1.必要ないんだ
好きだと思った。──だから、あなたの側にいたかった。けれど。そんな私の想いはたった一言で打ち砕かれた。
「君は、もう必要ないんだ」
ヒツヨウナイ。必要、ない。頭のなかで言葉がぐるぐると回る。だって。私はあなたが好きで。あなたも私を好きだといった。私たちは、いつか、結婚するのだと思っていた。あの幼い約束の通り。
『ねぇ、ナターシャ。大きくなったら僕と結婚してくれる?』
『もちろん!』
幼い鈴を転がしたような笑い声が、よみがえる。けれど、幼いロイドはもうどこにもいなかった。
「僕にはもう、ミシェルがいるから」
そういって、ロイドが小柄な少女を引き寄せる。ロイドの甘い笑みに少女は頬を紅潮させた。信じられない。あのロイドが浮気なんて。
「浮気じゃない。本気、なんだ」
彼女が本気なら、私は何だったの? そう、尋ねたかった。けれど、泣いてすがるのは私のプライドが許さない。
「……そう。わかったわ」
「君は、こういうときでも泣かないんだな。まぁ、そのほうがいいけど」
違う。泣けないの。ずっと、側にいたのに。私たち、いつの間にかこんなにも離れていたのね。そのことに、気づけなかったことが、とても悲しい。
私は、自分に出来る精一杯の微笑を浮かべると、二人の部屋を出た。
◇◇◇
私とロイドは幼なじみだった。家がお隣で、歳も同じ。私たちはずっと一緒に育ってきて、これからも一緒なのだと信じて疑わなかった。
私たちは今年16になって、そろそろ結婚してもおかしくない。回りからもせっつかれていたし、私もいつプロポーズされるのかと舞い上がっていた。旅の一座が訪れたときもそれは同じだった。ミシェルという特別かわいい少女をロイドが気にかけていたのはしっていたけれど、ロイドが浮気なんてするはずないと信じていた。
「いえ、浮気じゃないのね」
本気だと、言っていたもの。おそらく、彼女と結婚するのだろう。でも、そんなの祝福できるはずもない。私は、実家に戻ると、旅支度を始めた。二人で借りた部屋には、もう戻れない。必要なものが全くないとは言えなかったけれど、あの部屋にあるものはロイドとの思い出がありすぎる。
けれど、それは実家もそうだった。なにせ、私たちはお隣なのだ。ロイドがこの家に訪れたことなどなんどもある。結局、鞄に詰め込んだのは、働いて得たお金と、わずかな着替えのみだった。
父と母に今まで育ててくれたお礼を言って、村を出る。ロイドと別れて居づらいので、村を出ることを言うと、父と母はとても驚いた顔をした。
「待ちなさい、ナターシャ。きっと、なにか誤解が──」
「誤解なんてないわ。全部、真実なの」
そう言い残して、村を出た。村を出るのは、王都近くの学校に通ったとき以来だ。適当に町で仕事を探して、生計を立てよう。幸いなことに、私はまだ若い。働き手に十分なるはずだ。
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