第50話・6 スタンビード戦(6)
スタンビードの第1波を魔法で攻撃します。そして第2波がやって来た。
魔物の集団が新たにダンジョンの入り口から現れ、外へと暴走を始めた。
スタンビードの先頭集団千匹が抗の中に溢れるまで待った。
二人で、火球の魔術陣を唱えます。
『『わが身より沸き立ちし火炎に漲る熱よ、凝縮して満ちれば爆炎と成る』』
「火球!」
二つの火球が私とポリィーの作った魔術陣から、魔物で溢れかえった抗の中へと打ちこまれた。
「ドッドッ!! ドドドドドドドドドドッガーン!!!」爆炎の連続した爆発音と炎が抗の中を埋め尽くした魔物を一瞬で覆い隠す。
櫓の上も抗の周りに居た者達も「・・・・・・・・・・・!!」音の無い、だたの息を呑むすすり泣きに似た気配の動きが有っただけだった。
爆炎はしばらくして収まり、爆発に巻き込まれた塵や瓦礫がようやく収まると、抗の中には魔物が居なくなっていた。
完全に居なくなった訳では無いけど、魔石と思われる黒い石の堆積物に埋もれて何匹かの魔物がもがいているだけだ。
楼の上は誰も口を開く者は無かったが、下は違った。先ず傭兵ギルドの探索者たちが歓声を上げた。
「・・・!!??」「すっげー!」「なんだ?なんだ?なんなんだ?」「うっそだろう!!」
傭兵たちの歓声につられたかのように、衛兵隊からも声が上がった。
「おおー!!」「信じられん。」「ゴブリンが一掃されたぞ!!」
櫓の上が静かだったのは此処までだった。
「なんだとー!?」
「おお! おお! 噂以上だ!!! なんて恐ろしい!!」
「なんだこれは!? 何なんだ? 信じられん!!」
最初に叫んだのは衛兵副長さん。未だにブツブツと防護抗の中を見ています。
その次が、傭兵ギルド長さん。
今は黙って私とポリィーを見ていますが、その目には恐れが見える気がします。
で、最後にブツブツと未だにつぶやき続けているのが、影の長さん。
魔術の行使によるたった2発の攻撃で、防護抗に犇いていた魔物が一掃されたのだ。
戦っていた探索者や衛兵隊の人たちは喜ぶ人が多いけど、櫓の上の人たちは怯えが見える目で私たち魔女を見ています。
カー爺が彼らの目を遮る様に、グイと身を乗り出すと言った。
「どうじゃったかな?」と、”ニチャ”と錯覚で音がするほどの笑顔を彼らに向けた。
カー爺の顔を見た時から三人が三人共カー爺の顔から眼が離れません。
彼らが何に怯えているのか分かりませんが、カー爺の何かに気が付き、目が離せないようです。
「驚かせすぎたのかな?」あまりに三人が黙ったままなのでカー爺の方がいぶかし気です。
櫓の上には彼らと私たち以外に、衛兵副長さんの部下の方が3人おられますが、まだ声が出ないのか防護抗を黙って見ています。
「しっかりしろ!! スタンビードは始まったばかりじゃ!!」
カー爺の大声でやっと櫓の上の人たちが気を取り直した。
最初に衛兵隊の副長さんが恐る恐る話しかけて来た。
「今の攻撃は、何度もできるのか?」
「何度でも!」カー爺がこちらを見て顎を”クイッ”としたので、わたしが答えた。
「それなら・・・!」衛兵隊の副長さんと傭兵ギルド長さんが何か言うのをカー爺が手を振って止めた。
「まて!! まて!! あんまり魔女ばかりに頼っていると、部下への示しがつかぬようになるぞ!」
「彼らにスタンビード防衛を自分たちの力でやり遂げたんだと自覚させねば、今後のダンジョン運営にも影響するようになりかねんぞ。」
衛兵隊副長さんを押える様に影の頭さんが前に出て言った。
「・・・わかったその通りだ、魔女殿の攻撃は魔物の攻勢が守りを破りそうな時だけにする。」
意外にも影の頭さんが三人の中で一番偉い人だったようです。
衛兵隊副長さんを無視して決め事をする言い方なのは、そう言う事なのでしょう。
「だが、何時でも指示がある時に、先ほどの攻撃と同じような魔法を使って貰えるのだな?」
影の頭さんがカー爺に念を押してきます。
「大丈夫じゃ、何時でも出せるように用意はできとる。」
「じゃが、魔女の一人は救護所へそろそろ行かせた方が良いじゃろう。」
「先ほどの攻防でケガ人が出てるようじゃ。」
カー爺の指摘で救護所の方を見ると、衛兵隊の馬車から数人が降ろされているのが見えた。
探索者の方は、何組かのパーティーがケガ人を担いだり、負ぶったりして救護所へと向かっている。
ポリィーも同じ光景を見ていたのか、一礼してポリィーとケンドルさんが櫓を下りて行った。
ポリィーの魔女としての使命感は治療の方が強いのだから、下へ降りると救護所へと走り出した。
使い魔から新たな知らせがあった。
2層に5層迄の魔物が集まっている、ついに本格的なスタンビードが来た様だ。
次回は、いよいよ5層までの魔物による本格的なスタンビードがやってきた。




