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小さなエルフの子 マーヤ  作者: 迷子のハッチ
第2章 神聖同盟の国々
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第49話 (閑話)傭兵ギルド買取所

 ダンジョン城塞内にある傭兵ギルドの買取専用の出張所での出来事です。

 受付のミーシャは後4コル(1時間)で終わる業務の買取窓口で退屈して誰か来ないか入り口を見ていた。


 傭兵ギルドがダンジョン城塞の中に買取専用の出張所を出したのは、今年の春ごろだった。

 ミンストではダンジョンの収穫物は穀物などの食品が多く、買取も専用商人が多くいる。傭兵ギルドはこれまでは指をくわえて見ているだけだった。


 傭兵ギルドが設立され、ダンジョンへの切符を代理で扱える事になってから長年の夢だった買い取り業務の許可が下りたのは、ロマナム国とオウミ国の戦争が一段落したからだ。


 戦争に負けたロマナム国から神聖同盟の盟主の座をミンストネル国が奪うための一つの手段だった。

 ダキエのエルフへ魅力の大きな物の捜査を積極的に行う姿勢を示そうと画策したのが理由だ。


 傭兵ギルドとしても買取は美味しい収入源に成ると思い力を入れた。

 しかし、穀物の買取には取り扱いに慣れた人と倉庫などの設備が必要だった。傭兵ギルドには扱いずらい品物だったのだ。


 探索者たちも買い取りを求めたのは魔石が主だった。魔石なら傭兵ギルドでの取り扱いの経験が豊富で他の商人に比べ販売先も多い。


 結局出張所で買い取る物は魔石と食品以外の角や牙などの魔物の落とす物が主になった。


 入り口から男女3人組の探索者が入って来た。一人は荷運人で、大きな背嚢を2つ持っている。

 男女の2人は何処かの探索者たちから換金のために使いに出されたのだろう。二人共若い下っ端じゃあないかな。


 ミーシャは受付から入って来た3人を評価してそう思った。3人はミーシャの前までやってきた。


 「いらっしゃい、買取ですか?」いつもの業務用笑顔で彼らを迎える。


 先頭を歩いて来た男が答えた。


 「ああ、買取を頼む。」


 そう言って一番後ろの荷物持ちの男へ合図すると、荷物持ちの男が背嚢を2つ、ドスドスと重たい音をさせながら受付のテーブルに置いた。


 何時もながらの匂いの染みついた背嚢とは違い、革製で作りもしっかりとした物でよく手入れされている。荷運び人でも探索者の仲間かも知れない。

 ミーシャは3人の防具などを確認しながら、背嚢の中身を確認して行った。


 背嚢の一つには小分けされた袋毎に魔石がびっしりと入っていた。もう一つには角や牙と毛皮などの魔物の落とす物が結構入っている。

 金額の査定には手助けが必要だと判断して、手の空いている職員を呼び寄せた。


 買取の査定は探索者へ見えるようにして行う。たいていの探索者は買取に出す前におおよその買取金額を自分たちで行っていて、買い取る方が見落としや誤魔化しが無いか見張って居る。


 なので、魔石なら初級でも魔物の級ごとに何個あるかぐらいは先に調べている。牙などの魔物が落とす物も、基本魔物の種類より、どの級の魔物が落としたのかが買い取り金額の違いになる。


 近年魔石の買取は初級の10級や9級の価値が上がり、大量の魔石がオウミ国へと流れて行く。噂では魔女の薬の原料となるらしい。

 魔石が全般的に値上がりしてるのは事実なので、噂も真実味があるのではとミーシャも思っている。


 彼らが持ち込んだ魔石は級ごとに小袋に入れられ、個数を数えるだけで査定は終わりそうだ。

 落とし物の方も級ごとにまとめて縛られていたので査定しやすそうだ。


 だけど魔石の袋を一つ開けて中の個数と級を調べようとして、おかしな事に気がついた。


 「傭兵ギルドの札を確認させてください」


 「そうだね、はい、これだよ。」と若い男が札を差し出してきた。


 札にはギルドランク7級、クラン”緑の枝葉”アントと刻印されていた。

 後は傭兵番号と登録したギルド番号に日付などの管理用の情報だ。

 受付の書付に内容を書き写す。


 「ありがとう、アントさん」

 「お聞きしたい事があります」

 「この袋の魔石ですが、中級の魔石だと思われます」

 「10層以下へ行かれたのでしょうか?」


 「あっそうか、中級の魔石だったよね。」なんだか失敗したかの如く顔を顰めています。


 「8層で出会った魔物から出た物よ!」いきなり女の探索者が割り込んで来た。


 「8層ですか?」


 8層までなら初級の8か9級の魔物しか出ないと思う。

 中級の7級が出るはずないのだ。どう見ても袋の中の魔石は大きくて初級では無い。

 不思議そうな顔をしていたのを見られたのか、女の探索者が言い放った。


 「9層から魔物が8層へ上がって来たのよ」

 「その中に中級の魔物が居たのよ!」


 女の探索者が断言した。9層の魔物が8層へ上がって来た?

 訳が分からない。魔物は普段層を移動しない事は良く知られている。

 層を移動する場合は、ダンジョンスタンビードの時だ・・・・・・!!!


 「えええ!!!」ミーシャは思わず声を上げていた。


 「そうよ! スタンビードが発生したのよ!!」


 その声は傭兵ギルド中に響き渡った。


 「あーあ、先に言っちゃった、査定の終わった後に言えばよかったのに。」


 アントと名乗る探索者がのんびりとした声で言ったけど、ミーシャの耳には入らなかった。


 7級の魔石が入った袋を握りしめ、買取所の責任者、ダスティン副ギルド長の部屋へ駆け込んだ。


 「ダスティンさん、たいへんです!! スタンビードです!!!」大声で知らせた。


 「なんだ? ミーシャドアを開けるならノックぐらいしなさい。」


 ダスティン副ギルド長があっけに取られてミーシャを見た。


 「そんな事より、スタンビードです! スタンビードが発生したんです!!」


 やっとミーシャが叫ぶスタンビードが発生したと言う内容が耳に入ったのかダスティン副ギルド長が椅子から立ち上がった。


 「そんな馬鹿な! いったいなんでスタンビード何ぞ言い出した?」


 信じられない言葉に副ギルド長がミーシャを問い詰めた。


 「これを見て下さい」と握りしめていた袋を突き出す。


 「なんだ? 魔石じゃないか?」袋の中身を見ながら不思議そうに聞き返す。


 「なんだじゃありません! その魔石をよく見て下さい、7級の魔石ですよ!」


 ミーシャも少し落ち着いて来たのか声が少し小さくなった。


 「ふむ、魔石の級とな?」

 「確かにこれは7級の魔石じゃな、袋一杯あるが、誰ぞ10層越えをした探索者が居るのか?」


 まだ落ち着いて魔石を調べている副ギルド長に焦れたミーシャが吠えた。


 「8層で9層がらやってきた魔物から出たんです!!!」


 「なんじゃと8層で9層から・・・?」

 「それは本当か!!」


 「買取に来た探索者から聞きました。」


 「わかった、私が聞きに行こう。」


 そう言うとダスティン副ギルド長は、ミーシャを連れて買取の窓口に居た探索者たちの元へと向かった。


 買取窓口の前では、騒ぎが起きて居た。幸い時間が遅いのでギルドに居た人数は多く無かった。

 それでもスタンビードの話は探索者だけでなくギルドの職員も戸惑っているようで、だれかれと無く声を張り上げて喋っている。


 「静かに、此の買取所の長をしているダスティン副ギルド長だ。」

 「スタンビードの話を持って来た探索者は誰だ。」


 「クラン”緑の枝葉”、ランク7級のアントだ。」

 「同じくクラン”緑の枝葉”、ランク8級のポリィーです」

 「クラン”緑の枝葉”、ランク10級のケンドルだす。」


 「そうか、スタンビードを確認したのか聞きたい。」


 ポリィーと名乗った女の探索者が発言した。


 「間違い無いでしょう、8層の9層への降り口から魔物が出てきましたから」


 「この魔石が出て来た魔物の魔石だと言うのか?」と魔石の入った袋を高く上げて振った。


 「はい、8層に出て来た魔物は倒しました」

 「第1波は倒しましたが、スタンビードの波はまだ続くはずです」


 アントと名乗った男もポリィーの後に発言した。

 「私たち以外に、6層へ避難した探索者がいますから、もう直ぐダンジョンから引き上げて来るでしょう。」


 「そうか、ミンストレル国の傭兵ギルドはスタンビードを経験した事が無い。」

 「が、話を聞く限り、スタンビードであろう。」


 「私の権限で、スタンビードを宣言しよう。」

 「クラン”緑の枝葉”には、スタンビード報告の一報を知らせた事で、傭兵ギルドでより詳しく事情聴取をして貰う事になる。」

 「さらに、君たちは非常事態における緊急対応の強制対象者となった。」


 ”緑の枝葉”の3人を見て言った。そしてギルドに居る探索者たちへと顔を向け次の言葉を言う。


 「緊急対応の対象者は、この話を聞いた全員へも適用される」

 「傭兵ギルドはこの事態に参加してくれる者へ特別報酬を支払う。」

 「緊急対応の対象者は、参加した傭兵ギルド会員全員だ。」


 「外で待って居る仲間に知らせに行っても良いですか?」アントと名乗った男が聞いて来た。


 「それは構わんが、早く帰って来てくれ。」


 買取の途中だから魔石や収穫物はテーブルの上に置いてある。それらを置いて逃げ出しはしないだろう。仲間を呼びに出る事を許可した。


 彼ら”緑の枝葉”の3人がギルドの外へと出て行った。

 同じように外へと知らせに行くのか、探索者の何人かが外へと出て行った。


 このミンストレル国傭兵ギルド始まって以来初めてのスタンビードだ。どうすれば良いのか戸惑ってしまう。


 ダスティン副ギルド長はこれからの対応に苦慮するのだった。


 次回は、スタンビード戦が数話続きます。

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