第50話・2 スタンビード戦(2)
スタンビード防衛戦を翌日にダンジョン城塞では多くの人が夜を徹して働いている。
ダルトさんの声が聞こえて来た。
「ポリィー、マリィー、ケンドルー 聞こえてたら返事をくれ。」
通気のため部屋の出入り口を少し開けているのでダルトさんの声は良く聞こえた。
私の部屋へ戻って来ていたポリィーも、「「はーい」」と返事をしたので声が重なった。
ケンドルさんは鍛冶でもしているのか聞こえていない様だ。
返事をした後、通路へ出た。後ろからポリィーも続けて出て来た。
「ギルドとの話し合いは終わった?」ポリィーがダルトさんに気がかりだったのだろう出て直ぐに聞いている。
「ほとんどカー爺の言っていた通りになったよ。」
「傭兵ギルド会員で緊急依頼に参加する人は地下階の穴の上で防衛戦に参加する事になった。」
「衛兵隊からもスタンビード防衛に協力要請が来てたよ。」
「私たち以外からのスタンビードの情報は来てるの?」ポリィーは自分の発言が今回の騒ぎの発端になっているので、他の情報が気になるのだろう。
「ギルドに協力を要請してきた衛兵隊の情報に、探索者から8層で9層からの魔物が出て来るのを見た、と連絡があったよ。」
「恐らく8層でベロシニアたちに雇われていた探索者たちだと思う。」
「今の所、その1件だけのようだね。」
「そうね、8層で魔物を見たのが昼9時(午後2時)位だったから、足の速い探索者が知らせてきたようね。」
8層から地上まで8から10ワーク(12㎞から15㎞)位が最短距離だろう。障害物の少ない壁際を来ても2ワーク(3㎞)増えるぐらいだろう。
足の速い人が急げば、休憩を入れても2刻(4時間)、実際は障害物(魔物)などを避けて来るからもう4コル(1時間)増えるぐらいになるかも。
報告があってからギルドへ報告が回って来るまで時間が掛かるから、3刻たった夜4時(午後8時)ぐらいで計算が合うのかな?
今頃は続々と知らせを受けた探索者たちが引き上げて来ているだろう。夜だからダンジョンに入っている人も少ないだろうし、6層、7層の泊まり込みの人たちが帰れば、全員引き上げた事になると思う。
食事を作る前、使い魔をスタンビードを見張るためダンジョンへ送っている。
その時は8層全体に魔物が居たけど、密度は低かった。
1刻(2時間)たった今、7層の8層への入り口前の草原まで魔物が出て来ている。8層を魔物で満たすまでに間引きから4刻(8時間)ぐらい時間が掛かっている。
間引きした事で、どれだけ時間が稼げたのか分からないけど、仮に半分の2刻(4時間)なら7層から5層へ出て来るのは4刻先、昼1時(午前6時)ぐらいだろう。
上の層になるほど空間は小さくなるけど、層を魔物で満たしながら地上に現れるのなら、明日の昼7前(午前中)でも昼近くになりそう。
ただし、油断はできない、5層からダンジョンの作りが大きく違うのだ。
今の様な魔物が出現しながら集団を大きくして一塊になっている状態から、足の速い魔物が暴走を始めるかもしれない。
それでも、地上へ出て来るのは明日の日が昇ってからだと思われる。
冬の今頃の天気は、寒くて風も強い仮に雨なら雪になると思う。私の勘だけど晴れる気がする。
だいたい現状が分かったので、食事を何処で取るのか聞いた。
「みんなの食事はもうできてるけど、どこで食べるの?」
「その事も聞いて来てるよ。」
「クラン”緑の枝葉”には、スタンビードが明日ぐらいだからギルド内に居て欲しいとさ。」
「ギルドの1階奥に会議室を提供してくれてるから、そこで食事や休憩をしてくれとさ。」
「どうやらスタンビードの後も検証のためしばらくいてほしいそうだ ギルドが宿泊所を用意すると言って来ている。」
「と言う事は、今日は傭兵ギルドの会議室で仮眠するって事ね」ポリィーもあまり歓迎して無さそうね。場所が何処でも各自の部屋で寝るので関係無いとは思うけど。
時間も遅いし、皆もお腹が空いているだろうから、早く移動しよう。
使い魔からの情報も知らせたいし、明日は早いから食べたら直ぐに寝たい。
ポリィーが魔力視を使ってケンドルさんの部屋の出入り口を探して、中に首を入れてケンドルさんに今の事を伝えている。
しばらくしてケンドルさんも外へ出て来た。
待機組が揃ったので、ダルトさんを入れた4人でギルドの中へ入った。
ギルド内は夜4時(午後9時)を過ぎているのに、大勢の人でごった返していた。此処に居る人達は、いつ来るか分からないスタンビードの特別依頼に応じる人達か、スタンビードの情報を聞きに来た人たちなんだろう。
職員の人は応援が来たのか人が多い様な気がする。あ、クランの登録をした時の受付の人がいた。
やっぱり、表の傭兵ギルドから職員が応援に来てるようね。
ダルトさんに案内されて、ギルドの奥へとやって来た。まだ廊下は続いているけど、ダルトさんは扉の一つで止まった。
「此処が私たちが仮眠室にする、会議室だよ。」3号室と書いて在る扉を開けながら教えてくれた。
中にはカー爺とアントさんが長椅子に座って話し合っていた。
「よう待たせたな、腹が空いて待ち遠しかったわい。」カー爺がこちらを向いて空腹を訴える。
話は後にして、空腹を満たさなきゃ。
長椅子が2つテーブルを挟んで置いてある。椅子が足りないので部屋から椅子を2つ出して私とポリィーの座る分にした。二人でテーブルに料理を出して行く。
出した側から食べ始め、私も皆のお代わりに対応しながら食事をする。
慌ただしい食事に成ったけど、カー爺は食事が済めば又ギルドの会議に出なければならないそうだ。
「どうにも、スタンビードの経験者として知恵を貸してくれと頼まれたんじゃ。」とまんざらでは無い顔をしている。
「それとな、儂が接触した魔力視の出来る奴はミンストの影の頭じゃった。」
「儂からの提案に乗るかどうかは奴の上司と相談してからとなる。」
「提案に乗るなら、魔女がスタンビードで手助しても良いと言ってある。」
そこで一端言葉を止め、皆を見回した。
「詳しくは、スタンビードが終わったら話すが、魔女として協力する以上、能力の一端は見せる事になる。」
「何が出来て何が出来無いかは知られないようにな。」
「必要な時は魔女の魔法じゃと言うんじゃぞ、いいな。」と私とポリィーを見て言った。
私とポリィーは深く頷いた。
「儂からは以上じゃ、スタンビードは今どうなっとるか分かるか?」
と聞いて来たので。使い魔の情報をカー爺に伝える事にした。
「見張り始めた時は8層には魔物が半分ぐらいだったけど」
「一刻(2時間)たった今は、魔物の先頭は7層へ到達したところよ」
「今の所1つの層に魔物が満ちてから、次の層へ移動を始めるみたい」
私の報告で、カー爺が計算してるのか少し考え込んだ。
「最初の魔物の移動をマリィーが倒してくれたからだいぶ時間が稼げたようじゃな。」
「だが、5層からの魔物の部屋がスタンビードで開くかもしれん。」
「昔のスタンビードの話には全ての魔物が地上へ出て来て、ダンジョンの中はもぬけの空になったと書いて在るそうじゃ。」
「引き続き使い魔で見張って居てくれ。」
「うん、私が寝ていても使い魔は見張ってくれてるわ」
「変化があれば知らせられるかの?」
「大丈夫です、使い魔の知らせがあれば起きれるから」
「わかった、頼んだぞ。」
「儂はこれからギルドの幹部と衛兵の詰所で会議じゃ。」
カー爺がそう言いながら、剣をケンドルさんが研いできた物に替えて研ぎ具合を確認した。
ケンドルさんに頷くと、ケンドルさんも満足そうだ。
「ダルトとアントは長椅子で仮眠するように。」
「部屋の隅にテントを張って残りのみんなは中で寝てると思わせるようにな。」
そう言うとカー爺はドアから出て行った。
次回は、朝から大忙しの様子とスタンビードの様子です。




