第45話・1 ダンジョンコアの部屋(1)
スタンビードの出鼻を挫き時間稼が出来たマーヤたちはコアの部屋へ急ぐ。
笑い猫の闇隠で一気に最下層まで降りていった。
最下層は49層で、ボスは2級のファイアードラゴンだったけど、スルーしてダンジョンコアが有る更に一つ下の層まで一気に到達した。
最下層のさらに下の層にあるダンジョンコアの部屋は、カカリ村と似た作りだった。
49層のどこかから繋がっていると思われる下り階段から繋がる廊下。その廊下の先にあるコアを象ったレリーフを真ん中に据えたドア。
両開きのドアはレリーフを真ん中から左右に押し広げる作りになっている。
私たちはカー爺が予想した、戦いになってもベロシニアと闇魔術師は早めに逃げるだろう。
との判断を基に、両開きのドアから中へ入る事にした。
笑い猫の闇隠から出て、戦いの準備をする。準備と言っても各自の装備や備品の確認をするだけだ。
「良し、準備は良いか?」
と皆を見回し、確認を終えた皆が頷くのを見て。
「行くぞ!」カー爺がドアに手を掛け、押し広げた。
ドアをカー爺が開くと、私は素早く私を中心に全員を余裕で入れた光の結界を唱えた。
『わが身に宿る聖なる光よ、皆を守り、助ける壁と成れ!』
「聖光」新しく作った、円柱形の結界です。
あけ放たれたドアの先に広い部屋が在った。奥の壁際に一団と高い場所が在り、床から生えたような台の上にダンジョンコアが在った。
闇魔術師と眷属の三人が前に並びその後ろにベロシニアたち7人が居た。女性は3人いたが母は居なかった。
闇魔術師と眷属二人、その後ろのベロシニアと家人たちは虚ろな顔をしているので、闇魔術師に洗脳されているのは明らかだった。
母に成りすましていたのは、3人居る女性の内で貴族の服装をしている人だろう。
母と似ているのは、髪と目の色と細身で背も高くない事ぐらいだ。他は全然似ていない。
前に居る闇魔術師が顔を歪めているけど、どうやら笑い顔の様だ。
「良くやってきたな、マーヤニラエル、そしてあの時のカカリ村の奴らめ!」
私たちを睨みつける顔からは憎々しい思いが伝わってくる。視線から特に私は恨まれている様だ。
「此処に来るまでにスタンビードに合わなかったかな?」
やっぱり此奴らがスタンビードを起こしたんだ。そう私が思った事が顔に出たのか。
「ほほう、どうやらスタンビードを見て、慌ててダンジョンコアの部屋へと来たようだな。」
慌てて何てしてないのに、彼は誤解した様だ。
私は別に慌ててはいない、彼らの卑怯な行いに、憤りを感じているだけだ。
「お前は、スタンビードの怖さを知らぬ様だ。」私を指さして言った。
「本格的なスタンビードはミンストの町ぐらい簡単に壊滅されるだけの力があるんだよ。」
そう言って、私をバカにした笑い顔で、睨みつけた。
なんで、私への恨み辛みをそんな事で晴らそうとするのかな?
睨みつけてやったら、それが彼のツボにはまったのか、笑い出した。
「あっはっはぁー、あはははっ、バカな奴だな、マーヤニラエル!」
「お前に思い知らせるためだけにスタンビードを起こしたんだ!!」
闇魔術師に煽られてしまった。それでなくとも母の事で頭に来ているのに、私を出しにしてスタンビードを起こしたと、ほざいたのだ! ふざけている!!
彼奴を火球のデカいのでぶっ飛ばしてやる!!! 私は魔術陣の構築のため詠唱に入った。
『業火よ、炸裂する火球よ、・・・・』、痛!! 、頭を叩かれた。
ポリィーが恐ろしい顔をしてそこに居た。「我慢しなさい!、敵の思うつぼよ」
「おやぁ、お怒りだったかなぁ!」
詠唱の構築で私の周りに強大な魔力で魔術陣が構築されて行く様を見て顔が真っ青になりながらも、まだ私を煽って来る。
後ろの眷属が影隠を出している。私が魔術の行使をする前に逃げ出す積りだった様だ。
闇魔術師達が逃げたら、逃げなくてもだけど、後ろのベロシニアたちとダンジョンコアは消え失せてしまっていただろう。
ポリィーが私を止めてくれてよかった。
私の中にこんな凶暴な怒りが眠っていた事に震え上がった。
ダンジョンコアを失えば、せっかく弱めたスタンビードが元に戻ってしまうし、もっと恐ろしいことも起きてしまう。
「スタンビード何て、ちょっとダンジョンコアをいじれば何時だって起こせるんだよ。」
煽る言葉をつづける様だ。もう私は冷静さを失わない。
「私にかかればこんな物、簡単な事さ。」
私が冷静に聞いているので、煽るのに失敗した事を理解したのか、「つまらんな。」とか言っている。
「所で、此処に来るのが以外に早かったが、休憩したのかね?」
「お前たちがミンストへ入った事ぐらい直ぐに分かったさ。」
「正直、ミンスト到着から三日で此処まで来るとは思っても居なかったよ。」
私たちをバカにする言いざまが続いているけど、いったい何がそんなに面白いのか、さっぱりわからないんだけど?
「ちなみに、私は10層から1度で此のダンジョンコアの部屋へ来れたんだよ。」
「不思議かな? 何故10層から此処50層迄中継ぎ無しで来るような無謀な真似をしたんだろうってな。」
「マーヤニラエル、お前には分かるまい。」
一人で勝手にしゃべり、勝手に私をバカにして、勝手に納得してる。
一人語りで闇魔術師が調子に乗って喋り出した。
次回は、闇魔術師の独演会の続きです。




