第51話・1 7級の魔物(1)
スタンビードはいよいよ本格化してきた。
2層へ移動していた使い魔が報告してきた。
1層に充満していた魔物がほぼ居なくなったから、魔物を求めて2層へ移動させたのだ。
2層には新たな魔物が犇いていた。第2波の魔物がやって来たようだ。
使い魔を第2波の規模を知るため更に下の層へと移動させた。
「後1コル(15分)ほどで、次の魔物がやってきます」
「空を飛ぶ魔物の毒蜂を確認、他にも空を飛んで移動する魔物が居ます」
私の報告に、櫓の上に居た全員が一斉に顔を私へと向けた。
使い魔を更に下の層へと移動させると、3,4層に魔物は少なく5層は魔物で一杯だった。
5層まで移動した使い魔の報告から私は第2波の規模を約四千と推測していた。第3波は6層の魔物になりそうだが4コル(1時間)位の間は空きそうだ。
「ゴブリンや灰色狼が多いことから3層から5層の魔物と思われます」
「その数は四千ほど!」
「「・・・!!!」」息を呑む音が聞えた。
私が魔物の数を報告すると。
櫓の上に居る彼らは皆引きつったような怯えた顔をして私を見つめた。
あまりに多い数に圧倒され、櫓の上は静まり返ってしまった。
私の報告で動きの止まった彼らにカー爺が気合を入れた。
「魔物が何度も波のように押し寄せるのはスタンビードの特徴じゃ!!」
「その度に数を増やしてやってくる。」
「じゃが心配いらん、お前たちには魔女が付いているのを忘れるな!!」
カー爺は皆に聞こえるように大きな声で希望がある事を伝えた。
続けて私に近寄って小声で聞いて来た。
「しかし、空を飛ぶ魔物か! 厄介な魔物じゃが打つ手はあるか?」
「矢防で抗の上空を覆えば飛ぶ事は邪魔出来るでしょう」
「でも、魔物が這い上がって来るのまでは防げないと思います」
結界で抗の上空を塞いでしまえば先ほどのように粉塵が舞う事も無いでしょうし、中で爆発させる火球の威力も高まるはず。
ただ防護抗の上空全体に広げると結界の風の力が弱くなりそうです。飛ぶのは邪魔できても魔物が抗を越えて来るのを防ぐのは無理でしょう。
カー爺は私の返事に納得したのか、3人の指揮官が居る方へ近寄った。
そして、影の長さん、ラザフ衛兵副長さんとアサイアス・ギルド長さんへ問いかけた。
「どういたしますかな?」
「数が多いが所詮10級の魔物、ただし蜂などの飛ぶ魔物がいるようですが。」
カー爺の問いに衛兵隊副長さんが答えた。
「確かに5層迄の魔物ならだれでも対応できるだろう。」
「如何せん、先ほどの600匹ぐらいなら良いが四千もの数だと儂らは千も居ない、4倍以上の数だ。」
「早々に魔女殿を頼りにしたい。」
影の長さんも傭兵ギルド長さんも苦虫をかみつぶしたような顔をしてますが、異論はないようです。
「わかった、次は魔女っ子だけで魔法で攻撃するが、抗に魔物が満ちるまでは防戦をお願いする。」
と提案すると、衛兵副長のラザフさんとギルド長のアサイアスさんは無言で頷いた。
二人は櫓の下の部下に命令を出そうと端へ寄った。
櫓の上から下の部下へ「次の魔物が接近している防戦せよ。」、「次が来るぞ守りを固めろ。」と叫んで命令していた。
その間、影の長さんはじっと考え込んでいた。
少し時間があったので、その間に朝食を食べる事にした。腕輪の空間収納に手を突っ込んで引っ張り出したのは棒状に揚げたドーナッツ、無性に甘い物が食べたくなったのだ。
食べた後は麦茶を飲んで、今度は干したブドウやリンゴなどを、刻んで生地に入れて焼いた木の実パン。
食事が済めば、いよいよ第2波だ。
第2波は予告通り前回から1コル(15分)後にやってきた。
私の報告から空を飛ぶ魔物への対策も考えられていた。
私が第2波の中に空を飛ぶ蜂やカマキリの様な魔物を見つけて報告した事から、私が食事中に櫓の上で対策会議が始まり。
弩や弓での迎撃は逸れた矢が味方に当たる危険が大きいため行わない事が決まった。代わりにカー爺の提案で、私の矢除けの結界を抗の上に張る提案が了承された。
私は風の結界を張るに当たって、規模を拡大し上から蓋をするようにして飛ぶ魔物を閉じ込める積りだ。
ただし今の型の矢防では上が開いているため蓋が出来ない。
円柱と半球を使って作った光の結界を抗全体に張る様な魔力をバカ食いする力技的な方法では無く、円錐形を上下に押しつぶした型の風陣にする。
『風を掴んで回せ、矢の行方を狂わせ、その境を守りとなせ!』
「風陣」
風の防護結界の詠唱をして抗の上を覆うように風の結界で塞いだ。これで飛行する魔物への妨害が出来るだろう。
風の防護結界を行使し終わる頃、新たな魔物が出て来た。
次回は、第2波、第3波の襲来です。




