第51話・2 7級の魔物(2)
スタンビードは第2波、四千匹の魔物が襲って来た。
第2波の魔物は3層から5層の魔物が殆どで、ゴブリン、コボルト、迷宮灰色狼、迷宮毛長狼、スライムなどが主だった魔物だ。
数は少ないが、カマキリや蜂などの空を飛ぶ魔物が居た。
空を飛んで襲って来ようとしたが、近寄る前に結界の風に飛ぶのを邪魔されて落ちていった。
抗の周りは私の風の防護結界が守っているので、空からの攻撃は無かったが、抗の周辺と風の防護結界の間には風の弱い隙間がある。
抗の中に次々と押し寄せた魔物は、壁に群がり魔物の背中を這い登る事で抗の上へ襲って来る。
防衛側も必死になって魔物を槍で突き落とすなどして守っている。それでも魔物は尽きることなく下から登って来る。
魔物との戦いでケガ人が結構でているようだ。負傷した人を運ぶ列が大扉の前に置かれたテントへと続いている。
救護所のポリィーは忙しい思いをしているだろう。救護所の在る大扉の前は傭兵ギルドからも衛兵隊からもケガ人が運ばれてくる。
ケガ人だけでなく運ぶ人も戦いから抜けるので、人数だけなら2割ぐらい防衛戦から抜けている気がする。
ホッとするのは、運び込まれる人達が、直ぐに同じ人数で帰って行ってることだろう。
第2波の防衛戦が始まってまだ2コル(30分)ぐらいだろう。魔物はまだダンジョンから出て来ている。
防衛戦が上手く回っている様に見える。人の流れが、入れ替わりながら前線で戦う人だけでなく、後ろで休憩している人も居る。
交代がいつ行われているのか分からないけど、魔物との激しい攻防を繰り広げている最前線の人たちが2コル(30分)たった今も疲れてなさそうだ。
「魔女っ子、そろそろ2回目を行くぞ!」カー爺から攻撃の指示が出た。
魔物が抗の中にはちきれんばかりに溢れている。出て来る数は変わらない気がするけど、そろそろ終わりそうだ。
使い魔は次の魔物を見張るため5層へ行かせているので後どのくらいか分からない。
抗の中の魔物から計算すると1層の魔物は残りは少ないだろうと思う。
ドノバン衛兵副長さんとアサイアス・ギルド長さんが慌てて部下へ指示を出した。
「衛兵!! 抗より1ヒロ(1.5m)後退しろ、急げ!!」
「傭兵ギルド員は後ろへ下がれ!!」
「「魔女が魔法で攻撃するぞ!!」」
命令が伝わるまでしばらく時間が掛かる。その間撃つ魔術に少し手を入れる事にした。
先ほどはポリィーと二人で行ったけど、今度は一人なので少し攻撃魔術の内容を変えた。
今度は、火球に込める魔力は同じだが、数を3つに増やす事にした。数を増やして威力の及ぶ範囲を大きく広げる。
上に張ってある風の防護結界も爆発の威力を閉じ込めて威力を増す効果が期待できそうだ。
「衛兵隊後退完了しました。」
少し遅れて傭兵ギルドの職員からも。
「探索者後ろへ下がりました。」
との報告があり、実際に抗の周辺には人が下がって出来た空白へ魔物が出てきている。
準備は終わったようなのでカー爺に「撃ちます」と声を掛けた。
「撃てー!!」とカー爺が号令を発した。
『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』
「火球」
火球は風の防護結界と抗との間の隙間を潜り抜け、魔物の密集する場所へと3ヶ所に着弾した。
「ドッンドッンドッン!! ドドドドドドドドドドドドドッガーーーーァーーンーーーッ!!!」
思ってたより威力は強かった様で、風の防護結界が吹き飛んでしまった。
幸い、壊れるのに上側が吹き飛んで消えたので、爆風は上へと逃げて行った。
いくらかは隙間から爆風と火炎が漏れたけど、予め下がっていたので人間側には被害は無いようだ。
魔物の方はどうなったかと爆炎が収まるのを待って見て見る。
櫓の上にいる人は全員、身を乗り出す様にして抗の中を覗き込んだ。
黒い魔石だらけだった。今度は前回より威力が在った分魔物を殲滅するだけの効果が有った様だ。
一匹も生き残りが居なかった。
それどころか、ダンジョンの入り口から1層へ爆炎が広がったのか、魔物が出て来なくなっている。
防衛抗の周りでは、取り残された魔物の殲滅戦が行われている。生き残った魔物はあっと言う間に打ち取られ、勝鬨の声が上がった。
「「「エイエイオーッ!!!」」」勝鬨が木霊して聞こえた。
「「ほっ!」」櫓の上にも凌ぎ切った事への安堵のため息が流れた。
だがスタンビードはまだ終わった訳では無い。
使い魔からの知らせは、魔物の殲滅で喜ぶ暇も無くやって来た。
「第3波が5層を通過、今度の魔物は6層の魔物がメインです」
「防護抗への到達迄4コル(1時間)後ぐらいです」
次のスタンビードまで4コル(1時間)ぐらい間が空く事になった。
私の報告の後、衛兵隊とギルド員たちにしばらくの休息を摂らせる事になった。
ドノバン衛兵副長さんとアサイアス・ギルド長さんは休息させるため指示を出すのに忙しく私たちを見ている暇はなさそうです。
カー爺の指示でアントさんと私はポリィーの居る救護所へと向かった。ポリィーに休憩して貰うためとマイセル君の様子を見る時間を作るためです。
救護所の前にはケガ人の長い列ができていた。
ポリィーは救護所で運び込まれるケガ人を数人の助手に指図しながら魔女薬や回復魔術を行使していた。
直ぐにポリィーに声を掛けて交代する事にした。
「魔女さん、交代するわ!」
直ぐにポリィーは私の声掛けに反応してこちらを見た。
素早くそばへ寄って小声で伝えた。
「4コルほど時間が空くから、マイセル君を見に言ってて、その間私がここは見ているから」
ポリィーも「分かった、此処はケガ人だけだから任せるわ」と言うとケンドルさんと一緒に外へと出て言った。人目に付かない所でポリィーはマイセル君のお世話をしに腕輪の空間収納へ行くつもりの様だ。
私は、ポリィーから引き継いだケガ人を調べて必要な処置をすぐさま行い始めた。
ケガ人は助手を務めている衛兵の方がケガ人をおおよその見た目で分けてくれているので治療は切り傷には初級傷薬を、傷口が毒に入っている様な場合には初級解毒薬を合わせて使い。
骨折などは回復魔術を行使して治療していきます。
基本、初級の傷や解毒薬で無理だと判断した場合に回復魔術を行使しています。
今の所、初級の傷や解毒薬は有っても中級の傷や解毒薬を作るより、初級の回復薬の方が金額的にも使い勝手が良いため中級の傷や解毒薬は作られていません。
50人程いたけが人も2コル(30分)もすれば全て治療が終わり、原隊に復帰させる事ができた。
次回は、スタンビードの束の間の休息と第3波のスタンビートです。




