第42話 スタンビード(1)
雇われ探索者たちが8層に居た。マーヤ達の対策は?
8層で9層へ降りる入り口の前に広がる平原にベロシニアが雇った探索者たちが待ち構えている事が分かりました。
ポリィーの報告でも、私の空間把握でもベロシニアや闇魔術師はいませんでした。
此処で今後の対応について話し合う事になりました。
ベロシニアが私を待ち伏せする事はダンジョンに入る前から分かっていた事でしたが、どのような手段で襲うのかは予想しかできませんでした。
「これまでで予想しとった中では、10層までに襲って来る。が当たりじゃった様じゃの。」
カー爺が最初に話を切り出した。
「目的と手段の内、目的は明白ですが手段は分かりませんでした。」
ダルトさんが続けて、話し合いの内容を明確にするつもりの様です。
「手段にも、戦略的な物と戦術的な物に分かれますが、戦術的な手段は明白でした。」
「カカリ村のダンジョンで行った。ダンジョンコアを使っての魔物やダンジョンその物を変化させて襲い、マリィーの確保を目指すです。」
この予想は全員一致した予想で、そもそもダンジョンに入った時点でこれ以外に無いでしょう。
「俺が分からねぇのは、カカリ村で負けた連中が、同じ事をしてマリィーに勝てるのかって事だ。」アントさんが納得いかない様子で疑問を投げかけた。
ダルトさんもその点は考えていた様で、直ぐに続けた。
「今回は、ミンストのダンジョンの深さが分からないので魔物も初級以外に中級や上級が出て来てもおかしくありません。」
「特に今回は、スタンビードを起こす事で我々の消耗を狙って来ると思われます。」
私は、雇われた探索者の事が無ければ、最初からダンジョンコアの部屋へと向かったと思う。
「でも、私たちが笑い猫の闇隠に入って、ダンジョンコアの部屋へ行けばスタンビードに合わずにベロシニアの待つダンジョンコアの部屋まで行けますよ」
ダルトさんがダメだし的に「イエ、イエ、イエ」と指を振りながら反論してきました。
「マリィーの力をベロシニアらが、其処まで知っていると思いますか?」
「それに、探索者の行方が分からないとダンジョンコアの部屋へは乗り込めません。」
「数は敵の方が圧倒的に多いのですから。」
「まぁそうじゃが、此方も敵について分からんことが有る。」カー爺がそう言うと、皆も分かっていると頷いた。
私たちは、彼らが雇われた理由には、闇魔術師らの能力に弱点があるのではと疑っています。
その点を確かめるために、私たちは歩いて此処まで来たのです。
カー爺が続けた。
「此処に探索者どもが居るのを知って思う事が在るのじゃ。」
「儂はな、このミンストのダンジョンで奴らがマリィーを手に入れられるとは思っていないかもしれんと思っとるんじゃ。」カー爺が深刻な様子で言った。
「それはどういう事ですか?」
私はカー爺が言う事が、どういう意味か分からなかった。
カー爺は何か懸念がある様な、しわ深い顔を更にしかめながら言った。
「単純にマリィーが強いからじゃよ。」
「カカリ村での戦いで、闇魔術師たちはマリィーに一方的にやられとる。」
「それなのに、戦略として、ここでも同じ戦い方をするとは思えんだけじゃよ。」
「でも、カー爺さんよ、ここのダンジョンなら魔物も中級クラスから上級クラスもいるだろうし、数は力だぜ。」アントさんがカー爺の杞憂を吹き飛ばす様に言い放ちます。
「まさにその事じゃよ。」カー爺は然も在りなんと言葉を続けます。
「スタンビードが起こったとして、儂らがマリィーの使い魔でダンジョンコアの部屋まで行ってしまえば、スタンビードは回避できるはずじゃ。」
「彼らも同じ事を思っとるじゃろう。」
カー爺は、いやな事を私へ言うのをためらうかのように、一息ついた。
「問題は、其処に雇われ探索者が残されていた場合じゃ。」
「え?」訳が分からなかった。雇われ探索者は彼らの仲間のはず。
「探索者たちが居なかったとしても、放置したスタンビードがどうなるか?」
「その先を考えた時、スタンビードは地上へと向かうのは明白。」
「いや、彼らは向かわせるじゃろう。」
「ミンストの町への被害を大きくするためだけにじゃ。」
「でもカー爺、それはベロシニアたちが起こす事なんでしょう?」
「そうじゃよ、だからたちが悪いんじゃ。」
「マリィー、いやマーヤ、儂が懸念するのはマーヤの心じゃ。」
「この先彼らがダンジョンを巡りながらスタンビードを起こして行くとしたら?」
「えっ!!」
「そんな、そんな事するわけ無いわ!」
「だって、だって、大きな被害が出るのよ!!!」
「奴らは、マーヤがその事に耐えられるか、何度繰り返せば降伏して来るか、待っているのじゃ。」
「・・・・・」
「まぁ儂らが、マーヤに降伏なんてさせんがの。」
「その前に奴らを叩きのめすだけじゃ。」
カー爺は懸念は他にも在りそうな、しかめっ面をしてます。母の事だと思います。
なんだか心が締め付けられます。カー爺の顔も涙で歪んで見えます。
「まだ奴らが、スタンビードを起こし、そのまま放置するか決まった訳では無い。」
「それに、奴らが儂の考えた通りの事を仕出かしたとして、儂に考えが有る。」
「マーヤ、儂に任せておくれ、そしてマーヤには仲間が居る事を、決して一人じゃ無い事を覚えておきなさい。」
「;;」涙が出て声が出ないけど、カー爺や皆へ頷いた。
「よし、それじゃあ、今対処する必要が有る、探索者たちの事を話そう。」
「その前に、喋り過ぎた、何か飲むものをくれ。」
手を何か飲むようなしぐさで、カー爺が仕切り直しとばかりに、話を切り替えます。
皆も気が動転しているようです、気持ちを切り替えるために、お茶を出す事にしました。
お茶菓子に干しブドウ入りのクッキーを出す事にしました。
お茶は紅茶を出します。
紅茶の馥郁とした香りに癒されます。紅茶にしてよかった、干しブドウの甘さとクッキーの小麦の香りが上手く合わさり紅茶で口の中から鼻へと広がり、心に巣くった鬱を祓い幸福を感じます。
気持ちを切り替える事が出来て良かった。
カー爺の最後の励ましが無かったら何処までも落ち込んでいたでしょう。
でも、何で今その話をするのでしょう?
疑問が出ますが、直ぐ納得しました。これからスタンビードが起こる事になりそうだからですね。
探索者たちと遭遇する事になりますし、スタンビードをやり過ごすにしても、立ち向かう事になっても気持ちの整理が出来ていた方が良いですから。
しかし、探索者たちが此処8層に全員が居たのは、どんな理由が有るのかです。
私たちの考えた通りなら、闇魔術師の弱点が見えて来ます。
ダンジョンに入る前、ベロシニアらが探索者を大量に雇い入れた理由を考えた時、ある閃きが在りました。
何故あんなに大勢雇う必要が有ったのでしょうか?
ひょっとしたらと考え付いた事が在ります。彼らは闇隠の持続時間が短いのかもしれない。と言う事です。
カカリ村ではダンジョンからベロシニアの住む場所まで移動した可能性がありますが。カカリ村のダンジョンは5層か6層ぐらいの最小のダンジョンでした。
ダンジョン内では移動だけでも魔力が通常より多く必要です。
3人がかりで移動したと考えれば一人一人の移動はもっと短いと考えられます。
つまり、彼らはミンストのダンジョンを一気にダンジョンコアまで潜れない。と考えられるのです。
彼らは、特にエルゲネス国の闇魔術師はエルフの男です。エルフの女性をエロフと蔑む気質の彼らは、とても気位が高いそうです。(ラーファのあくまでも個人的感想です byマーヤ)
私の闇隠の能力は、自分と同じぐらいだと考えている事でしょう。
そうだとすれば、ダンジョンコアの部屋までに何度か休憩する必要が有ると考える事でしょう。
実際彼らが何度休憩する必要が有るのか分かりません。でも、そう考えるとベロシニアが雇った探索者たちの件が説明できるのです。
途中で休息を摂る必要が有るのなら、出来るだけ深い層まで潜ってから闇隠で進み始めると考えて、護衛をする戦力を用意したのだと思います。
初級の魔物が出る限界の10層までの護衛として、雇ったのではないかと考えたわけです。
ダンジョンコアへベロシニアらが移動した後、待ち構えていて邪魔すれば私たちの戦力を削れると、思っているのではないか。
逆に、スタンビードに私たちを巻き込むため、囮として使うためかもしれません。
8層に居たのは7層までは食料採取する探索者が大勢いて、襲えない。
そこで8層の9層への降り口に待ち構えている。
と言う事なんだと思うのです。
次回は、いよいよ探索者たちに会いに行きます。




