第52話・1 スタンビードの終わり
終わったけど、始まりだった。
スタンビードが終わって周りを見ると、真っ暗だった。
櫓の上ではスタンビードが終わった事で新たな動きが始まった。
その名は、後始末!
櫓の上からは円形の広場が隅々まで良く見える。
そこに在るのは、散らばり引き裂かれた死体、ケガ人、土嚢、凍り付いた氷のかけら、魔石や魔物の残した牙や角に毛皮などが散らばっている。
抗の中は魔石以外は燃えて残っていない様だが、魔石が山となって燃えて残った灰に塗れて積み重なっている。
何度も火球が蹂躙したため魔石の中には割れた物や皹が入った物も多そうだ。
割れたり皹が入った物はくず魔石としてしか使い物にならない。
それでも魔石は売れるし、使い道も在る。
集めれば金貨で数百枚にはなるだろう。
抗の上では魔石やサンドワームのドロップ品が回収されている。
火球で焼かれて無いだけに良好な品物が回収されるだろう。
抗の上では魔物のドロップ品の回収以外にケガ人の治療所への移送が続いている。
死者の回収も始まっている様だ。
鉄の大扉が一部開いていて馬車が出入りできるようになっていた。
死者は地上の霊安室へと送られるのだろう。
立ち上がろうとして、体が重くて立ち上がれなかった。魔術の行使のやり過ぎで魔力がすっからかんに近くなっている。
魔力切れで体力を回復する事が出来なかった。
座り込んだまま、魔力回復ポーションを飲んだ。
ポーションの効果で魔力が回復して来ると、体力を回復するだけの魔力も戻ってきた。
体力を回復させると、気力も戻ってきた。
立ち上がって、カー爺の方を見る。カー爺も気が付いて此方を振り返った。
「魔女さんの加勢に行って来るね」
ポリィーは救護所でケガ人の治療に忙しい思いをしているだろう。
戦いが終わった今、一番いそがしいのは救護所だろう。
ミンストネル国の3人と何やら話し合っていたカー爺は私の言葉に頷いて言った。
「わかった、ダルトとアントも付いて行け。」
カー爺は二人にも私に付いて行かせる事にした様だ。
護衛なのか、救護所の加勢なのか分からないけど、戦いが終わっても私たちにはまだ次の用事が残っている。
恐らく護衛の方だろう、スタンビードの最中は協力する必要があったけど、終わった今はミンストネル国が如何出るのか未知数だから。
今更手のひら返して、此方を襲う事は考えにくいけど、用心に越した事は無いだろう。
「じゃ 3人で加勢に行って来るね」カー爺に軽く返して櫓を下りる事にした。
3人で入った救護所のテントの中は、ケガ人が溢れていた。
「魔女さん応援に来たよ!」ポリィーに声を掛けると。
「助かったわ、手伝ってちょうだい手が足りないのよ!」
ポリィーは心底助かったと言った表情だった。そして、重傷者が複数並べられた列を顎で示した。
両手は患者の治療のため塞がっているから取り繕っている暇は無かったのだろう。
治療所の中を見回すと、治療待ちの重傷者の列が複数並んでいる。
ポリィーは重傷者の列の一つで治療中。
救護所に運び込まれたケガ人は、入り口でケンドルさんが衛兵さんに手伝ってもらって、初級傷薬を一人に一つ飲ませている。
一目で重症だと分かる人には初級回復薬を飲ませている。とりあえずの延命に成るからだ。
初級傷薬で回復しない人が居ると、重傷者の列へと移動させる様だ。
重傷者を移動するために、衛兵さんが数人加勢している。
私も急いで重傷者が並べられている場所へと移動した。
今回は前の治療よりケガの状態が酷い人が多かった。
手や足が千切れた人や胸を潰された人も居た。
サンドワームやトレントの攻撃による被害の多さに、今更ながら良く防衛出来たと思う。
千切れた手や足を持って来て、繋げてくれと訴える人が居たので、出来るだけ繋げられる場合は繋げる様にした。
千切れた箇所が回復魔術で回復するようなら繋げられるので、千切れた方の組織が死んでなければ成功するけど、中には潰れてしまっていて回復できない場合も有った。
潰れた胸などは死んでいなければ回復魔術で回復するけど、心臓が潰されている場合はほぼ間に合わなかった。
死者は救護所から地上の霊安室へと移動して貰っている。
重傷者は用意した初級回復薬で回復しない場合、回復魔術を行使する事になる。
重傷者が多いので、魔力の使用量がとんでもなく多い。
私は櫓で魔力回復ポーションを飲んだけど、ポリィーも魔力回復ポーションを何度か飲んでいる様だ。
カカリ村のダンジョンでポリィーに魔力回復ポーションを飲ませ、ポリィーが倒れた事がある。
患者の治療をしながらポリィーの様子を見ていたけど、魔力回復ポーションを飲んでも体調に異常は無いようなので安心した。
ポリィーの体内の魔力因子は増えたまま維持できている様だ。
最後の治療が終わったのは夜5時(午後10時)を過ぎていた。
連続して四肢の接続治療をするなど、緊張の連続だった。
次回は、スタンビードの翌日です。




