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小さなエルフの子 マーヤ  作者: 迷子のハッチ
第2章 神聖同盟の国々
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第50話・3 スタンビード戦(3)

 スタンビードの魔物との闘いが始まろうとしていた。

 私とポリィーとマイセル君の3人は食事の後直ぐに寝る事にしました。


 起きるのは夜10時(午前3時)です。

 使い魔にスタンビードを見張らせながら、トイレに行ってお風呂に入り、直ぐ寝ました。


 私が魔時計のアラームで起きるまで使い魔からの警戒の知らせは在りませんでした。

 確認した所、6層で魔物が増えていました。予想より少し早いかもしれません。


 ポリィーも私の部屋にやって来て、直ぐに二人で手分けしてパン生地を用意しながら、挟む具材を作って行きます。

 別の大鍋では作っていた麦焦がしを煮ます。


 パン生地が膨れて来る頃に小分けにしてパンの形を細長く作って、2次発酵を待ちます。

 パンに挟む具材にはパンが焼けた後切れ目に入れて再度焼く物もあります。又パンと一緒に焼く生地に練り込んだ干した果物やチーズもあります。


 ドーナッツのように油で揚げる物もあるので、種類ごとにまとめて焼いて行きます。

 油物やパン焼き窯が使えるのも、ケンドルさんが鍛冶仕事を出来るのも魔道具の空調(エアーコントロール)が有るからです。

 最初は作る事は考えていなかったのですが、本格的に料理を始めるためやケンドルさんが修理だけでなく鍛冶仕事をしたいと言ってきたので作りました。


 色々作っていると直ぐに夜が明けてきた。


 使い魔からの知らせがあったのは私が、麦茶を水筒に入れている時でした。


 使い魔の目を通して見えて来たのは、5層に魔物が侵入した時、5層の魔物の部屋が一斉に開き始め部屋から魔物が一斉に出て来た光景だった。

 それは恐ろしい光景に見えた。ダンジョンの空間を魔物がひしめいて通り過ぎて行くのだ。


 私も命のやり取りを多少とも経験したから、土壇場での覚悟ぐらい有ると思っていた。けど違った。

 私が経験したのは安心して頼れる味方がいたからだった。

 今使い魔の魔力視で見たような群れを成す魔物の行進を一人で見たわけでは無かった。


 カカリ村のダンジョンで襲って来た魔物の数倍多かった。

 私は震える声で今見た光景をポリィーへ知らせた。


 「ポリィー! 5層で部屋の扉が全部開いたぁ」声が悲鳴のように甲高くなってしまった。


 「魔物が暴走しているの?」ポリィーは来る者が来たと思ったのか、顔が強張っている。


 「いえまだよ 今は部屋から魔物が出てきているだけ」

 「だけど、通路は直ぐにでも魔物でいっぱいになるわ」

 「暴走が始まるかもしれない!」


 来る者が来たと思うと、体が震える様に怖い。

 使い魔に魔物がどこまで居るのか下の層まで見に行かせた。魔物がどのくらい多いのか気になって仕方が無かったのだ。


 「直ぐ知らせましょう」ポリィーの声は何時もと変わらない声だった。


 ポリィーが食料を個別に分けて包み始めた。


 「食料は出来ているから、皆に配りましょう」


 ポリィーがいつもと変わらない言葉で、今出来る事を言う。私も今できる事をしなければ。


 「はい」返事が震えていた様な気がする。


 使い魔から知らせがあった。魔物が居たのは7,6、5層だった。

 7層には中級の魔物が居た。他は全て下級だった。

 8層と9層と10層にはいなかったので引き返したらしい。

 私は引き続き魔物の先頭を見張る様に言った。


 個別に包んだ食料と水筒を手分けして持ち出す。

 部屋から出て、テントの中に出た。ポリィーはケンドルさんにも声を掛けている。

 私はテントから出て、部屋の長椅子で寝ているダルトさんとアントさんに声を掛けた。


 「ダルトさん! アントさん!」

 「5層で部屋が一斉に開いたの、暴走が始まるかもしれないわ」


 声が裏返る事無く知らせられて良かった。

 二人は飛び起きると、「今は何時だ?」、「時間は?」と聞いて来た。


 時間は? しまった魔時計を見て無い! パニックになりかけた時。


 「今は昼1時(午前6時)に成ったばかりよ」とポリィーが答えた。


 後ろにはケンドルさんがテントから出て来てた。眠そうだが、武装は既にしてるから徹夜だったのかもしれない。


 ダルトさんとアントさんに用意した食料の包みと水筒を渡す。ケンドルさんにはポリィーが渡しているはず。

 ケンドルさんから矢の束を渡された。私とポリィーには弩の矢が50本づつ4束ある。

 ダルトさんたちには倍の8束ぐらい配っている。

 ケンドルさんは矢を配ると、テントを畳み始めている。


 カー爺が居ないので、「カー爺は?」と聞くと。


 「一度帰って来て、ギルドで打ち合わせを行うと出て行った後、帰って来てない。」とダルトさんが答えてくれた。


 「カー爺を呼んできますか、それともみんなでカー爺の所へ行きますか?」と聞いたけど、時間が無いかもしれないので、カー爺の所へ行った方が良いかもしれない。


 「俺が呼んでくる、カー爺に使い魔の事を何処まで知られて良いか聞いていない。」


 と言ってアントさんが部屋を出て行った。

 確かに、使い魔からの報告を使い魔の事を言わずに報告しても信用されないよねきっと。

 私も魔物との闘いを前に、トイレに行く事にした。怖かったので、少しちびっていたのは内緒だ。


 着替えて部屋に戻って来た時は、アントさんが戻って来ていて、「カー爺が皆に会議室に来るようにだってさ。」と言っているのが聞こえた。


 アントさんには新たな指示が無かったようなので、基本の魔女の魔法(スキル)で行くのだろう。


 カー爺が居るのは、同じ通路の1号室と書かれた会議室だった。扉の前にはギルドの警備職が二人立って居る。

 アントさんが知らせたからか、何も言われずに中へ入る事が出来た。


 会議室の中はコの字型にテーブルを置き、其処にカー爺を始め6人の人が座っていた。


 「良し、来たな魔女っ子、今の魔物の動きを教えてくれ。」と紹介も無くいきなり話す様に言われてしまった。しかも魔女っ子だって、魔女として行動しろって事ね。


 コックリと頷いて話し始めた。もう平常心を取り戻したと思います。

 落ち着いて話始めました。


 「スタンビードは5層から4層へと速さを増して移動しています」

 「5層の部屋の扉は全て開いています、4層はまだ開いていません」


 私が報告すると、どよめきが起こった。正面に座るお腹の出た太目の男が言った。「それは今の事なのかね、それとも連絡があっての情報なのかな?」


 カー爺を見ると、黙って座ったままです。使い魔の事は言わずに基本の対応をする方針のままです。


 「魔女の魔法(スキル)で知った今現在の様子です」

 「現在、7層と6層、それに5層が魔物で満ちています」


 座っている人たちを見ると、驚きの表情以外に好奇心が顔に出ている人もいます。

 魔女が珍しいのかな?


 「魔物の種類は、ここのダンジョンの下級の魔物がほとんどですが、中級の魔物がスタンビードの最後に居ました」

 「ですが、中級の魔物は数が少ないです 8層と9層と10層には魔物は居ません」


 「中級の魔物だと?」

 「その魔物は何だね?」とまたもや中央の男が聞いた。ギルドの一番偉い人なのかな?


 「7級のサンドワームの群れと7級の杖持ちゴブリンが率いている集団が複数です」

 「恐らく杖持ちは魔法(スキル)を使うと思われます」


 カカリ村で経験した杖持ちの事が頭に浮かぶ。

 これらの魔物がスタンビードの最後に出て来るのだろう。


 7級の魔物の情報は使い魔が数コル前に見て来た情報だから、少し前の事になる。


 椅子に座った人達が話し合っていたが、話が纏まったみたいだ。

 またもや中央の男の人が、立ち上がって言った。


 「傭兵ギルドミンストネル国支部長アサイアス・ザイオンの名で、傭兵ギルド規約の第3条による傭兵ギルド会員への緊急対応時の命令権を発動する。」

 「傭兵ギルドに待機している探索者全員に出動命令を出す。」

 「目標はダンジョン城塞地下防御坑での防衛戦だ。」

 「儂も衛兵長と協議した後、地下防御坑で防衛戦の指揮を執る。」

 「出動せよ。」


 やっぱりギルド長だった。彼の号令でこの部屋に居る人達が一斉に動き出した。

 恐らく今の命令を各部署で待機している人たちへ伝えに行くのだろう。


 人の移動に紛れて、カー爺に食料の包みと水筒を渡す。ケンドルさんもボウガンの矢の束を渡した。

 しばらくすると、部屋の中はギルド長と私たち”緑の枝葉”だけに成った。


 「カー殿と”緑の枝葉”は儂と一緒に行動してくれ。」


 「分かった。」カー爺がゆっくりと答えた。


 ギルド長とカー爺を先頭に、部屋を出て通路からギルドの表へと出て衛兵の詰めている正面の正門へと向かう。


 もう直ぐ正門に着く頃で、ダンジョン4層の扉が一斉に開いた。魔物が4層迄侵入し始めたのだ。

 魔物は部屋から出て来た魔物と合流して益々密度を過密化させ、見ている使い魔の魔力視から見ても興奮して来ている様に見える。


 「カー爺、4層の部屋の扉が全て開いた!」

 「魔物が興奮してます 暴走が始まりそうです!!」


 「ふむ アサイアス・ギルド長、衛兵長には知らせるだけにして。」

 「直ぐにでも我々は地下の現場へ行きましょう。」


 カー爺がギルド長を見て、時間が無さそうなのに静かに言った。


 「何だと! そうか! 急ぐぞ。」逆にギルド長の方が焦って、衛兵の詰所へ向かって走り出した。


 私たちも遅れ時と走って付いて行く。


 衛兵の詰所の中にもスタンビードに備えて衛兵さんの姿が多い。

 ギルド長が飛び込んだ扉は開け放たれていて、中に大勢の人がいるのが見える。


 「傭兵ギルドのアサイアスだ。」

 「スタンビードの先頭がそろそろ現れそうだと言う事を報告に来た。」


 「アサイアス、それはどうゆう事だ?」と、これまた奥の机の前に立っている大男が質問した。


 次回は、スタンビード戦が始まる。

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