第50話・1 スタンビード戦(1)
スタンビードの魔物との戦の前に準備に奔走する。
今日の夕食は暖かい物を食べれるように、野菜やジャガイモとソーセージを煮込んだポトフ風にしました。デザートにダンジョン産のアップルパイ付きです。
食後はカー爺たちがお酒を飲むのか分からないけど、干し肉に加工する時、塩以外に酢や砂糖に胡椒で味付けした物を用意しています。
明日一日はゆっくりと食事をする暇は無いだろうから、簡単に手で掴んで食べれるような細長いパンにします。
明日は早起きして、パンを焼きます。先ほどパンの具材に成る、肉の仕込みや野菜の下ごしらえが終わったところです。
手で掴める大きさのパンにするつもりなので、縦に切れ込みを入れて挟むパンサンド用の具材を用意しています。
他にも生地に練り込む、干した果物やチーズなども用意してます。
昨日と今日ダンジョンで採取した果物から、水分を抜いて乾燥ブドウやリンゴ、クルミ等々たくさん作りました。
水分を抜くのは錬金の水分調整で水分を適度に残して脱水し、日干しの様な風味を残して脱水しています。
ソーセージを丸ごと1本挟んで玉ねぎを炒めた物とマスタードを効かせたパンサンドも男性陣からの要望が強いので作る予定です。
長いスタンビード戦を考えて、甘いドーナッツも棒状にして作ります、
私とポリィーとケンドルさんの三人は、ギルド買取所の横のダンジョン城塞との間の通路で各自の部屋に入って、作業をしています。
明日は夜食も必要かもしれないので、今日と明日は、大量の食事と飲み物の準備をポリィーと一緒に作ります。
今は、今日の夕食の用意が終わり、明日のための麦焦がしの作成中です。
明日はこれを大きな鍋で煮込んで麦茶にして、各自の水筒に入れられるように用意します。
いつの間にか手際が良くなっている事に驚きました。戦いの前なのに普段と変わりなく動けて、だいぶ慣れた気がします。
ポリィーは私と一緒に料理を作った後、私の部屋からマイセル君のお世話で自分の部屋へ行っています。
ケンドルさんは自分の部屋で武器の手入れと矢の作成です。後でポリィーが夕食を差し入れるそうです。
カー爺とダルトさんとアントさんは傭兵ギルドの買取所へ、スタンビードの説明で行っています。
4コル(1時間)ほど前ですが。
カー爺たちがギルドへ行く前、簡単な今後の行動について打ち合わせをしました。
「これから打ち合わせを始める。」と言って、カー爺が話し始めた。
「儂らもそうじゃが、傭兵ギルドもミンストネル国さえ神の恩寵型ダンジョンからのスタンビードに対処した経験は無い。」
「神聖同盟の国の中には昔経験した事も在ると聞いとるが、儂も詳しくは知らん。」
いきなりカー爺の不安を煽る話に、お腹が痛くなりそうです。
「では、今回のスタンビードの対応は手探りで行うのですか?」ダルトさんが心配そうに聞きます。
「心配せんでも良い、対処の方法が分からんわけじゃあ無い。」
そう言ってカー爺が笑った。
「今回の規模と比べると小規模じゃが、森ダンジョンのスタンビードで戦った事が儂には在る。」
カー爺の自信ありげな笑い顔に皆も少し入っていた力が抜けた様だ。私も安心したのか、まだ夕食を食べて無い事を思い出した。
「オウミの国にも闇の森ダンジョンがあるのは知っとるじゃろ。」
「闇の森ダンジョンのスタンビードに巻き込まれた事があるのじゃ。」
「まだ若いころじゃったが、ホレツァの町の北にナツェレノッケと言う村がある。」
「闇の森ダンジョンにオウミの国で一番近い村じゃ。」
「当時は村の先にミョウバン鉱山があっての、鉱山村が在ったんじゃ。」
「そこに森が騒がしいと知らせがあり、国から調べに行かされたんじゃよ。」
嫌な思い出だったようで、カー爺の顔が悲しそうだった。
「鉱山村に着いた途端に魔物が押し寄せて来たわ。」
「夢中で戦ったが、魔物を倒しても倒しても新手が押し寄せて来ての、皆逃げ出したんじゃ。」
「じゃが後を追って来たもんじゃから、鉱山へ続く山道の途中で迎え撃つ事にしたんじゃ。」
「ナツェレノッケ村まで来られてはたまらんからの。」
ふと、カー爺が空を見た。
「三日三晩戦い続けたんじゃ。」
「魔物は最後の一匹まで戦いから逃げなんだ。」
「まっ それだけじゃが、良い教訓になった。」
「儂が巻き込まれたのは森ダンジョンのスタンビードで間違いないじゃろう。」
カー爺が一端話を止めて、水筒のハーブティーを飲みました。
私が生まれた洞窟はミョウバン鉱山跡でしたが、村の跡など何処にも無かったと思う。
でも、鉱山村があったのでしょう。何か因縁めいたカー爺の話でした。
カー爺の経験した話は、恐らく闇の森ダンジョンが作った子ダンジョンへ向かって周辺の魔物が起こしたスタンビードの事を言っているのでしょう。
子ダンジョンのコアが”ダンジョンコアの成かけ”なのですが、私がダンジョンコアの代わりに集めようと思っている物なのです。
カー爺の話が続きます。
「森ダンジョンの魔物が一か所に集まって来る様子が、今日見たスタンビードとそっくりじゃ。」
「対処は一つしか無い、魔物の殲滅じゃ。」
「スタンビードがいったん起これば魔物を殲滅するまで止まらんのが厄介な所じゃ。」
「魔物が集まるのか、出て行くのかの違いはあるが、狂乱した魔物が波のように何度も襲って来る点は、変わらん。」
「カー爺さん、魔物をやっつけ無いと止まらないのは分かったが、ギルドは如何する?」
アントさんがこれから行くギルドとの話し合いが心配なようです。
「心配せんでも良い、此の城塞の作りは魔物のスタンビードへの対処を考えた作りに成っとる。」
「スタンビードの経験は無くとも、魔物との闘いは探索者には日常の事じゃ。」
「地下1階にある大きな穴の周りで、魔物を四方から弓や魔術で攻撃するのじゃ。」
「這い上がって来た魔物は剣や槍で突き落とせば良い。」
ミンストネル国で初めて用意周到な場所を知りました。山賊にしろ商人や門番の衛兵もその場さえしのげれば、後はどうなろうと関係ないとでも言いたげな対応でしたから。
「傭兵ギルドはギルド会員にしか緊急時の命令権は無いのじゃから、スタンビードへの対応は衛兵が主体となって動く事になるじゃろう。」
「傭兵ギルドも儂らも穴の周りで魔物を倒すだけじゃよ。」
「カー爺それでは、私たちは他の探索者と並んで魔物に対処するだけで良いのですか?」
ダルトさんがホントにそれだけで良いのかと、疑問に思ったのでしょう、カー爺を問いただします。
私もカー爺が傭兵を指揮して魔物に対峙するのだと思っていました。
「此処はミンストネル国じゃ、儂らの国では無い。」
「とは言っても、儂もこの国に共闘の提案をしておる。」
カー殿が悪だくみをする時の顔で笑みを浮かべた。
私はその顔を見て、間違いなくミンストネル国の誰かが泣く事になるだろうと確信した。
「ポリィーとマリィーは遠距離攻撃の主力になって貰う事になるじゃろう。」
「今回は遠慮はいらん、思う存分実力を発揮して貰いたい。」
「ほんと? 良いのカー爺?」配慮も遠慮も無い、本来の実力を出して良いのだろうか?
「この国、延いては神聖同盟の国々に魔女の実力を分からせたいから、遠慮何ぞ捨てて完膚無きまで蹂躙してくれ。」
カー爺からのお墨付きで魔物への蹂躙許可が下りました。少し武者震いがして興奮してきました。
何の魔術を使おう? 魔力マシマシの火球とか、氷槍を散弾で撃ち出すとか。
そうだ! インフェルノがあった。
闇魔術師に煽られて、ダンジョンコアの部屋で行使してしまう所だった。あれならダンジョン城塞の地下1階にある穴の中の魔物ぐらい1発で殲滅できるだろう。
それともワイバーンのブレスを真似た、・・・ッ!。
「ミャッ!」頭に衝撃があった。
ポリィーが後ろに居た、手を勢い良く振り下ろしてます。
頭が痛いので、ポリィーに頭を叩かれた?
「マリィーは魔力が漏れてるわよ、何を考えているのかしら?」
ポリィーが怖い良い顔をして私の頭を叩いた手を再び上へと上げています。
少し魔術の行使を夢見てハイになっていたのかもしれない。
「ごめんなさい、少し攻撃魔術の事を考えていました」怖い良い顔のポリィーには逆らえません。
「カー爺もマリィーを煽らないでください、今のように自重が効かないと災害級の魔術を行使してしまいますよ!!」
ポリィーがめったに無いほどカー爺に怒っています。ダルトさんもアントさんもカー爺からジリジリと距離を取って離れます。
カー爺も怒れるポリィーには敵いません、直ぐに降参しました。
「すまんすまん、神聖同盟の奴らに思い知らせたかっただけじゃ。」
「魔物以外への被害は出さんようにな、頼んだぞ。」
私を見ながら言ってきたのでコックリと頷いた。カー爺も気を取り直して続けた。
「これから、儂とダルトとアントで、ギルドと話し合う。」
「ケンドルとポリィーにマリィーは戦の用意をしてくれ、ポリィーとマリィーは明日一日分の食べ物をケンドルは矢を沢山作ってくれ、それから剣の手入れも頼む。」
「分かりましただ、矢は沢山作っておきますだ。」
ケンドルさんの表情は何時もと変わらないようですが、目がキラキラして張り切っているようです。
カー爺はケンドルさんに頷くと、自分の部屋から予備の剣を出して今佩いている剣をケンドルさんへ渡した。ダルトさんもアントさんも同じようにケンドルさんに剣の手入れを頼む様だ。
予備の剣を腰に佩くと、3人で傭兵ギルドへと向かった。
私たちも各自の部屋へと入った。
ポリィーはマイセル君を見に行った後私の部屋へ来ました。
麦焦がしも出来ましたし、今日の所は食事の後の片付けぐらいですね。
そろそろ、カー爺から何らかの知らせがあるでしょう。
次回は、スタンビード戦への配置と戦闘の始まり。




