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深紅の雨

夫が亡くなった日。




雨が降っていた。




妻のリングは、何もかもが変わってしまった事に気がついた。




それまでも夫は具合が悪く、ほとんどが床に臥せた日がおおかったが…。




朝起きてベット側のカーテンを開け、彼の顔を見て次に呼吸をしている身体を見るのが日課になっていた。




そして、いつものように彼に語り掛ける。




「今日は、朝日が綺麗よ。やっと晴れて、洗濯物が片付くわ」もちろん、細く開けられた虚ろな瞳はこちらを見ることもなく、返事が返ってくることはない。




それでも、一人ではなかった。夫の手を握りしめると、時おりとても弱い力ではあるが握り返してくれた。それだけで十分だった。私たちが過ごした30年の思い出があるから……。




夫は、昔から寡黙な人だった。




それに比べて私は、人が周りにいないと寂しくて仕方がなかった。だから、常に人の輪の中にいたし、お喋りが好きでいつも笑っていた。




そんなある日、私の周りから人が少しづつ去っていった。




父の会社が倒産したのだ。




私は世間知らずのお嬢様で、皆が私の周りにいてくれたのは父の影響力があったから。そんなことさえも知らなかった。




債権者が何度も家に来るようになった頃、父も母も私をおいてどこかへ行ってしまっていた。




もう子供じゃないわけだけど…どう自分で生きていけばいいのかその頃は何もわからなかった。




そんな中、あなただけはいつも私の傍にいてくれた。私に、お掃除やお料理や普通の人が出来ることを根気強く教えてくれた人。家賃を払うことや水道代や光熱費、食費すべてにお金がかかることを。




そして、あなたがいてくれたから心からの慈しみや愛がわかったの。




それなのに、私を置いていかないで一人にしないで‥‥。




その日から私はずっと悲しみにくれていた。涙が一時も止まらなかった。ぼぉーとして窓の外に目線を移すと、悲しみを競っているように雨が降っている。




私は、あれから何日こうしていたのだろうか。




あれ、涙ってこんなに出るものなの?




外の雨音も一向に止む様子もない。




視線を移すと、血のような深紅の雨が地面や花々に降り注いでいた。

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