6.懐かしい夢
夢を、見ていた。幸せな夢を。
「ナターシャ!」
「どうしたの、ロイド」
今日は星詠祭だ。特別なお祭りで、その日流れ星と一緒に願った願いは叶うと言われている。もちろん、そんなの迷信だって子供の私だって知っているけれど。露店もたくさん出ているし、家に帰ったら、いつもよりも少し豪華な料理が待ってる。
夜にベランダから、星を眺めているとお隣のロイドに声をかけられた。そして、ロイドは危なげなく、隣のベランダから私の家のベランダに飛び移ると何かを差し出した。
「これ、ナターシャにあげる」
ロイドが差し出したのは、おもちゃの指輪だった。
「露店で買ってきたんだ」
ロイドが咳払いをしてひざまずいた。
「ねぇ、ナターシャ。大きくなったら僕と結婚してくれる?」
「もちろん!」
笑顔で頷いた私に、ロイドは指輪をはめてくれた。指輪は少し大きくて。薬指では簡単に外れてしまいそう。それでも、私の一番の宝物になった。
「……ん」
目を覚ます。ここは、どこだろう。私、何をしていたんだっけ。今日は、星詠祭で──違う。今日はライオネルさんの元で魔法を学ぼうとして、教科書に書かれた通りやって、それから……。
「目、覚めた? あんた、魔法を暴走させたんだよ」
「! ライオネルさん、ここは……」
思い出した。水を出そうとして、部屋が濁流に呑み込まれたんだ。
「僕の部屋。研究室のすぐ近く。ただの暴走だったし、医務室まで運ぶのは面倒だったから」
慌ててベッドから飛び上がる。人のベッドを今まで占領していたなんて気が引ける。
「あー、いいよ。まだ、寝てて」
「でも、研究部屋が大惨事になったんじゃ……。申し訳ありません!」
なにせあれだけの量の水が現れたのだ。
「僕を誰だと思ってるの?」
ふっ、とライオネルさんは鼻で笑った。
「あれくらいどうにかできるよ。でも、今回のことでわかった。あんたは、一人にさせると危険だ」
「……はい」
どんな処罰が下るだろう。そう思って、ぎゅっと目を閉じると、温かいものが額に触れた。
「まぁ、あんたをほっといた僕も悪かった。今後はひとまず僕のそば以外で魔法を使おうとしないこと。……それから、初めてにしてはなかなか上出来だったよ」
「え──」
くしゃりと撫でると、頭から優しい手は離れていった。
「もうしばらく、休んでて。僕の今日の仕事が終われば、寮まで送っていくから」
そういってベッドに寝かされ、布団をかけられる。なんだか、また眠くなってきた。
「おやすみ……ターシャ」
最後にとても懐かしい呼び名を聞いた気がしたけれど。私は、眠気の狭間に忘れてしまった。
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