無双の鼓動
「……来るぞ。ヴィクトリア」
「ああ、分かっている!」
俺は腰に下げた一振り――『炎狼剛刃兼定』の柄に手をかけた。
抜刀。
刀身が鞘を滑る鋭い音とともに、「覇射」の熱が鋼に宿る。
赤く、狼の牙のように輝く刃紋。
「ハァッ!!」
ヴィクトリアの剣が先陣を切る。
重厚な一撃が賊の盾を砕き、その隙間に俺が踏み込む。
一閃。
炎狼剛刃兼定が描いた赤い軌跡。
それに触れた賊たちは、斬られた感触さえ置き去りにして、脳を焼くような魔力過負荷に襲われ、白目を剥いて崩れ落ちた。
(……軽い。手に取るように分かる。奴らの動きが、止まって見える)
かつてない全能感。
これが、俺の本当の強さか。
「死ねッ! 騎士女ッ!!」
乱戦の最中。
崩れた民家の屋根から、狙撃手がヴィクトリアの背後を狙い、毒矢を放とうとした。
だが、その矢が放たれることはなかった。
音もなく影が躍る。
シオンだ。
彼女は両手に逆手に持った短剣を閃かせ、狙撃手の喉と心臓を同時に貫いていた。
シオンは一切の言葉を発しない。
ただ、冷徹な機械のように次々と影から現れる伏兵を始末し、俺たちの背後を完璧に封鎖していく。
返り血を浴びても瞬き一つせず、その双眸はただ俺の背中だけを追っていた。
「ヴィクトリア、行けるか!」
「ああ、刃! 貴殿の背中は、私が死んでも守り抜く!」
二人の背中が触れ合う。
鎧越しに伝わる彼女の鼓動。
俺たちは嵐のように賊の群れを蹂躙し、ついに村の広場を制圧しかけていた。
だが、その時。
ドゴォッ!!
爆発音と共に、燃え盛る民家の壁が内側から粉砕された。
「ガハハハ! 随分と威勢がいいじゃねえか、小僧ども!!」
土煙の中から現れたのは、返り血で全身を赤く染めた巨漢。
身の丈を超える巨大な戦斧を担いだ男。
隣でヴィクトリアが息を呑むのが分かった。
「……っ!? まさか、奴が自ら出てくるとは……!」
「ヴィクトリア、あいつを知っているのか?」
「ああ……。賊集団『猪突の牙』の首領、『鏖殺の戦斧』のゾドだ! それに後ろに控えているのは、冷酷非道な懐刀、ガリア……! 刃、気をつけろ。奴らだけはこれまでの雑魚とは次元が違う!」
ゾドの背後。
冷酷な眼差しでこちらを見据える女、ガリアが、蛇のような舌先で唇を湿らせた。
「俺の斧で、どっちが先に絶叫するか試してやろうじゃねえか!」
ゾドが放つ圧倒的な殺気。
逃げ遅れた村娘が震えながら俺の服を掴む。
俺は村娘を背後に庇い、炎狼剛刃兼定を正眼に構え直した。




