闇を砕く鋼の拳
「……レベル上げ、か。やることは決まってるな」
フェンリルと別れた俺は、王都近郊の『迷い枯れの森』へと足を向けた。
立ち並ぶ巨木の間から、生物を冒涜するような腐臭が漂ってくる。
ギチギチ、と不快な音が響く。
影から姿を現したのは、どす黒い皮膚と異様に肥大化した筋肉を持つ醜悪な群れ。
この森を縄張りとする魔物、闇の者達だ。
奴らは一斉に、手にした錆びた大剣や棍棒を振り上げ、咆哮とともに突っ込んできた。
「ガァァァァァッ!!」
数にして三十。常人なら絶望する物量。
だが、俺は逃げない。……いや、逃げる必要がない。
「……試させてもらうぞ。この肉体の『出力』を」
ドクン、と心臓が熱を帯びる。
「覇射」の奔流が全身の血管を駆け巡り、膨れ上がった筋肉がミシミシと悲鳴を上げた。
ドォォォォォンッ!!
俺が踏み込んだ瞬間、足元の地面が爆発した。
「速すぎる」なんてレベルじゃない。
先頭の魔物が振り下ろそうとした棍棒が空を切る前に、俺の右拳がその胸部を貫いていた。
「ガハッ……!?」
ボキボキと骨の砕ける感触。
そのまま拳を引き抜かず、魔物の巨体を「盾」にして後続の群れへ突っ込む。
衝突。
肉と肉がぶつかり合う鈍い音が森に響き、三体の闇の者達が血反吐を撒き散らして吹き飛んだ。
「ハァッ!!」
鞘に収まったままの『炎狼剛刃兼定』を旋回させる。
覇気を纏った一撃は、もはや斬撃ではなく衝撃波。
正面から斬りかかってきた魔物の首から上が、衝撃だけで消し飛んだ。
(軽い……! 重戦車を振り回してるような感覚だ。これが、レベルアップした俺の力か!)
返り血を浴びながら、俺はさらに加速する。
背後から迫る影を、見ることなく回し蹴りで迎撃。
鋼鉄の如き脚が魔物の側頭部を捉え、その頭蓋をスイカのように破裂させた。
群れは次第にパニックに陥り、逃げ惑い始める。
だが、俺は逃がさない。
心臓の鼓動に合わせて、筋肉が躍動する。
一歩、また一歩と踏み込むたびに、周囲の魔物が肉塊へと変わっていく。
抜刀すら必要ない。
拳、肘、膝、そして足。
全身が凶器となった俺の前に、闇の者達の群れは、ただの「赤い霧」と化した。
「……ふぅ」
静寂が戻る。
周囲には、原形を留めない魔物の残骸が転がっているだけだ。
激しい呼吸とともに、体の芯から熱い何かが突き上げてくる。
(肉体が、歓喜してやがる……。戦うほどに、俺の中の『覇射』が研ぎ澄まされていくのがわかるぞ)
フェンリルの言った通りだ。
実戦こそが、俺を最強へと押し上げる唯一の道。
俺は血に濡れた手を握りしめ、さらなる「獲物」を求めて森の深淵を見据えた。




