼女は「ナマシテ」とインド風に挨拶した。僕も返した。

 彼女は確かにオリエンタルテイストな顔つきをしており、そのインド風の挨拶がよく似合った。

 

 パチン。

 スイッチが切り替わるように場面が変わる。

 「攻撃を開始してください」とアメリカ人女性が言う。計器のたくさん詰まった部屋のモニターの前のマイクに向かって言う。


 パチン。

 彼女は空を見上げた。僕も見上げた。僕らの見れる空は高層ビルのせいで円形に刳り貫かれてる。見事な星空だった。大小明暗様々な星がそこにはある。

 突然、その空に幾筋もの光条が走る。それは星と星を光で結んだような線だった。

 「アメリカがまた戦争を始めたわね」と彼女は空を見上げながら言う。

 僕は何も言わず黙ってその光景を見ている。光条の一端に爆発したような乱雑な光の拡散も見受けられる。

 「何でこんなことするのかしら?」と彼女はとても寂しそうな目を空に向けながら言う。その目は僕に秋の霧雨を思い出させた。何か取り返しのつかないことを憂うような具合だ。

 僕は彼女の横顔を見ている。首を傾げる。そして、再び空を見上げる。

 空を飛ぶたくさんの何か――それが正確に何なのかは分からない。飛行機ではなく、きっと未来的なものなのだと思う――がたくさんのもう一方の何かに向かってレーザービームのようなものを発射している。

 「世界はどこに向かっていくのかしら?」と相変わらず空を見上げながら寂しそうな目をして僕の横にいる女性は言う。

 高層ビルに囲まれたその空では何か絶望的な光景が繰り広げられていた。僕らはきっと避難するべきではないだろうかと思う。でも、どこに行っても無駄なような気がする。ここだけが安全なような気もする。でもいつかはここも無くなるように思う。

 「世界はどこに向かっていくのかしら?」ともう一度彼女が言った。

 僕は哀しい表情で彼女の横顔を見た。僕らはここにいるべきだと思った。


 僕は夢から覚めた。

 世界はどこに向かっていくのだろう?

 そう思いながら、ベッドの上で伸びをした。

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