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小さなエルフの子 マーヤ  作者: 迷子のハッチ
第2章 神聖同盟の国々
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第50話・4 スタンビード戦(4)

 スタンビードの魔物との闘いが始まろうとしていた。

 「アサイアス、それはどうゆう事だ?」カー爺が言ってた衛兵長さんだと思う人が言った。


 「魔女の報告だ 4層でスタンビードの暴走が始まったと報告があった。」とギルド長。


 「魔女だと!」と私では無くポリィーを見た。

 「そうか! それが本当なら、魔物との闘いが始まるのだな!」


 「儂はドノバン衛兵長殿へ知らせたからな!」驚く衛兵長? さんへ、アサイアス・ギルド長が言い放った!


 「傭兵ギルドは要請があった防護抗の持ち場で防戦開始を既に命令した。」

 「これより持ち場へ行く積りだ。」


 ギルド長が言い終わると入り口へと動き出した。


 「分かった! 迎え撃つぞ!!」ギルド長の勢いに押され、ドノバン衛兵長さんが防衛戦を宣言したようだ。


 スルスルと一人の男がカー爺の側までやって来た。通用門でカー爺が話かけていた人だ。

 衛兵の装備をした姿をしてるけど、影働きの人に違いない。


 「ご一緒させていただきます。」と軽くカー爺に一礼して、ジロッと私を見た。

 「魔女殿もこのスタンビードの防衛戦に参加いただけるそうで、期待してます。」とあいさつしてきた。


 「ええ、期待してください」とポリィーが私の前に出て言った。

 「今回の戦い、魔物相手ですが共闘する方々へ、魔女の戦いの一端をお見せできるでしょう」


 ポリィーが影働きの人へ魔女は二人だと宣言するように言った。


 「共闘出来る事は私も幸運だと思う、活躍を側で見させてもらう積りだ。」


 どうやら戦いの間も側に居る様だ。カー爺が見せつけると言ったのはこの事だったのかな?


 衛兵さんたちも慌ただしく動き出した。

 私たちもギルド長を追いかけて走り出した。


 ギルド長の勢いは衛兵詰所を出ても止まらない。中央通路を走り抜けて、地下へと走って降りて行く。追いかける私も追いつくのに全力で走らないと遅れそうだ。


 ギルド長で太っているのに、私より走るのが早いなんて信じられない。

 この人も少し前まで探索者とか傭兵だったとかじゃないのかな?


 坂の下まで来たけど、鉄の大扉が閉まっている。ギルド長さんは構わず大扉の端、通用門へと突進した。

 通用門は人一人が潜り抜けられるぐらいの横幅があるけど、ギルド長さんだと腰を屈めないと通れない低い作りの通路になっている。


 開いたままの通用門へギルド長さんは突進していき体の大きさを感じさせない速さで通用門を潜り抜けて行く。

 私が通る時は、私の背より高いので楽に走って通れた。


 通用門を通り抜けた先は、朝日で明るく照らされた広い広場だ。

 前は昇降機などが据え付けて在った場所に、今は土嚢が積まれ探索者や衛兵が大勢待機している。

 穴の周りは、土嚢を積み上げた場所以外、何も無いガランとした場所になっている。


 鉄の扉が取り付けてある壁が広場の周囲を囲んで建って居る。

 壁際に昇降機が分解されて置かれていた。もしここが魔物で溢れたら魔物が壁を超えるのに使われそうだけど良いのかな?


 ダンジョン城塞の中では、衛兵さんやギルドの職員さんはテキパキと動き有能そうな人ばかりだ。

 でも、壁際の昇降機を見るとミンストネル国的ないい加減さなのか時間が無いだけなのか分からないけど。


 何だか安心した。


 ミンストの町に入る前と入ってからでは受ける印象が真逆だったから。

 入る前までは、刹那的な殺伐とした人しかいないのかと錯覚したほど印象は悪かった。

 入った後からでは、有能で職業的な倫理観を持った人たちだと言う印象が強い。


 旅に出て新たな経験をした事で人だけでは無い、国民性も一面だけからでは分からない多角的な性格があるのだと分かって来た。

 オウミ国とは違う、でも同じような人達が住んでいた。


 防護抗のダンジョン入り口の反対側、土嚢の積まれた後ろに高く櫓が組まれていた。

 櫓の左手側には探索者が右手側には衛兵の部隊が陣取っている。


 探索者はパーティーやクラン毎に小規模な纏まりになっていて全体での纏まりは無いけど人数は多い。

 衛兵隊は集団での戦闘訓練が出来ているのか、見てる限りキビキビと動き人数は少ないけど頼もしそうだ。


 防護抗を探索者と衛兵が土嚢を積み上げて、周りを囲んでいる。


 先を行くギルド長は、今は歩いている。焦った姿を見せたく無いのだろう。

 後ろを振り向いて、話しかけて来た。


 「探索者が約600人程集まってくれた。」

 「衛兵隊は30人程度の小隊が10隊、計300人が今回この場所へ出動している。」

 「合わせて900人が今回の防衛に集まった全員だ。」

 「私と、衛兵副長が今回櫓の上から指揮を執る事になっている。」

 「君たちが、私の側で助言と情報を提供して呉れる事を期待している。」


 そう言って、櫓に備え付けられている梯子に手を掛けた。


 「では、付いてきたまえ。」と言うと、櫓の梯子を上り始めた。


 櫓の上からギルドの指揮をとるようだ。私たちも続いた。

 櫓の上には衛兵さんが既に何人も居て、ギルド長が上がって来たので驚いている様だ。


 「ラザフ殿、スタンビードが始まりますぞ!」櫓の上にたどり着いたギルド長が一番偉そうな人へ叫んだ。


 「おう! アサイアス殿その情報は何処から?」


 「魔女じゃよ! 魔女!!」と私を指さして魔女だと連呼する。


 「なに! 魔女?」ラザフと呼ばれた人が梯子を上がっている私を覗き込む。


 既に櫓の上へ着いているカー爺やダルトさんとアントさんは、続いて上がって来る影の長さんが上がるのを待って、次に上がる私を引っ張り上げてくれた。

 ポリィーも引き上げて貰うと、最後のケンドルさんが上がって来た。


 影の長さんがラザフさんの側へ寄って、何やら書類を見せている。

 ラザフさんが書類を読んで驚いた顔をした。その後鋭い目で私とポリィーを観察している。


 櫓の上で緊張した、一瞬が流れた。


 「魔女っ子、スタンビードの現状を報告してくれ。」カー爺が動きの止まっている場を動かす一言を発した。


 カー爺の言葉で今の状況を思い出したのか、皆が私を見た。

 私は、カー爺に言われて報告する事にした。


 「現在、魔物の先頭は既に2層へ達しています」

 「2層までの部屋の扉は全て開いてます」

 「魔物は興奮して暴走状態となっています」


 一息入れて、次の言葉を出します。


 「魔物の出現は後1コル程すれば見えて来るでしょう」わたしが告げた内容は、スタンビード防衛戦の始まりを知らせる事です。


 私の言葉でアサイアス・ギルド長が下に居るギルド職員へ大声を発した。


 「防戦用意!! 傭兵ギルド員はスタンビード戦にそなえよ!」


 驚きで固まって居たラザフさんがギルド長の言葉で、ハッとしたように言葉を出した。


 「衛兵隊!! 戦闘用意、魔物が見えしだい攻撃せよ!!!」


 攻撃命令が出て、その言葉がギルドと衛兵隊へ伝わって行くと、ザワッザワと蠢きながら土嚢へと人が張り付いて行く。

 ギルド側は弓に矢を番える人、槍を扱く人とバラバラだが迎え撃つ体制を個々で行い出した。


 衛兵隊は土嚢に張り付いて弩を構える人の後ろに弓を持った人が並び、その後ろに槍隊が並んで行く。


 衛兵隊の後ろの動きが目に入った。衛兵隊の後ろでは輜重隊? が荷車から荷を下ろしている。

 荷車の行き来を目で追っていると、鉄の大門の前にテントが幾つも張られているのが見えた。衛兵隊の物資の集積所のようだ。


 見てるとギルドの探索者たちも出入りしているので、共同で使っているのかも?

 テントの中には煙が出ている場所も有った。どうやら今日の戦いの食事も作っている見たい。


 テントの中央付近に大きなテントが張られていて、薬師の恰好をした人が一人いた。

 ミンストネル国の薬師の人も白いマントを着用しているのはオウミ国と変わらないようだ。


 「防戦用意完了しました!」、「こちらもでーす!!」と下からの声で今の状況を思い出した。


 迎え撃つ準備が向こう側のダンジョン入り口の上まで終わった事を知らせてきた声だった。


 一瞬の静けさの中。突然入り口から探索者と思われる人が走り出て来て入り口の横に在る梯子を上り出した。

 次にまた一人出て来た。その人は反対側の梯子を上りながら叫んだ!


 「来たぞ!!!」


 その言葉がスタンビードが地上へ到達した合図となった。

 使い魔から1層の部屋の扉が一斉に開いたと知らせて来たけど、報告はしなかった。

 音が聞えて来たからだ。


 二人が梯子を上り梯子が引き上げられた頃、「ドッドッドッ!!!」と響く音がし始めた。

 同時に「ギャーギャー!!」と喚く甲高い声も聞こえたので、スタンビードの先頭はゴブリンかコボルトのようだ!


 魔物が出す音以外、静かな景色だ。私も最初は弩に矢を番えて待つ。


 次回は、ついにスタンビード防衛戦が始まった。

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