『鏖殺の戦斧』崩壊
「ヴィクトリア、あいつを任せてもいいか」
「……っ。ああ、もちろんだ、刃! 貴公の背中は、私が死んでも守り抜く!」
ヴィクトリアが聖剣『アマテラス』を正眼に構える。
彼女の対戦相手は、冷酷な眼差しを向ける懐刀の女、ガリアだ。
「……来るぞ」
俺の呟きと同時に、戦場が爆発した。
ドォォォォン!!
ゾドの戦斧が地面を砕く。
だが、そこに俺の姿はない。
(……練り上げろ。内なる『覇射』を、一点に)
ドクン、と心臓が跳ねる。
体中を駆け巡る「覇気」の奔流。
それが血管の隅々にまで行き渡り、俺の全細胞が覚醒する。
――世界が、止まって見えた。
「……遅い」
「なっ……!? 消えただと!?」
俺はゾドの背後に立っていた。
「覇射」による爆発的な身体強化。
ただの「一歩」が、敵の目には「消失」に映る。
俺は抜刀せず、鞘に入ったままの『炎狼剛刃兼定』を、ゾドの喉元へ突き出した。
「がはぁっ……!?」
ただの鞘打ち。
だが、覇気を纏ったその一撃は、ゾドの巨体を紙切れのように後方へ吹き飛ばした。
「バ、バカな……俺の剛力が、押し負けただと……!?」
「終わりだ」
俺は静かに、鯉口を切る。
溢れ出す「覇射」の圧力が、周囲の瓦礫を浮き上がらせる。
一閃。
それは、もはや剣筋すら見えない神速。
ゾドが反応する間もなく、俺は彼の懐を通り過ぎていた。
「……カハッ」
ゾドが持っていた巨大な戦斧が、突如として砂細工のように崩れ落ちた。
続いて、彼の厚い鎧が、そして肉体が、無数の斬撃を浴びたかのように血を噴き出し、沈んだ。
「……お見事です、刃様」
音もなく、シオンが横に並んだ。
その短く簡潔な言葉に、確かな信頼が宿っている。
彼女はそれ以上何も語らず、ただ静かに俺の影に溶け込むように控えた。
俺は頷き、視線を横へ移した。
そこでは、もう一つの死闘がクライマックスを迎えようとしていた。
「ハァッ!!」
ヴィクトリアの聖剣が、黄金の軌跡を描く。
ガリアの蛇腹剣が生き物のようにしなり、ヴィクトリアの白銀の鎧を掠める。
「ふふ、いいわね……その高潔な顔が、屈辱に染まるのを見るのが楽しみだわ!」
ガリアが妖艶に微笑み、無数の刃の雨を降らせる。
ヴィクトリアは決死の覚悟で踏み込んだ。
「これで、終わりだ! 聖光斬!!」
光り輝く一閃。
ガリアの蛇腹剣を根元から断ち切った。
「……くっ、覚えていなさい……っ!」
深手を負ったガリアは煙玉を叩きつけ、闇の中へと消えていった。
「……はぁ、はぁ……」
静寂が戻る。
ヴィクトリアは荒い息をつきながら、剣を杖代わりに立ち尽くしていた。
だが、その姿を見た俺は、思わず息を呑んだ。
「ヴィ、ヴィクトリア……お前、その格好……」
「ん? ……あッ!?」
ガリアの最後の一撃が、彼女の鎧の合わせ目を断ち切っていたらしい。
ひしゃげた胸当てが力なく垂れ下がり、彼女の豊かな右胸が、夕闇の中に丸出しになっていた。
「ひゃぅっ!?」
騎士らしからぬ悲鳴を上げ、ヴィクトリアは慌てて手で隠そうとするが、溢れんばかりのボリュームは隠しきれていない。
ピンク色の先端が、俺の脳裏に保存された。
「み、見るな! 刃、見るのではないっ!」
「す、すまん! だが、怪我がないか確認しようと思って……」
「いいから向こうを向けッ! 乙女の危機なのだぞ!」
顔を真っ赤にしてうろたえるヴィクトリア。
先ほどまでの凛々しい姿はどこへやら、ただの初心な少女の顔だ。
そんな喧騒をよそに、シオンは一切表情を崩さず、静かに俺たちのやり取りを見守っている。




