2.全属性
王都近くの町は、王都に近いだけあって、栄えている。仕事はすぐに見つかった。
私は、宿屋の従業員になった。幸いなことに、泊まり込みなので、働き口と一緒に住居も確保できた。それなりに充実した日々を過ごした、そんな、ある日のこと。私は、素泊まりの一人客の会計をしていた。
「? 硬貨が一枚多いですよ」
それも変な硬貨だ。この国で使われる硬貨は金か銀のものしかないのに、赤金色をしていた。私がそういって、客に硬貨を渡すと、客の男性は驚いた顔をした。青い髪に金の瞳がよく映えた美しい男性だった。
「ああ、悪い間違えた……って、お前これが見えるのか?」
「? はい」
見えるもなにも、そこにあるじゃないの。私が首をかしげると、男性はもっと不思議そうな顔をした。
「なんで魔法が使えるのに、王都で働かない? 持つものは尽くすべきだ」
「誰の話ですか?」
「お前だ」
男性は私を指差した。なにを言ってるんだろう、この人は。魔法が使えるのは、ごく一部の限られた人だけ。村で育った私が魔法を使えるわけないのに。
私がそういうと、男性はポケットを探り、もう一枚の硬貨を見せた。
「これは、何色に見える?」
「青色」
「これは?」
「緑」
「これは?」
「赤」
「これは?」
「表は白色……でも、裏は黒ですね」
何がしたいのかさっぱりわからないけれど。私がそう思いながら、男性の質問に答えていると、男性は美しい顔を歪めて、私の腕をつかんだ。
「なんで、全属性持ちが、こんなところに!?」
「全属性?」
だから、いったいなんだというのだろう。
「この硬貨は簡易的な属性テストに使われる」
「……はぁ」
属性テストというものがそもそもなんなのか、わからない。
「硬貨は魔力がある者にしかみえない。お前には魔法の才能があるんだ」
「えぇ!?」
それは何かの間違いだ。この国の子供たちは必ず5歳のころ、魔力検査を受ける。私は適正なしだったはずだ。
私がそういうと、男性は顔をしかめた。
「なに? 適正なし? 全属性持ちがそんなはずはない。……あるいは、魔力量が多すぎて測定できなかったか」
そんなこと……あるのかしら。私は平凡な人間だ。魔法が使えるなんて到底思えない。
「とにかく、お前は俺と一緒に来てもらう」
私は訳がわからないまま、男性と行動を共にすることになった。宿屋の主人も止めてくれたのだけれど、全属性持ちの隠匿は重罪になるとかなんとか言いくるめられ、宿屋もやめることになった。
「荷物は、それだけか?」
「はい」
私が頷くと、男性──名前はリオンというらしい──は、すたすたと歩きだした。慌ててその後をついていく。
「あのっ、リオンさん」
「どうした?」
「本当に私に魔法が使えるんでしょうか?」
信じられない。私は、平凡で。きっとだから、ロイドも私を選んでくれなくて。
「……それを確かめに行くんだ」
王城につくと、リオンさんは羽織っていたローブを脱いだ。
「!」
リオンさんの服装は、上級魔法使いにしか許されないものだった。左胸には、5色のバッチがついている。その色は硬貨と同じ色だった。でも、一色……黒がない。
私がその事を指摘すると、リオンさんは眉をひそめた。
「俺には黒魔法は使えない」
黒魔法。精神に作用する類いの魔法だと聞いたことがある。確かそれを使える人はとても限られているのだとか。
「俺の話はいい。今は、お前だ。そういえば、名を聞いていなかったな。お前の名は?」
「ナターシャです」
「では、ナターシャ。今からお前は魔力検査を受けることになる」
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