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小さなエルフの子 マーヤ  作者: 迷子のハッチ
第2章 神聖同盟の国々
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第54話・1 (閑話)ミンストネル国王

 神聖同盟の国々の王様は、突然起こった事案の対応に追われます。

 今回は、ミンストネル国の王様の心の内を暴露します。

◆ミンストネル国


 王様エドワルド・ミンストネル・ネーコネンは昼7前(午前中)に会った傭兵たちの事を思い出していた。


 主に話したのはカーと名乗る初老の男だ。

 オウミ国の影の者だろうし、その中でも大物だと思われる。


 エドワルド王には近衛のレイモンド伯爵が使う影の者たちとは少し違う風格の様な物を感じていた。

 どちらかと言うとレイモンド伯爵に近い感じがしたのだ。

 彼が誰かなど今は問題ではない、重要なのは二人の魔女だ。


 特に小さな魔女は、ロマナム国王ゼフュロスからの内密の手紙で知らされているエルフの子だと思われる。

 その事は王しか知らない機密だが、事実を知らなければ魔女が化けた子供だと思っていただろう。


 魔女には、不可能を可能にする力(魔法)が在る。

 そう思えるだけの事を、実力を示す事で事実だと証明してのけた。


 万を超える魔物をたった一人の魔女が魔法で撃退どころか殲滅してのけた。

 もう一人の魔女は、魔物との戦いで重傷を負った兵たちをたちどころに治して見せた。


 ロマナム国とオウミ国は戦前圧倒的な国力と戦力の差があった。

 誰が見てもロマナム国が有利だった。

 それをル・ボネン国の裏切りが在ったとは言え、ほとんどオウミ国単独でロマナム国を叩きのめした。

 戦いでは圧倒的に強かったのはロマナム国の方だった。

 戦えば負けなかった、正面から戦えれば。

 しかし、ジリジリと後退させられた。


 野戦では、攻勢をかける度に竜騎士が現れ、その度に馬が恐怖でバラバラに逃げてしまった。

 そして、兵の移動や伏兵などの動きは全て竜騎士が空から見ていて、常に弱点を突かれて後ろへ下がるしか、敗走せずに撤退する方法は無かった。


 攻城戦では倒しても倒しても復活して来る不死身の敵兵がいた。

 その背景には竜騎士だけで無く魔女の治癒の力が存在していた。

 戦っても戦っても減らない敵、減って行くのは自分達だけ、そんな絶望的な戦いだったと聞いている。


 今回も魔女の薬は骨折や深い切り傷もたちどころに治して、噂が本当だったと証明した。


 神聖同盟の国で最大のロマナム国を散々打ち破り、300年に渡る東への征服を無かった事にされたのだ。

 魔女の事を間近で見聞きしたのでなければ信じられなかっただろう。

 貴族共がどんなに騒ごうとも、魔女と竜騎士が居るオウミ国へ戦いを挑むような事はさせない。


 弱い立場の儂には、従弟のアレクが協力的なのが助かる。


 儂が王になる時、反対する貴族が多く、アレクを王太子に据える事で何とか戴冠できた。

 儂はミンスト市を持つとは言え、それ以外に領土は無い。


 それに比べアレクは北のロマナム国に接する領地を持つミンストネル公爵家の息子、彼を押す貴族の力は南の軍事貴族たちに対抗できる。

 王家が協力すればと付け加えるが、それは誰もが知っている。


 彼の妹を王妃として迎え、生まれた子供が成人するまでの約束で王太子になって貰っている。

 彼自身は公爵家の跡継ぎが決まっていて、王家を継ぐ気持ちは無いと言っている。

 可愛い妹の背後に居て、国政の影の存在の方が生き安いらしい。


 少し若気の至りを引きずっている気がするが、好感の持てる男だ。


 彼なら儂の計画に乗ってくれそうな気がする。

 重臣共は、カーの提案を最小限に叶える事にする様だ。


 今、重臣共の思惑は”口を出して、人も金も出さない”方針らしい。

 金はミンストの食料の買い付けで大金が必要となるし、人もスタンビードで更に増やさないとならなくなった、出せる人材は無いそうだ。


 残ったのが、各国への紹介や口利きなのだろう。

 これはミンストネル国の貴族の常だが、ケチで恩着せがましい悪い所が出た様だ。

 次に狙われているミュリネン国へ恩を着せ、金でもせびる積りなのだろう。


 カーや魔女たちがその思惑に乗るか分からないが、儂は彼らの上を行く積りだ。

 エルフに関する情報をロマナム国王ゼフュロスから知らせて来た中には、エルフの子供は最低でも300才以上育たなければ人族の12才ほどに成長しないそうだ。

 成人までだと千年かかると書いている。


 今我が国を取り巻く世界情勢は悪い方へと向かっていると考えている。

 オウミ国の台頭、ロマナム国の衰退、ル・ボネン国とベルベン国の争い。


 更に闇魔術師によるスタンビードの発生。

 そこにエルフの次期女王だったイスラーファ様が深くかかわっている。

 どの国が攫ったのか分からないが、神聖同盟の国が分裂して争う事になりそうだ。


 今日見たエルフの子供は行儀の良い、見た目普通の子供だった。

 魔物を数万匹殲滅するような化け物には見えなかった。

 それでも妖精族とエルフ族の王の血を継ぐ樹人の国の王女だ。


 樹人の中でエルフと言えばエロフと言われるほどに性に奔放で、人族ともその手の話は数えきれないほどある。

 マーヤニラエルの名前を持つあの子も成長すればエルフの名に負けぬ奔放さで男を漁るだろう。

 我らネーコネン一族の悲願、長命な人族を得る事が叶うかもしれない。

 彼女の叔母は神の子を産んだと聞いている。


 妖精王とエルフ王の血を濃く継ぐ彼女なら、我らの悲願は敵うだろう。

 問題は、300年もの間待たねばならない事だろう。

 拉致して閉じ込めてしまえば安心だが、そうそう旨く行く事は無いだろう。


 今回知った彼女の使う魔法は拉致など行えば、此方を滅亡させるだけの力を持っている。

 イスラーファ様の場合は、首輪の力が在ったから拉致しようとしたと聞いている。

 それも3つの内2つは拉致に失敗して失われたと聞いている。

 残る一つはオウミ国にある。


 拉致して閉じ込める案は捨てるしかない。

 では、どうするか?


 儂の考えは、オウミ王が言ったらしい、”友誼を結ぶ”事だと思う。

 とんでもない時間が掛かるが、彼女が男を漁る様に成る頃には王族を相手に選ぶだけの友誼が結べていれば良い。

 誠実であれば良いだけだが、敵対しないだけの分別が必要だ。

 今は友誼を結ぶため、誠実さを見せれば良いのだ。


 年代を重ね誠実に彼女と付き合っていれば、その先に成果は訪れるだろう。

 今は、誠実で闇魔術師と戦える実力の有る男が必要だ。


 王太子だがアレクなら誠実で強いだろう。


 アレクを呼び出し、二人のみの密室で話した。


 「よく来てくれた、アレク お前を呼び出したのは魔女の事で話があるからだ。」


 「陛下、何か魔女について思し召しが在られるのか?」


 アレクは魔女を王城へ呼び出した事で儂が魔女を寝屋に引き込むとでも思っているのだろう。

 渋い顔付きで棘が在る言い方だった。

 アレクの奴は、些か妹思いが強すぎるわい。


 「いやいや、誤解をするなよ! 魔女の一人 子供の方について知らせたい事が在るのじゃ」


 「はて、小さい方の魔女については魔女が化けていると聞いていますが? その事ですか?」


 「化けてはおらん! あいつはエルフの子供じゃ!」

 「エルフの子が魔女に化けているだけなんじゃ。」


 アレクは「はぁ?」と言ったきり呆けてしもうた。

 やれやれ、歳も近いのに、もう少しずるく立ち回りが出来んもんかのう。


 「陛下、エルフの子供が攫われて行方不明だと聞きましたが それはベロシニアらの(かた)り。」

 「オウミより魔女がその真相を確かめに来たと聞き及んでおります。」

 「同行しているエルフの娘は見た目は7か8才、旅ができる程では無く魔女が化けていると聞いております。」


 「その通りじゃが、エルフの子は見た目通りのエルフの子じゃったと言う事じゃ。」


 アレクが驚いているが無理も無い、幼子エルフ姿の魔女が、魔物を数万匹殲滅したのじゃから。


 「エルフの幼子が魔物を、スタンビードの魔物を魔法で万を超える数倒したと言われるのか!?」


 アレクは自分が言った言葉が信じられない様だ。


 「まさにその事よ! エルフの子が我が国の 儂の目の前に来ておるのじゃ!!」

 「儂はの お主にそのエルフの子と”誠意ある付き合い”をして欲しいと思っとる。」

 「実はお主一人だけでは無い、神聖同盟の国々からも人を呼ぶ積りじゃ。」

 「エルフの評判は娼婦並みに”ふしだら”だと聞いて居るが、相手は未だ幼子だ。」

 「成長するまでは、お主一人では無い方が良いと考えて、既に使者を遣わした。」


 「陛下? ”誠意ある付き合い”をするのは私一人では無いと言われるのか?」


 「エルフの子が属するクラン”緑の枝葉”と共闘しなければならん。」

 「共闘して戦う相手は闇魔術師じゃ、戦いでは倒す必要は無い、倒す事は彼らに任せれば良い。」

 「彼らに便宜を図り、魔法を使うエルフの子を守る事がその方らの仕事よ。」

 「故に一人では無い方が良いと言ったのじゃ。」


 共に活動する中で、神聖同盟の王族との付き合いに慣れてほしい物じゃ。

 出来れば、オウミ国へ帰らずに集まった誰かの国へ住んで欲しい。


 「闇魔術師と戦う間、エルフの子と”誠意ある付き合い”をし、共に戦う事が求められる。」


 確認するためもう一度言うと、アレクも理解できたのか頷いた。


 「はい、エルフの子と”誠意ある付き合い”を心がけ、共闘して闇魔術師と戦う事にします。」


 王と王太子の話は終わった。


 だが、王太子は仕事を放り出して闇魔術師と戦うために他国へ行くには、仕事の引き継ぎが必要だった。

 王の無茶ぶりと”誠意ある付き合い”のため王太子は夜遅くまで眠れぬ日々が続くのだった。


 ミンストネル国からの知らせは、半月ほどで神聖同盟の全ての国へと伝わった。


 神聖同盟の国々が統一される切っ掛けになった事件です。

 この事件が切っ掛けで、マーヤが神聖同盟の王族や大貴族から1000年以上に渡って結婚相手として待ち望まれる事と成る原因でもあります。

 彼らから見れば、歴史的なエルフ女の奔放さを期待しての事ですから、高級娼婦と同じ感覚でマーヤへ声を掛けているのでしょう。

 彼らの思惑では、生まれた子供はエルフならヴァン国へ、人族なら神聖ロマナム帝国へと思っているのでしょうが、マーヤから見ればとんでもなく軽薄な誘いとしか感じられていません。

 千年間誘いを無視し続けるのも当たり前でしょう。


 次回は、オースネコン国王です。

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