第54話・3 (閑話)ミュリネン国王
神聖同盟の国々の王様は、突然起こった事案の対応に追われます。
今回は、ミュリネン国の王様の心の内を暴露します。
◆ミュリネン国
ロマーネ山脈に近い場所にある山国。
農業と魔物を狩る傭兵クランが多い。
ロマーネ山脈の側に在る国なので、深淵の森ダンジョンが国土の半分近くを占めている。
国民も魔物狩りなどの専門家が多く、山国の生活をしている。
国境はオースネコン国とバーリンネン国と接していて、ルクスネコル国とはバーリンネン国を通って行き来している。
ロマーネ山脈を越えてビチェンパスト国へ行く道は無い。
神の恩寵型ダンジョンは、10層程の初心者ダンジョンと言われる階層の浅いミュリネン・ダンジョンがある。
他にダンジョンはロマーネ山脈全体が深淵の森ダンジョンとなっている。
なので、多くの魔物が国内のロマーネ山脈に近い場所全域で出る。
深淵の森ダンジョンは数十年に一度ぐらいの割合で子ダンジョンを作り、スタンビードが発生する。
その時に対応するのは、住民から募集した自警団とミュリネン国の騎士団が合同で対処する。
最近は傭兵ギルドが作られ、自警団は傭兵ギルドのダンジョン専門クランとして生まれ変わった。
輸出は魔物由来の産物が多いが、農産物 特にハムやチーズの輸出品は美味しい事で有名だ。
子ダンジョンのスタンビード退治に成功したら、”ダンジョンコア成かけ”と言う魅力の大きい物が手に入る。
そのコアを加工(磨いただけ)した魔結晶はダキエ国やエルゲネス国が良い値段で引き取ってくれる。
*森ダンジョンの奥地で取れる魔結晶は”ダンジョンコア成かけ”がダンジョンコアに変化した物で基本大きさ以外同じ物。
他国の人からは、森と魔物の国と呼ばれている。
モーガン国王も30代のエネルギッシュな人で、騎士団を率いて森ダンジョンへ魔物狩りに出かけては馬の魔物ブラックビューティー(7級の魔物)などを狩る事が大好き。
王はブラックビューティーの魔石から作られたゴーレム馬を自分専用の騎馬にしている。
王都はミュリネンで、湖の側に築かれている。
水と森の都の名前が付いている。
王モーガン・ミュリネン・ネーモス・アクバルの元にミンストネル国からの使者が手紙を持ってやって来たのは10月も終わりの日だった。
王の執務室は王宮の2階の南側に在る、こじんまりとした小部屋がそう呼ばれている。
王の執務室と呼ばれているが、王がそこで執務した事は少ない。
主にこの執務室を使っているのは、オースネコン国から嫁いできた王妃のロクサーヌ妃だ。
15で嫁いできて20年、息子が二人と娘が一人いる。
ミュリネン国は王妃で持つと言われるまでに いつの間にかなっていた。
その日ミンストネル国からの使者に会ったのも王妃だった。
「ミンストネル国からの使者、大儀であった」ロクサーヌ妃の言葉に下げた頭を更に低くする使者。
「ミンストネル国王エドワルド・ミンストネル・ネーコネンより手紙をミュリネン国王モーガン・ミュリネン・ネーモス・アクバル様へと預かっております。」
「どうか御手に取ってお確かめください。」
通常なら王さまへ手渡すのだが、ミュリネン国は王様が居ない場合が多く、王妃が代わりに受け取っている。
使者もその点は十分承知の上なので、預かっている手紙を王妃へと手渡した。
使者が役目を終えて執務室を出て行くと。
王妃は手に持っている王様宛の手紙の封印を改めると、勝手に開封して読み始めた。
手紙の中身は主に二つの事以外は大した事は書かれていなかった。
主な内容は、闇魔術師がスタンビートを起こした際”次はミュリネンだ!”と言って立ち去った事。
エルフの次期女王だったイスラーファの子マーヤニラエル王女がミンストネル国へやって来た事。
後は、発生したスタンビードの内容と、クラン”緑の枝葉”の活躍の詳細だった。
『闇魔術師の対応は厄介なので、魔女や闇魔術師討伐隊に任せたい』
『闇魔術師討伐の会議をオースネコン国で開催するそうだが、参加するべきだろう』
スタンビードは問題無くても、闇魔術師は魔術や魔法が絡むだけあって厄介だ。
闇魔術師討伐隊の結成は国が対応しなくて良いだけにありがたい事だった。
スタンビードを闇魔術師がコントロールする方法が王妃にはふしぎだった。
それは、『ミュリネン・ダンジョンのダンジョンコアを取る事など何度も陛下がやっている』からだ。
陛下の場合魔物を殲滅しながら10層まで行くので、スタンビードが起きてるとしても魔物が少なすぎて誰も分からなかったのだろう。
おおよそ5年に1度ダンジョンコアを取って来ている。
この頃はダンジョンコアの大きさがとても小さくなり、ダンジョンが消滅しそうだ。
王妃は消えるなら、それはそれで良い事だと思っている。
初心者ダンジョンなど、深淵の森ダンジョンに国土の半分が入っているミュリネン国には、必要無いのだ。
ロクサーヌ王妃の判断は積極的に闇魔術師討伐隊の会議に参加する事だった。
厄介なのはエルフの子への対処だ。
提案された以上はネーコネン一族の悲願に対して動かない訳にはいかない。
否定的な意見は、一族内での発言力を下げかねない。
結論は消極的賛成へと自然に向かった。
『エルフの子マーヤニラエルへの”友誼を深める”事は、神聖同盟国の中での立場を維持するために必要だ』
『次男のセイシェルに任せよう』
王妃の結論は出た。
王の判断は王妃の政治的判断を追認するので、何ら問題ない。
今回も追認するだろうと王妃は分かっていた。
魔物との戦いが大好きな王ならスタンビードの発生を待たずにダンジョンの中へ魔物討伐に突撃するのは目に見えている。
”初心者ダンジョンなど潰せるなら潰したい!”と日頃から豪語しているくらいだから。
そして、闇魔術師がダンジョンコアを取る前に、自らの手でダンジョンコアを先に取るだろう。
果たして、王と騎士団が通り過ぎた後、ダンジョンの中に魔物がどのくらい残るだろう?
1匹か、10匹か、100匹も残っているなら、王も衰えたと言われかねない。
闇魔術師討伐隊参加は第2王子セイシェル・ミュリネン・ネーモス・アクバルに決まった。
王の決定を待って、ミンストネル国とオースネコン国へ使者が向かった。
次回は、闇魔術師の心の内です。




